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なまけ者になりなさい


連休がとれたので、ふと思い立って鳥取を訪れることにした。

自分は47都道府県制覇を目指している訳だが、アクセスの点でどうしても達成の妨げになるであろう鳥取県。

それなら、この機会にここを攻めようと意を決した訳だ。

訪れたのは「水木しげるロード」
ゲゲゲの鬼太郎に関しては明るくないが、水木しげる先生の生き様に関してはそれとなく耳にしており以前から気になっていた。

そんな訳でエコノミー症候群にならないように休憩を挟みながら長時間運転で鳥取にたどり着いた。

「水木しげるロード」は映画「鬼太郎の誕生」のヒットで思いの外賑わっており、普段病棟や救急外来に籠りひたすら患者さんと接する毎日とのギャップに眩暈がしそうだった。

街道沿いには、水木しげるが生み出した妖怪たちのブロンズ像が並び、それぞれが独特の存在感を放っている。

鬼太郎ファミリーを模した食べ物や小物を売っている店も多く立ち並び、子供も大人も楽しめる雰囲気だ。

子供達に人気だった鬼太郎

休日ということもあって、ゲゲゲの鬼太郎のキャラクター達が街中を歩き、訪れた人々を出迎えてくれている。

特に鬼太郎の人気は群を抜いており、子供たちが列をなして記念撮影を待っている光景が微笑ましかった。

その賑わいの中、水木しげる記念館の前で、ひっそりとたたずむ1人のキャラクターを発見する。

…砂かけ婆だ。普通に怖い。

子供も怖がって誰も撮影していない。鬼太郎の方に並ぶと時間がかかりそうなので、結局待ち時間ゼロの砂かけ婆に写真を撮ってもらった。

砂かけ婆サイドも休日家族連れが多い中、観光地を一人でのんびりお散歩しているアラサーの男性を見て怖かったに違いない。

しかし、ぼっちにもしっかりファンサをしてくれた。

ーーー

水木しげるロードは、ただの観光地ではなかった。たった一人の漫画家が残した作品が、街を生き生きとした舞台に変え、多くの人々を引き寄せている。

その道を歩いて帰りながら、改めて一人の人間の存在によって一つの妖怪の暮らす世界が形作られていることに感心した。

どれだけひたすらに努力すればこんな人間になれるのだろう。想像もつかない。

すっかり満足して、駅まで来たところ、公園の前に立つ石碑が目に入った。そこに刻まれた水木先生の名言に目を留めた瞬間、思わず足が止まる。

ーーー『怠け者になりなさい』

そんな言葉の上で、水木先生がにっこりと微笑んでいる。

なまけ者になりなさい



…水木しげる先生といえば、戦地で壮絶な経験をし、命を削りながら漫画を描き、40にしてようやく功成り名遂げ、その後もひたすらプライベートを犠牲にしてきたワーカホリックの権化のような存在だと勝手に思っていた。

そんな先生が「なまけものになりなさい」…?

もしかすると、たまには楽をしてもいいのかもしれない。忙しい中でも休みはしっかりとって英気を養い、次の仕事に備える。それも大事なんだな、きっと。

そう自分の中で解釈した。そしてなんだか、許された気がして心が軽くなった。

『休んでいいんだよ、無理をしないでいいんだよ』

そんなことを水木先生の像が微笑みながら語りかけてくるような気がした。

その後、どういう解釈なんだろうと、発言の真意をネットで調べてみた。

若いときはなまけてはだめです! 何度も言いますが、好きな道なんだから。でも、中年をすぎたら、愉快になまけるクセをつけるべきです。

水木しげるの幸福論より

どうやら、若い時はがむしゃらに働き続けなければならないらしい。

また、水木先生と師弟関係のような立場であった作家・京極夏彦氏は先述の言葉を「怠けても食えるくらいの人間になれ」と解釈しているとのことだ。

全然違った。

更に、最終的にはは適度に怠けろと言いつつも当時70歳になった本人の生活は毎日夕食と入浴のあとは書斎へ直行して仕事、布団の枕許にはペンとメモ用紙を常に欠かさなかったという。

参りました、先生。勘弁して働きます。ここまでは多分なれませんが精進します。


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