命乞いする蜘蛛【毎週ショートショートnote】
「お願いです!命だけは!」
悲痛な声で、蜘蛛が叫ぶ。
しかし、敵は聞く耳持たない。
容赦ない攻撃をすんでのところで交わした蜘蛛は、そのまま走ってその場を離れた。
少しでも遠くへ‥!
必死に足を動かした。
一体どうして、こんなことに。
始まりは、唐突だった。
家の中心で空を見上げていたら、突然の揺れに襲われた。
強い衝撃。
気づけば、地面に落ちていた。
痛みに襲われ、しゃがみ込む。
しかし、それがいけなかった。
敵は、蜘蛛が動きを止めるのを見逃さなかった。
「やめろ!俺が何をしたって言うんだ!」
蜘蛛が叫ぶ。
しかし、敵は怯まない。
蜘蛛は、覆い被さる影に目を瞑った。
*
「こら!クモさん踏んだらあかん!」
息子を抱き上げるが、一足遅かった。
1歳の息子の靴の下から、ぺしゃんこのクモが現れた。
ああクモさん、ごめんなさい。
この春、息子は初めて虫に出会った。
アリ。てんとう、ダンゴムシ。
みーんな踏んで、潰してしまった。
悪意はないが、躊躇もない。
子どもあるあると分かりながら、私は息子をたしなめた。
息子はきょとんとクモを見る。
ああクモさん、お願いですから化けて出ないで。
(465字)
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真っ先に息子が浮かんだお題だった。
最近、あたたかくなり虫によく遭遇するが、一瞬もためらうことなく、潰すか踏む。
いつか虫に呪われそうで、親の私が肝を冷やしている。