シナリオ解説『心の扉はひらけない』
死にたがりの高校生・奥野和也(おうのかずや)。虐められているわけではない、家庭に問題があるわけでもない。ただ、皆が自分を見てくれない、自分という存在をないもののように扱っている。そんな虚無な毎日に、嫌気がさしていた。
ある日の帰り、商店街の外れで一匹の兎と出会う。誘われるように着いて行くと、そこは「人間の心の扉を管理する」という怪しい店だった。
「心の扉は、その空き具合で相手との仲の良さが確定する」
「この鍵を使えば、心の扉を強制的に開いて誰とでも仲良くなれるんだ!」
そこで、和也は三人の仲良くなりたいと思っている人物を思い浮かべ、ついに扉を開ける。
そして明かされるのは、それぞれの知られざる一面と、胸に抱える重く大きな問題。1ヶ月という制約の中、和也はそれぞれの人物と仲良くなり、皆を救うことが出来るのか―。
【作品リンク】
https://drive.google.com/file/d/11e176R9vL3XubUzGBKRHcP3ZhRaZmN9r/view?usp=sharing
*以下、解説になりますが、ネタバレを過分に含んでおりますので、ぜひシナリオの方をご一読してからご覧くださいませ
1. 概要
・作成日:8月27日
・ページ数:(横置き・横書き)314ページ
・文字数:47490文字
・制作期間:1ヶ月
ノベルゲームを想定した、ゲームシナリオになります。
2. タイトルの秘密
今作で一番特徴的な要素が「心の扉」です。なので、それはタイトルに必ず入れたいと最初に思いました。
「ひらけない」というのは、物語終盤で、和也自身が他の3人に心を開いていない、という真実を表したものです。展開の示唆と同時に、和也自身の人となりも表せるタイトルになっていると思います。
タイトルロゴも、印象的な二匹の兎と扉を入れました。扉からタイトルの文字が出てきているようなイメージです。
「扉」の字の「非」がドアになっているのは、遊びました。(笑)
3. 着想
このシナリオを書き始めた頃、Wright Flyer StudiosとKey様の『ヘブンバーンズレッド』というソーシャルゲームにハマっていました。めちゃくちゃストーリーが面白くて、もう一日中プレイしていた記憶があります。
そこで、「Key」=「鍵」を題材に何か作れないか、という発想に至りました。その結果、鍵を使うもの=扉となり、「よく心の扉って言うよな~」と思い、鍵を使って心の扉を開けられたら、という結論に至りました。
私も、あまり友達が多い方ではないので、もしこの鍵があればパリピの仲間入りじゃん!と夢を見ながら執筆しました。(笑)
4. 描きたかったもの
相手に求めるばかりで、自分は何も与えようとしない、という人間性を扉を使って表したかった。つまり、相手には扉を開くことを強要しているくせに、肝心の自分自身が相手に心を開いていないという矛盾、ここが一番に描きたかったところですね。
そのせいで、和也は1ヶ月経った後も、一人で学校生活を過ごしている。それどころか、自分から相手を見限ってしまっているわけです。
もう一つあげると、最後の兎たちの台詞ですね。「自分を表現するところから」「周囲の人たちは、思っているほど怖い人たちじゃない」ということです。
これは、私が演劇やモノカキを初めて実感したことです。自分を曝け出して周囲に明るく振る舞えば、周りも意外とそれを受け入れてくれる。人目を気にして何もしないから、周囲も自分に何も反応を示してくれない。これは、前作の『虹が色づくまで』でも同じことを言いました。オリジナリティを損なわないための、自分なりの信念みたいなものですね。
5. それぞれのキャラと裏表
心の扉を強制的に開けて、それぞれのキャラと関わり合う流れですが、ここで大事にしたのは、キャラの二面性です。扉を開けて、深くかかわるようになったからこそ目の当たりにする、知られざる一面。お話に展開を加えるスパイスの役割として、力を入れて考えました。それぞれのキャラと、その裏表を解説していきましょう↓↓↓
一人目は、景原一士です。
彼は、純粋に和也の友達枠として考えたキャラです。アニメが好きということで意気投合します。テーマは、いわば類は友を呼ぶ、ですかね。同じタイプの人間で、しかも仲が良ければ良いほど相手を下に見て強くあたってしまう、そういう和也の性格を描きました。
そんな彼の裏の顔は、実はいじめの腹いせに小動物を殺している、という何とも恐ろしいもの。いつからか、目覚めてしまったんでしょうね。あまつさえ、和也にも同じことをしろと誘う。まぁ、和也は強気ですがそんな度胸はないので、「やる」「やらない」の選択肢さえ作りませんでした。
