第9話 パウンドケーキと猫 パティスリーに戻ると、今度は二階のカフェに通された。 土門は下で何か作業をしている。 その音を聞きながら、弥生はまだ少し出てくる涙をなだめていた。 あのまま帰宅していたら、きっと朝まで落ち込んでいただろう。 正直、もう一度店に誘ってもらえて良かったと思う。 気分が落ち着いてきたところで、弥生は席を立ち、カフェスペースをじっくり眺めだした。 天井は元のまま、床の一部や壁をリフォームしたようで、新しい木のぬくもりが感じられる、
第8話 真相 「どうしたの?こんな時間に」 「遅くにごめんね。ちょっとだけいいかな?」 優子は怪訝そうにしながらも、玄関に入れてくれた。 「上がってく?」 「ううん。すぐ帰るから」 寒気から暖気に包まれてホッとしたところで、弥生は赤い絵が飾ってある事に気づいた。 むき出しのキャンバスに、赤い色を塗りたくったような絵だ。 表面に凹凸があるので、油彩画のようだ。 ―前来た時にあったかな? 気にはなるが、それを聞くために来たのではない。 「実はさ、職場出
第7話 本当に怖いのは 外に出ると、ようやく雪が止んでいた。 スコップで雪を掘ったり、除雪機のたてる低い音が、あちこちでしている。 そのような夜道を、弥生は土門と連れ立って歩いていた。 車道にも雪が十センチは積もっているので、ちょうど左右に一本ずつ伸びている、タイヤの跡に沿って歩くしかない。 うっすら横目で観察するが、やはり映画から出て来たようなイケメンだ。 まだ緊張はするが、少しずつこの男にも慣れてきた気がする。 「そういえば、ひな人形は見つかった
第6話 呪詛返し 「三分引き付けろ」 土門がそう言うや否や、猫は前足を上げ、抑えていた女を薙ぎ払った。 部屋の端に飛ばされた女は、辺りを探すように視線を泳がせる。 自分を探しているのだと気づき、一斉に肌が粟立つ。 すぐさま距離を詰めた猫は、女と取っ組み合いを始めた。 猫の長い体に、女の長い腕が絡みつき、転がり離れ、睨み合うを繰り返す。 両者が転がるたびに派手な音が響くが、何故か辺りに置かれたものは倒れるどころか、揺れてすらいない。 一方、後ろ姿し
第5話 呪詛 おんみょうじ? 弥生の凍り付いた思考回路の中で、その単語が繰り返される。 何だったっけ?アニメか映画で聞いたような気がするけど…。 それを問いただしたかったが、今はやめた方がよさそうだ。 猫が急に動きを止め、土門の立ち位置より、少し前に後退する。 灰色人間は全滅していたが、腰を高くする猫の威嚇ポーズに、まだ事態が終わってない事を悟った。 「博臣様、別のモノが近づいています」 こちらを振り返った猫は、鋭い牙の並んだ口を開け、明瞭な言葉
第4話 もう一つの稼業 相変わらず雪の降りしきる坂道を、弥生は黙々と歩いていた。 優子の涙を思い出すと、具合が悪いなど言っていられない。 怒り任せに足を踏み出し、何度も滑りそうになりながら、急な坂道を登り、いくつかの角を曲がる。 目的地…パティスリーシノノメには、難なくたどり着けた。 一階には明かりがついている。 「土門さん!いるんですよね!開けてください!」 鍵のかかった正面入り口を、弥生は力任せに叩いた。 三回目を叩こうとしたところで、磨りガラス
第3話 再び東雲町の店へ 青白い顔に、くまが浮かんだ目元。 冬なのもあるが、肌の乾燥がひどく、唇もガサガサだ。 毎日鏡は見ているはずだが、こんな生気のない顔になっていたのに、全く気付いていなかった。 幽霊のような自分の顔を見つめながら、弥生は黙々と歯を磨いていた。 昨夜は眠ったり起きたりを繰り返し、長い髪の女に追いかけられる夢を見た。 手足は、鉛を入れられたかのように重い。目の奥と頭も痛く、ため息が漏れる。 本当に風邪を引いてしまったかもしれない。
第2話 旧手宮線の夜 小樽運河は、観光用の運河と、現在も実際に船が停泊可能な、北運河とに分かれている。 物流の手段が船から自動車にシフトしていった昭和四十年代。 広い道路の確保に迫られた小樽市は、存在意義を失いかけ、どぶ川になっていた運河を埋め立てる計画を発表した。 反対する市民達との論争は十年にわたって続いた。のちに「小樽運河論争」と言われる市民運動の興りである。 最終的には、南側の水路の半分は埋め立てて道路を拡張し、半分は観光用の運河として残す、更に北
あらすじ 北の観光都市、小樽。 NPO職員の御手洗弥生は、ごく普通の社会人。 霊感持ちである事と、男性が少し苦手な24歳だ。 雪深い2月のある日、社外での仕事中に、幽霊に追いかけられた弥生は、不思議な雰囲気の男女と出会う。 住宅街のど真ん中で、もうすぐパティスリーをオープンする、パティシエの土門。 その店のスタッフになる、和服姿のはんなり美女の音羽。 弥生は、NPO職員として何気なく名刺交換をする。 この出会いが、日常を大きく変える事になるとは、まだ知らない。 第1
お菓子作りは昔から好きだ。 最近覚えたのがクグロフ。 もとい、スイートロール。 最初の記事でも書いたが、 元ネタは海外のRPGゲーム「The Elder Scrolls V: Skyrim」 だ。 プレイするのは旦那オンリー。 LRボタンが一対しかなかった コントローラーで遊んでいた私に、 プレステ5は荷が重すぎた。 北欧風な世界観のゲームには、 様々な美味しそうな料理が登場する。 スイートロールはその中の一つだ。 富士山のような形のケーキ生地、トップには アイシング
はじめまして。 社会人歴は長くなってきたのに、いまだに厨二病気味な会社員兼主婦です。 主にオリジナル小説をアップしていこうと思います。よろしくお願いします。 写真は、クリスマスに作ったスカイリム飯。 スイートロールがポイント。 誕生日=ガチ クリスマス=ネタ が、我が家流です。