急に休暇ができたので、書いてみた。
以下、物語のようななにか。
二つ、月が並んだ、紫の原野。人類の背丈よりも高いきのこが群生した、きのこ林。
きのこが、揺れた。
「さあ、我が問いに答えよ!」
剣士レスポンスの前に立つのは、獅子の頭、ワニの胴、大鷲の翼、ピグミーマーモセットの尾を持つ、見上げるばかりの巨大な怪物だった。ちなみに、怪物の脚はニンジンだった。一部比喩にお野菜が混入しているが、どう見ても、そうだったので仕方ない。
「……イカれたデザインの怪物だな」
レスポンスは、悟りを開こうとする者の目のように、青の両目を半眼にした。ちなみに、この瞬間の様子がそういった感じだっただけで、彼の頭の中は悟りからは程遠く、金、酒、女、三時にはスイーツと、煩悩まみれである。
「我が問いに、答えられねば、貴様を喰う……!」
獅子の頭、ワニの、以下略、の怪物が叫んだ。レスポンスは、己の剣を握りしめた。剣先は、地面を指している。まだ、剣を振るうときではない。
人語を解し、クイズ好きの怪物か――! しかし、すぐさま剣で応えるのは、あまりに無粋か……。
相手が放つのが言葉なら言葉、剣なら剣、拳なら拳――この怪物の場合、脚がニンジンだからニンジンを用意せねばなるまい――、それがレスポンスの戦いの流儀であり美学だった。
レスポンスは、叫んだ。
「怪物よ! すまん! 全然聞いてなかった! もう一度、質問とやらを頼む!」
怪物の外見が奇妙すぎて、聞き逃していた。
「貴様……!」
怪物が大きな口を開けて吠えた。聞いてなかったことに、立腹したようだ。きのこ林がざわめく。低く大きな咆哮。
怪物が、たてがみを揺らし叫んだ。
「これから言うところだったのだ! 実は、まだ言ってない!」
実は、まだ言ってなかった。言い逃していた。立腹する立場ではない。
「じゃあ、言え!」
レスポンスが叫び返す。
「ああ、言う!」
怪物が答える。
「我が問いとは……!」
怪物の問いとは。
「『貴様はこのきのこ林を抜ける気か、この林の主である我に挨拶もなしに!』だ!」
だった。
「それを早く言え!」
怪物の存在に、つい今しがた気付いたところである。怪物は先ほどまで伏せており、月明かりの下、巨大な岩石かなにかと思っていたから。
レスポンスは、大きく息を吸い込んだ。
「こんばんは!」
元気よく挨拶した。
「こんばんは!」
怪物が、挨拶を返す。
二つの月が、輝いている。きのこが青白く発光していた。
「通ってよし」
怪物から、通行の許可が出た。
怪物は右のほうへずれ、獣道があらわになる。
「ありがとう」
「よい旅を」
「ありがとう。貴殿の林のますますのご発展を祈る」
互いに頭を下げる。幸運を祈りあう。レスポンスは怪物の脇を通り、怪物は見送る。剣先は、地面を指したまま。
レスポンスは、きのこ林を抜ける。
「めんどくせー怪物……」
レスポンスは、剣を鞘に収めた。そして、振り返らない。
星が導く一本の道を、歩む――。
その後、海の怪物と激闘を繰り広げ、生贄となった姫を助け、貧しき民をも救う英雄となった。
これは、国を超え後世に語り継がれる大英雄レスポンスの、壮大な冒険の中の、誰も知らない一幕――。
【あとがき】
挨拶って、大事ですね!
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