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「自分でやりたい!」の気持ちから生まれたステゴサウルスのスプーンホルダー
今回は、ステゴサウルスのスプーンホルダーができるまでのお話をご紹介します。
「自分でやると、やる気が出るかもしれない」
「一緒にスプーンを持った方が、口がよく動くと思う。自分でやる方が、やる気が出るのかもしれない。」
これは、お母さんを通じて伺った言語聴覚士さんの言葉です。
お子さんの「やりたい!」という気持ちを大切にし、自分で「できた!」を感じられるスプーンホルダーを作ろう――。 そんな想いから、このプロジェクトが始まりました。
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実感を持てる道具ってどんなもの?
スプーンホルダーを作るにあたり、本人・ご家族・デザイナー・作業療法士が一緒に、「どんなものがいいか?」を考えていきました。
まずは、一般的なスプーンホルダーを3Dプリンターで作成し、動きや形を確認。
一人で握り続けるのは難しいため、手を開いていてもスプーンが落ちない方がよい。
手のひらを下に向けても、スプーンのお皿部分が上を向いている方がよい。
肘の曲げ伸ばしで、口に運びやすい角度で持てるとよい。
こうした条件を整理しながら、機能的な形状を決めていきました。
自分の使うものは、自分で決める!
次に、スプーンホルダーのデザインを考えました。
お子さんが恐竜好きだと伺い、特にステゴサウルスが好きというお話が出ました。また、兵庫県立美術館の恐竜展を見に行き、その時もステゴサウルスを真剣に見ていたそうです。
そこで、お子さん自身に「どんな形がいい?」と確認すると、体を動かしながら、「ステゴサウルスがいい!」と伝えてくれました。
さらに、お子さんは絵を描くことが好きで、絵を描くときも「何色を使うか」を自分で選んでいました。そのため、スプーンホルダーの色も本人に選んでもらうことにしました。
赤? 緑? 黄色? 黄緑? ピンク? 青? ……
いくつかの候補を見ながら、最終的に「ミントグリーン」を選んでくれました。
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「選ぶ」ことができない中で、「自分のもの」と感じられるか?
少し話がそれますが、自助具は一般的な製品に比べて選択肢が圧倒的に少ないのが現状です。
市販品が少なく選べる範囲が狭い。
価格が高く、気軽に試しにくい。
近年、100円ショップなどでもユニバーサルデザインの商品が増えているが、子どもたちがお箸セットを選ぶようには選べない。
私たちの活動も、まだ個人向けの支援が中心で、広く普及させるには至っていません。しかし、今回の取り組みを通じて、「自分で選ぶ」という経験が、実感を持てる道具づくりにおいて非常に大切だと再認識しました。
今後、もっと多くの人が「選べる環境」を作れるよう、取り組みが広がっていけばと願っています。
ステゴサウルスのスプーンホルダーの完成!
こうして、本人の想いとデザイナーさんの力が合わさり、ステゴサウルスのスプーンホルダーが完成しました!
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『本物を見たことがない恐竜だからこそ、「ステゴサウルスがいい!」と言った彼の中で、ステゴサウルスがどう描かれているのか、どこに惹かれているのか、造形をはじめる前に知っておきたいと考えました。画家たちが化石から想像を膨らませて描いた美術館の恐竜を観て、姿形・暮らす環境をどこまでも自由に想像できるワクワクした気持ちが、1番大事だと感じました。』
『図鑑で調べた、頭蓋骨の嘴の形状をフォルムとして取り入れたりしましたが、尾の形状はスプーンに委ねるなど、美術館で観た感覚・本人の中で自由に想像が膨らむ、余白のある仕上がりを最優先しました。スプーンの固定・匙が浮く機能が目立たないように、ステゴサウルスの一部として馴染ませたのも、このためです。』
このような思いでデザインされたステゴサウルスのスプーンホルダーの機能です。
スプーンが抜け落ちないロック機能(頭内側の突起)
手の甲を囲う「背板」が、スプーンを持ち続けることサポート
脚で、柄を握りやすい太さに調整しつつ、スプーンは直接手に触れるように
机に置いてもさじが浮く「自立」するグリップ
私が驚いたポイントは、自分でしているという実感が持ちやすいようにスプーンが直接手に触れるようにされていること、水分を取る時などスプーンを机に置かないといけないことがあるため、机に置いてもさじが浮くようになっていること、でした。これらは実際の食事の様子をご家族にお伺いし、その場面を具体的にイメージできていたからこそ生まれた工夫だと思います。
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完成したスプーンホルダーをお家で使ってもらうと、お母さんからこんな感想をいただきました。
「手伝いにくいほど、自分で手を動かしてくれました(笑)」
さらに、
「本人の気持ちが高まって、食器を用意し、食事をしようという意欲が改めて高まりました。」
というお話も伺いました。
スプーンホルダーというたった一つの道具が変わっただけかもしれません。
しかし、このお子さんとご家族にとって、「食事の意味」が変わるきっかけになったのかもしれません。
今回の作成過程では「自分で選ぶこと」の大切さを改めて、実感しました。
これからもお子さんとご家族の選択肢を広げていけるようにプロジェクトの拡大に取り組んでいきたいと思います。
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次回は、作業療法士の視点から生まれた「ルリビタキのハサミストッパー」ができるまでをご紹介したいと思います!