【創作】「みんないい子でまっている」
いい子にしてたら、サンタさんがプレゼントを持って来てくれるからね。
お母さんはそう言った。
そして、ぼくはいい子だと言った。
もうすぐクリスマス。
ぼくは、サンタさんが来るのが待ち遠しい。
プレゼント、何が届くかな。
欲しかったレゴかな、新しい自転車かな、見たこともないおもちゃだったら、どうしようか。
そんなことを考えながら、サンタさんに手紙を書いていると、後ろから声が聞こえてきた。
「いいなあ、ぼくもいい子なのになあ」
振り返ると、そこには靴下が落ちていた。
ぼくの靴下。
車の模様の、あったかい青い靴下。
靴下は、顔を見合わせてため息をついた。
「ぼくたちだって、いい子だよねえ」
「そうだよ、毎日タロウくんの足にぴったりくっついて、あっためたり、守ったり」
「踏まれても、文句ひとつ言わないしねえ」
「ときどき、片方だけ洗濯機の裏に落とされちゃっても、騒がずに待っているしねえ」
青い靴下たちは、心底がっかりしているみたいだった。
だからぼくは、聞いた。
「もしサンタさんが来たら、何が欲しい?」
青い靴下たちは、飛び上がって言った。
「そりゃ新しい靴さ。
ピカピカの、かっこいいやつ」
「あの泥だらけとはお別れ。
新しい靴にスポッとハマったら、最高だよ」
ぼくは、サンタさんへの手紙に、「いい子の靴下のために、新しいくつを」と付け足した。
サンタさん。
靴下のところにも、来てくれるかしら。
すると、また別の声がした。
となりの寝室の布団の方からだ。
「いいなあ、ぼくもいい子なのになあ」
近づいてみると、枕がため息をついていた。
お父さんの枕だ。
「ぼくだって、なかなか働き者ですよ?
お父さんの重たい頭を、毎晩しっかりのせてあげていますからね。
髪がチクチクとくすぐったくても、文句ひとつ言わないし、涙やヨダレも我慢していますしね」
枕は、心底がっかりしているみたいだった。
だから、ぼくは聞いた。
「もしサンタさんが来たら、何が欲しい?」
すると、枕は飛び上がって言った。
「そりゃ新しい枕カバーですよ。
しましまもようのオシャレなやつ。
そうしたら、このヨレヨレカバーは捨ててくださいな」
ぼくは、サンタさんへの手紙に、「いい子の枕のために、新しいカバーを」と付け足した。
しましまもようの枕の絵も描いた。
サンタさん、枕のところにも来てくれるかしら。
すると、今度は本棚から声がした。
「いいなあ、オイラもいい子なのになあ」
本棚にはさまった、一冊の絵本がそう言った。
弟のジローのお気に入りの絵本だ。
「オイラも、がんばりやさんだぜ?
ジローが引っ張っても、破いても、怒らないでいてやれるし。
セロハンテープでベタベタにされても、背中がこんなにボロボロでも、じっと耐えているんだからさ」
絵本は、心底がっかりしているようだった。
だから、ぼくは聞いた。
「もしサンタさんが来たら、何が欲しい?」
すると、絵本は飛び上がって言った。
「そりゃテープだろ、テープ!
セロハンテープじゃなくて、もっと丈夫で大きいやつだ。
オイラがこれ以上ビリビリにならないよう、それを貼って守ってくれよ」
ぼくは、サンタさんへの手紙に、「いい子の絵本のために、新しいテープを」と付け足した。
サンタさん。
絵本のところにも、来てくれるかしら。
そしたら、冷蔵庫からも声がした。
「いいなあ、わたしもいい子なのになあ」
冷蔵庫のいちばん下の野菜室から、赤いりんごが現れた。
真っ赤なりんご。でもひとつだけ。
「わたし、この前セットで買われたりんごよ。ひとつだけ余っちゃって、まだ食べてもらえてないの。
でも、黙って出番を待ってるわ。
もしかして忘れられてるのかしら」
りんごは、心底がっかりしているようだった。
だから、ぼくは聞いた。
「もしサンタさんが来たら、何が欲しい?」
すると、りんごは飛び上がって言った。
「パイシートがいいわ。
それで、アップルパイにしてもらうの。
もうそのまま食べても美味しくないけど、パイなら食べてもらえるでしょう?」
ぼくは、サンタさんへの手紙に、「いい子のりんごのために、パイシートを」と付け足した。
アップルパイの絵も描いた。
サンタさん。
りんごのところにも、来てくれるかしら。
そうやって、できあがったサンタさんへの手紙を、ぼくは枕元に飾った。
サンタさんが、読んでくれますように。
いい子のところへ、来てくれますように。
🎄🌙
クリスマスの朝。
ぼくの枕元には、大きなプレゼントが届いた。
紙をビリビリとやぶって、中を覗くと__
あ!やっぱりレゴセットだ!
ぼくは飛び上がって、よろこんだ。
それだけじゃない。
サンタさんは、みんなのところにもちゃんとプレゼントを届けてくれていた。
玄関には、新しい靴が。
お父さんの枕は、しましま模様に。
絵本には、つるりとテープが巻かれていた。
そして。
ほら、くんくん、とってもいい匂い。
「メリークリスマス!
ほら、アップルパイを焼いたわよ」
お母さんは、焼きたての大きなアップルパイをぼくの方に見せてくれた。
サンタさん、ありがとう。
ぼく、来年もいい子で待ってるよ。
もちろん、家中のみんなも、ね。