猫たちの思いで 1 りえる
りえる
りえるが我が家にやって来たのは、2003年の初夏、高校生の娘がクラスメイトが一斉送信したメールを見て、ネコを保護してもいいかと聞いてきた。うちには、すでに1歳半くらいになる先住の三毛猫がいた。
1匹が2匹になっても同じこと、承諾した。
その猫は、クラスメイトの近所のおばあさんが、高齢のため飼いきれなくなってしまい放棄してしまった子を、保護したもの。タオルを敷いた段ボールに入ってやって来た。「名前は、りえる、女の子だよ」と言って置いて行った。ちょっと見ただけでも、ノミが動いているのが見えて、具合が悪そうでもなかったので、直ぐに洗ってから、獣医に連れて行った。
獣医さんが言うには、推定5歳、ノミの駆除のスポットをして。診てもらったが特に悪いところもなさそうで、我が家の一員になった。しかし、この時勘違いが起こっていた。手術が済んだ状態だったので、外からたまたまちゃんが見えず。お迎えする猫が二人目だった私たちも、クラスメイトも女の子だと思い込んでいた。獣医さんは、言うまでもない事、男の子だと分かっていたが当然すぎて言わなかったんだと思う。それから半年位して、自分のモノをなめなめしてお手入れしているのを見て初めて、おっさんだということが判明した。
名前は、りえる?おっさんなのに?でもこの名前はクラスメイトが保護した時に付けた名前で、もともと何という名前だったかわからない。また、名前が変わってしまうのは気の毒なので、おっさんりえる決定。
実はりえるは、全然可愛い子ではなかった。目が開いているのかどうか分からなくて、頭でっかち、毛色は薄汚れた白の中に、微妙な薄い茶色の毛がまじる。声も、にゃーとは言わず、ぎゃーとしか鳴かない、可愛いところから一つも無いところが可愛い猫だった。
先住猫は、獣医さんの勧めで、高めのかりかりと水だけしか知らずに育っていたのに対して、りえるはなんでも食べる猫だった。おばあさんが飼っていたという事で、人間の食べ物を何でも食べさせていたのだろう、ポテトチップスの袋を開けておいておくと、袋の中に頭を突っ込んでいたり、主人が持って帰って来て台所に置いてあった鮭おにぎりをほじくって、中の鮭だけ食べたり。
作って冷ましてあったお弁当のおかずを盗んだり。
不用心だと思うでしょ?でも、彼は台所や押入れの引き戸を開ける技を持っていた。
サンマの頭を3つも、ペロリと食べた事もあった。
塩っぱい物も平気で食べるので、身体は直ぐに悲鳴を上げて、腎臓を悪くして口内炎もできる様になり2006年3月に家族に見守られて虹の橋を渡って行った。今は大木になった桜の木の下に眠っている。
りえるが来る前から居た先住猫は、おっとりとした箱入り娘で、自分で引き戸や網戸を開ける事もしらず、外に出る事もなかった。猫が、自分で戸を開けて外に出るなんて考えもしなかった。
一つとても印象深いことがあった。
りえるが来た夜、ご飯を食べて落ち着いたと思って油断したら、網戸を開けて夜の道に脱走てしまった。来た時はノミだらけの小さな猫だったのに素早い動きであっという間に見失ってしまった。せっかくうちの子になったのに、逃げられてしまった、前住んでいたところは車で何十分がかかる所だけど、帰ったのだろうかと心配していた翌朝、朝顔に水をやろうと外に出たら少し離れたところで、こちらを見てぎゃーと鳴く声、遠くからここにいるよと呼んでいたのだ。
昨日は捕まえられなかったのに、近づいても逃げず、今朝は素直に抱かれて家に入ってご飯を食べて寛いでいる。そして、その夜も脱走して、翌朝離れたところで鳴いて呼ぶ事を繰り返してからは、逃げ出さなくなった。
また、会ったばかりなのに人間を識別して呼ぶなんて、なんだかこちらが試されていたみたいだった。
それからは直ぐに家族に慣れて、昼寝している人間の上に乗って眠る様になった。どんな躾を受けたのか、座布団には上がらない、けど、人間には上がるというおかしな癖があった。毛布に向かって、ふみふみをする幼い一面もあった。具合が悪くて、獣医さんに行こうと車に乗せる時など、分かっていて大人しく抱かれていて頭のいい子だったのだろうと思う。
前の飼い主の食べ物のせいで、あまり長生き出来なかったけど、うちの猫になって良かっただろう?と思っている。