二人目は、夜霧萌彩です。
和也の恋人枠として考えました。ただ仲良くなるだけでなく、いきなりキスからの交際、という心の扉開きまくり。ここでは、恋愛要素と同時に、和也がどれだけモテないか、オスとしてなっていないかを描きました。ノンデリ発言が満載です。
そんな彼女の二面性は、清楚に見えて実は全然そんなことなかったというのと、実は母親に虐待されている、という点です。和也は、黒髪ロングだから清楚、という短絡的な結論に至ったようですが、実は虐待によって出来た痣を隠すためのものだったのです。これに関しては、彼女自身に一士のような怖い裏の顔があるという訳ではないですね。
そして三人目は、摩壁練斗です。
皆さんそうだと思うんですけど、自分より地位とか能力とかが上の人がいると、本能的に好かれたいとか媚びたいとか思うと思うんですよ。その要因として、練斗は生徒会副会長という設定です。またここでは、和也の仕事の出来なさを描きました。めちゃイキってるのに、実際は出来なかったりやる気がなかったりと、使えなさ満載です。
そんな彼の二面性ですが、これは力を入れました。まず、優等生っぽさは演技であること。そして、学校に爆破予告を送った張本人であること。そして、生徒会長になりたいのは兄を見返すためであること。最後に、実は兄を見返すためではなくて大好きな兄に少しでも近づくためである、ということです。練斗が一番、物語が二転三転したんじゃないかな。
という風に、それぞれのキャラとそれによって描かれる和也の特徴、そして裏表・二面性を意識して描きました。
6. 見放すことに意味がある
それぞれのキャラルートは、「起」「承」で主人公である和也の人となりや性格を描き、「転」でそれぞれのキャラの裏の顔や二面性を出し、「結」を見せる前に主人公はキャラから立ち去っていく、という構成になっています。この「起」「承」「転」までやって「結」をやらない構成には、二つの狙いがあります。
一つ目は、主人公である和也の好感度を後々で爆増させるため。
シナリオを読んでいただければわかりますが、和也は根暗なくせに気が強く、態度も悪い、正直言ってクズです。その性格を、それぞれのキャラルートの「起」「承」で描きヘイトを溜めに溜めます。そして、最後にそれぞれのキャラの「結」をまとめてやることで、今までのヘイトが綺麗サッパリなくなり、好感度を爆上げさせる、という算段があります。
二つ目は、あえて中途半端に終わらせることで、興味を惹く、という狙いです。
それぞれのキャラには、割としっかり重めな問題を与えています。主人公の和也は助けを求められますが、面倒だったり、俺には関係ないだったり、責任を負えない、だったりで問題を解決しないまま放置してしまいます。こうすることで、「この後どうなるんだろう~ワクワク♬♪」という気持ちを高ぶらせる、という算段があります。ツァイガルニク効果、みたいなものです。
という風に、主人公の好感度を上げること、そしてあえて中途半端にして興味を惹きつけること、という二つの狙いがあります。
見放すことに、意味があるんです!
7. 小話
主人公をサポートしてくれるアルビノとメラニズムの兎(シナリオ上ではシロ・クロ)ですが、中には可愛らしい、アニメチックな、デフォルメされたものを思い浮かべる方もいると思います。
ガッチガチに、リアルな兎です。
実際に、目の前の兎が急に喋り出したら、気持ち悪いし気味悪いし怖いじゃないですか。そう言った、ホラーとまではいかないけど、一定の不気味さを演出したいと考えました。
因みに、まだ一文字も執筆していない構想段階の私の作品の内の一つにも、リアルな動物が出てきます。これは、木彫りのフクロウとカメ、ですね。
物語最後の、主人公がみんなを助けるハッピーエンドルート。実は、それまでと同じようにどのキャラを助けるか、または助けないか選べるようにしようと思っていました。ですが、キャラたちを助けることに意味を持たせたい、つまり助けてあげたキャラが、今度は自分を助けてくれる、みたいな展開にしたかったのと、今まで関わってきたキャラが一同に集結する画が欲しかったので、即刻廃止にしました。
でも、助けるキャラと助けないキャラが出てくるのは中々に残酷でいいと思うので、また機会があればやってみようかな……。
8. 終わりに
以上、『心の扉はひらけない』の解説でした。
もし、あなたが兎に出会い鍵を貰ったら、誰の心の扉を開けてみたいか……、心に思い浮かんだ人はいますか―?