どうしようもない気持ち
父親にはよく怒られた。叱られた。
なぜ怒らせてしまったかは覚えていないが、ひと通り叱り終えた後の沈黙はよく覚えている。
そんな時、僕はくだらないことを質問した。
『この水は飲んだら良くない?』
『父ちゃん、明日仕事?』
『この壁、元からこんな色だったっけ』
会話することが目的だったのだと思う。心は彼を敵だと言っている。脳がそれを否定するために、必死に会話をつなぐ。ほら、こんなに普通に話ができている、僕の言うことを聞いてくれている。味方だ。味方だ。
そうして心の騙し方を得ていった。
僕の「気持ち」は自由自在になった。
なにより僕自身がその「気持ち」を本当だと思えるようになった。
どうしようもない気持ちなんていなくなった。