見出し画像

BARロッケン 深爪深夜の物語


ビトゥィーン・ザ・シーツ 4P

 今賀園朱鷺が友人の結婚式に参列するために、とある結婚式場へ電車で出かけたのは今朝の事。新婦である友人というのは中学高校と同じ学校に通っていた親友とまではいえないけど今でも年に一度くらいは他の仲間と食事に行くような関係で、ジョーズというあだ名を持っていた。なぜジョーズになったのかはあえてここでは語らない。新郎はというとこれまた高校の同級生でちょっとした顔見知り程度の付き合いはあったけど、街ですれ違っても声をかけないで通り過ぎてしまうような関係性だ。新郎新婦の馴れ初めは何年も会っていなかった二人が偶然どこかでばったり出会ってそのままゴールイン。よくある話、できすぎた話で本当かどうか怪しいけれどあえて突っ込まないのが大人だと今賀園朱鷺は老婆心を抑え込んだ。
 新郎新婦共に同じ学校に通っていたという事は当然周りのほとんどが同級生で顔見知りだということになる。円卓の席順も仲の良さそうな面々が隣同士になったりして同窓会の様相もあり盛り上がっていた。朱鷺も親友のとんちゃんと隣同士になるハズだったのだけど、1週間ほど前に出席できなくなったと連絡があり、「仕方ないなぁ、今度別で会えばいいか」などと話していただけで、隣の席がどうなるかなんて考えもせずに参列した。新郎新婦からしたら空席が出るのが嫌だったのかのんちゃんの代わりにやってきたのが次郎だった。次郎が朱鷺と別れた後に付き合ったのが新婦であるジョーズだった。新婦と朱鷺二人にとって次郎は共通の元カレなのである。
 彼に会うのは何年ぶりだろう。別れを切り出されて泣きながら帰ったあの日から。彼がくるのを知っていたらとても複雑な気持ちで参加を辞退したかかも知れないのに、なんの前触れもなく現れて「やあ」なんて挨拶されて、戸惑い目をむいた今賀園朱鷺に無邪気に「元気?」なんて聞いてくる次郎。曖昧な微笑みを返しつつ頷いた朱鷺。そこからは昔の話になって、なんとなく話が繋がって、屈託の無さは次郎の良いところだなんて思い出に浸ったりした。
 新郎新婦の入場を拍手で迎えていた時
 「朱鷺と別れて、次にジョーズと付き合ったのは知ってるだろ」と次郎
 「まぁね」と拍手をしながら横顔で軽く頷いてみる朱鷺
 「実は、その後もダラダラと腐れ縁のように続いて・・・」
 「え、何?」次郎があれこれ言っているのが拍手と歓声でよく聞こえなかったと、朱鷺が次郎に顔を向けて聞いた
 「いや、なんでもない」次郎は新郎新婦から目線をそらさずにぼそっと呟くように声にした。
 時は進みお色直しでしばし休憩となって朱鷺は次郎に
「ねぇ、さっきなんか言いかけてた事あったでしょ、私が聞き取れなくって聞き返したけど何でもないってはぐらかされたじゃない。私に何か言いたかったんじゃないの」
 「ああ、もういいんだ」彼は心ここに在らずといったふうで、トイレにと立ち上がった。朱鷺も立ち上がって懐かしいい面々の座っているテーブルへ足を運び邂逅を楽しんでいた。
 新郎新婦の再入場を告げるアナウンスがあり各々が自分のテーブルへと戻り、照明が落とされスポットライトが二人の登場する扉へと集中した。扉が両サイドに開け放たれスポットライトに浮かぶ三人。 さんにん?
 和装から洋装へと着替えた新郎新婦の間に次郎が真面目な顔で立っている。次郎が新郎と新婦それぞれに腕を組み入場してくるではないか。参列者一同水を打ったように静かになったものの、誰かが笑い始めたのにつられ、これは冗談なんだろうと解釈して笑顔で拍手を送り始めた。雛壇にある新郎新婦席の間に椅子が置かれ次郎がそこへ何食わぬ顔で腰を下ろした。それを見てまたしても仲のいい友人たちがどっと笑い声を上げた。その後ケーキも三人でナイフを持ってカットしたりと、三人が当然という雰囲気の中で式が続いた。
 そして、新郎新婦の挨拶。新郎が
 「お忙しいところご列席賜り云々、、」おさだまりの挨拶が続いて「これからはここにいる三人で助け合って行きます」と締めると、またも笑い声がおきた。
 そしてお開きとなって、新郎新婦に混じって次郎も参列者を見送った。
 朱鷺が見送られる時に「二次会行くんだろ」と次郎が聞いてきた。頷くと「一緒に行かないか」と誘ってきた。何、ちょっと私とよりを戻そうというの?
 ロビーで待っていると見送りの終わった次郎が待たせてすまないとやってきて、二次会の行われるレストランに向けて並んで歩き始めた。
 「俺がずっと二人の間にいた事、どう思った?」と次郎
 「余興としては皆んなにウケてたんじゃない。やるならとことんやれって事でしょ」朱鷺が返す。
 「やっぱり、みんな余興と思われてたんだ」
 「だって皆んな笑ってたし、冗談でやってたわけでしょ」朱鷺が笑いながら次郎を見やったが、彼は納得いかないといった表情で時を見返した。
 「えっ、違うの?」朱鷺はどういうことかわからないと首を傾げ立ち止まった。
 一歩前に出た格好になった次郎は振り返って「違う」と力強く頷いて「俺たちは三人で新しい生活を始めることにしたんだ」力強く宣言した。
 朱鷺は混乱した。よりを戻そう?なんて考えた数秒前の自分が恥ずかしくなり、このタイミングでなんて事を言い出すのだ、なんでそれを今私に言うのかと怒りにも似た感情が湧き上がってきた。
 「はっきり言って意味がわからない。私に何を求めてるの、同意?賛意?嫉妬?そのどれも今は持ち合わせていないし、三人で生活するならどうぞご勝手にだわ」
 「ごめんごめん、怒らそうと思って言った訳じゃないんだ。ただ、ちょっと俺が朱鷺に対して少し謝らなきゃならないと思う事があって、話を聞いて欲しかったんだ」次郎は朱鷺を落ち着けるようにゆっくりと話し始めた。
 「気付かれてたかもしれないけど朱鷺と付き合っていたときに、俺はジョーズとも関係を持っていた。」
 「はぁ?ちょっと待ってよ。そんなこと私が気付いてる訳ないじゃない。私はまだまだウブな女の子だったのよ。それを今さら浮気の告白なんてされて、どうしろっていうの。そんな事知りたくもなかった。」
 「まそんなに怒らずに聞いてくれよ」
 次郎はなだめるように言って続けた
 「実は、朱鷺と付き合っていたときにジョーズと、そしてカズとも付き合っていたんだ。」
 「カズ、って、ジョーズの結婚相手のこと?」
 「ああ」
 「はぁ?私と付き合っていながら、浮気してたのがジョーズだけじゃなくって、男のカズにも手を出してたっていうの。」朱鷺はより一層混乱した。浮気性のバイセクシャルな男と何も知らずに交際していたなんて。
 「今日久しぶりに朱鷺の顔を見たら、どこか朱鷺に対して後ろめたさがある自分が嫌になって、全部言ってあのときのことを謝ってスッキリしたほうが良いような気がしてさ。ほんとごめん」
 頭をペコリと下げた次郎。
 「あなたはスッキリするかもしれないけど、こんな話聞かされた私は全然スッキリしてない」 
 怒りを含んだ視線を次郎に投げつけた朱鷺
 「ごめん、そう怒らないで。これから三人で一緒に暮らすけど、朱鷺が入って四人で暮らすってのもいいかもな。俺は大歓迎だ。」
 この男は人の気持を逆なでする天才だと朱鷺は呆れて言葉をなくし立ち去った。
 
