天ぷら不眠【毎週ショートショートnote】
「天ぷら不眠なんですよ」
「‥なに?」
おもわず聞き返すと、美容師さんは「ホラ」と、僕の膝上の雑誌を指さした。
「天ぷら不眠、知りません?」
「‥天ぷらに失礼では?」
「私もストレスに包まれて、毎晩寝れません」
僕は呆れて雑誌を見た。
誰だ、こんなの流行らせようとしてるのは。
天ぷら屋か?
いや、むしろ天ぷらのイメージダウンだ。
「トンカツ不眠じゃダメなんですかねー。
あの衣の方がストレス度強そう」
美容師が笑いながら手を動かす。
僕は短くなった髪に満足し、また雑誌を見た。
あらゆる悩みの衣にくるまれた男が、暑苦しそうにうなされる絵は、昨日の自分みたいだ。
暑い夜だった。
散髪を決意するくらいに。
◇◇◇
夜。
頭は涼しいが、部屋は暑い。
熱気が体にへばりつく。
のたうちながら、「天ぷら不眠だ」と思う。
___あつい、あつい!
夢を見た。
天ぷら鍋に落ちて揚げられる夢。
悪夢だ、ほんと。
【418字】
_________
天ぷらが食べたくなりました。
家では、ほぼしたことないけと。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?