見出し画像

くりこし②/「衣紋を抜く」との関係

こんにちは
日本の着物仕立て処 ❋ 菊瓢 きくひさごです
———————————————
「 和裁は我が国必須の英知の結晶。」
私は古より連綿と受け継がれてきた美しい着物を形にする技術【和裁】を慣用にする活動に力を入れています。
———————————————

🍀今回は「くりこし」と「衣紋を抜く」との関係について4つご紹介いたします。

・衣紋を抜くとは
・くりこしとの考え方の違い
・衣紋を抜く着物、抜かない着物
・抜き衣紋はいつからあるの?


◯衣紋を抜くとは

肩山を後ろ方向にずらして着用することを「衣紋を抜く」と言います。

くりこし寸法は基本5(1.8㎝)ですが衣紋を抜く量によってくりこし寸法は加減されます。


◯くりこしとの考え方

くりこしが大きければ衣紋が抜けると考えられることがあります。

くりこし5分の着物を衣紋を抜いて着用

確かにそうとも言えるのですが注意したいのは、どんな理想の着装を思い巡らしているのか?であり当てがう寸法についてはよくよく考えなければなりません。「くりこしが大きいこと」と「衣紋を抜くこと」は意味合いが異なります。

実際の様子を比べてみましょう。


・くりこしを大きくした場合

「くりこし無し」と「くりこし1寸5分(5.6㎝)」の着物比べました。

肩山を肩の頂点にして比べた図

くりこし寸法を大きくすると後ろ側へ引くことなく自然に衣紋が抜けた状態になります。

衣紋を抜かないで比べた図

前から見た図の衿の角度を比べると両者に大きな違いはありません。くりこしを大きく付けると自然な衣紋は作れるけれど⚠️前から見た衿は立ったままとなるわけです。


・衣紋を大きく抜いた場合

続いて衣紋を大きく抜いた場合とを比べてみましょう。衣紋を抜くために肩山を4.5㎝後ろ方向へずらします。

肩山を頂点にした状態で比べた様子
くりこし1寸5分(右)

「くりこし1寸5分(5.6㎝)着物」の衣紋を抜くと背中が見えている(↑右)のが分かります。肩山を頂点で着付けた時点では衿が立っているため見えることはありません(↑左)

くりこしが無くても衣紋を抜くことはできる

同様に「くりこし無し着物」も衣紋を抜いてみました。↑左図の背中心では衿の幅布を見ることができますが↑右図では完全に衿が倒れているため全景を確認することができません。
1寸5分(5.6㎝)ものくりこしを付けた着物の衣紋を4.5㎝抜くと、衿が後方へ倒れるため開きがより大きく見えやすいのです。⚠️つまり背中心の衿の倒れ方だけでも衣紋の見え方は変わるということです。(撮影者T155㎝での見え方の違い)

衣紋を抜くと前から見た衿は、立ち衿から寝衿に変わります。先ほどから4.5㎝とあるのは衿が寝るまでの目安寸法です。
以上のことから衣紋を抜く目的でくりこし寸法を大きく付けると、着付けの好みによっては背面で予想外な見た目になる可能性があると言えます。
……………………………………………………

⚠️衣紋を抜くと前後の見た目が変わるのでくりこし+付け込み寸法は慎重に選択しなければならないのです。


◯必要なくりこしの寸法

くりこし寸法は5分(1.8㎝)が基本ですが、近年では7分〜8分ほど付けるのが一般的となっています。付け込みと一緒にお好みで調整することが可能です。


◯衣紋を抜いて着る和服

衣紋を抜いて着る和服の分類は
・成人女性の長着きもの類
・振袖
・成人女性の襦袢類
大きく分類するとこの3点のみです。その他は基本的に衣紋を抜いて着る構造にはなっていません。


◯衣紋はいつから抜き始めた?

唐輪髷の遊女
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%94%90%E8%BC%AA
2022.10.最終更新分

安土桃山天正頃(1573〜92)遊女を中心に髷が結われ始め、江戸前期貞享じゅんきょう(1684-88)に鬢付びんづけ油が一般女性の間で広まりこの油が衿に付かないよう、江戸中期頃から衣紋を抜いて着用したのが抜き衣紋の始まりだと言われています。

版画遊色三福つい図 奥村政信(1686~1764)
https://emuseum.nich.go.jp/detail?langId=ja&webView=&content_base_id=100296&content_part_id=0&content_pict_id=0
男女化粧之図 菱川師宣 1618-94
左の女性「玉結び」、中央は「兵庫髷」か?右は「笄髷」のようだが、下げ髪なので衣紋に掛かっている
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/533680
盆灯篭下の髪梳き美人 奥村利信1710-1750ごろ
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/476880

———————————————
日本の着物仕立て処❋ 菊瓢では和服に関する様々なご相談を承っております。ご試着も可能ですのでお気軽にメッセージをお寄せくださいませ。
———————————————

和裁のお仕事・依頼方法を紹介しています↑↑


いいなと思ったら応援しよう!

菊瓢  kikuhisago
ものぐさ和裁師は着物と和裁の振興に貢献したいと考えています。美しい着物を未来に残していくためにサポートをどうぞよろしくお願いいたします。