 「ちょっと、笑い話じゃないのよ」
 バーテンダーの深爪深夜は実際笑いをこらえていたのだが、隠しきれないニヤケ顔を朱鷺に悟られてしまった。
「すみません、でも他人からしたらちょっと笑える話ですよ」
「他人って、もう少し親身になってくれたっていいじゃない。まあいいわ。何か一杯作ってよ」
朱鷺の前に深爪深夜がカクテルグラスをおいてシェーカーからカクテルを注ぎ始めた。
「なんて言うお酒?」
「ビトウィーン・ザ・シーツ。結婚式の今日にぴったりでしょ。シーツにくるまってなんて」
 「ふふ、嫌味ね。私はあの三人と同じシーツにくるまるなんてまっぴらごめん」
 「しかも、このビトウィーン・ザ・シーツは一般的なレシピから少しアレンジして特別版にしたんですよ。使っているラムをホワイトラムじゃなくってバカルディクアトロにしたので、名付けてビトウィーン・ザ・シーツ・4Pバージョン」
 「ちょっと待って、4Pってどういう事」
 「もちろん4人プレイの4P。ほんとは朱鷺さんも4人でシーツにくるまりたかったんでしょ」 
 「 はぁ、そんな事あるわけないじゃないの」と否定しながらも、一晩くらい冒険してみても良かったかもしれないなと考える朱鷺だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?