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手術 (7)

まな板の上の鯉


オペ看さんだろう女の方数名に手術着をはぎ取られる感じで、手術用の布?を被せてくれた。

なるべく肌が見えないように手早くしてくれた。

ありがたい。

それが終わると手術台の上に乗り、少しの間手術用照明灯をぼーっと眺めていた。

父が20年前の手術の時に言っていた、まな板の上の鯉になる瞬間だな、と我に返った。

硬膜外麻酔地獄


まずは背中にチューブを入れる為に針を刺すことから始まるらしい。

事前に説明を受けていたが、初めての事だらけでうろ覚えだった。

1つ1つ説明をしてくれた。

硬膜外麻酔。

これがあれば術後の痛みを自分で少しコントロールできるもの、らしい。

背中を突き出すように丸くなり、表面に麻酔を塗った後、背中に針が刺された。

「痛い!!」

衝撃的な痛さに体が動いた。

3、4人がかりで体を押さえるが、ガシッと押さえつけるのではなく、痛く無いように配慮してくれていた。

2、3回射ち直された、と思う。

誰か上手な人はいませんかー?!心で叫ぶ。

しかし、何度も失敗して上手くなるのだから、と実験台に徹することにした。

というか、私が動くからいけないのだろう。

それにしても、出産の時よりも怖いわ。

昔に戻って出産中の私に教えてあげたい。

出産より痛いものがあるのよ、と。

それよりも午前中に戻って、点滴のルート確保用の針を怖がっていた私に教えてあげたいわ。

そんなの怖いに入りません!と。

女神

一応布で体を覆ってくれていたが、私が動く度に背中やお尻は丸見えになっていた。

オペ看さんだろうか、私を押さえつつ、尚且つ体が見えないように配慮してくれた。

手術室に女神がいた。

女神の1人はお尻を担当。

もう1人の女神は何かを掴みたい私の気持ちに寄り添い、自らの手を差し出してくれた。

他にも背後に女神らしき気配があった。

しかし、余裕の無い私はそんな優しい方のお腹やら胸やらに自分の丸めた体や膝を何度も当てていた、と思う。

蹴ったかもしれない。

手をぎゅっと握ってしまったかもしれない。

ごめんなさい、と言いながらも、どうにも止められなかった。

長い時間に感じた。

ようやく針を伝ってカテーテルを挿入出来た、らしい。

女神達が私からサッと離れて次の準備に取り掛かった。

女神達は本格的な手術が始まる前から疲れただろうに。

申し訳ない気持ちでいっぱいだった。しかし、どうしようもなかった。ごめんなさい。

全身麻酔

その頃には、痛さと恐怖から涙が止まらず鼻も詰まっていた。

鼻が詰まっていても酸素が吸えるのか?と酸素マスクをつけてもらいながら考えていたが、冷静になると口から呼吸をすれば良いことに気付いた。

次はいよいよ全身麻酔。

父が心臓の手術をした時には、なかなか麻酔が効かなかったようで、何回も名前を呼ばれ、ずっと返事をしていたという。

「〇〇さん」 「はい」
「〇〇さん」 「はい」・・・

術後の父から聞いて家族で爆笑したものの、父と同じだったらどうしよう、とよりによって手術台の上で父の話を思い出した。

私はというと返事をした記憶は無く、ものの数秒で麻酔が効いたらしい。

良かった。

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