東京旅行日記その5(二日目/二〇二四年五月二十三日)
「芸術は爆発だ」。
次の目的地は南青山の岡本太郎記念館。
若い人の認知度は不明だが、自分の子供のころはテレビによく出ていた記憶がある。
目を見開いた風変りな表情で決め台詞を放つ変なおじさんという印象だった。
大きくなって色々見たり読んだりしているうちに、「実はすごい人だったんだ」とわかるタイプの人。
日本の野獣派と呼ばれているわけではないが、学術上の定義は無視して、マティスと比べてどちらがより野獣っぽいかと言われれば、明らかに岡本太郎だろう。
そもそも「人々を癒す肘掛け椅子のような作品を作りたい」と言っている人を野獣と呼んではいけない。
徒歩移動。見慣れない町並みは楽しいが交通量も多く、あまり落ち着かない。
お昼だし、面白そうな飲食店があれば入ろうと思ってキョロキョロしながら歩く。
明らかに必要数より多く煙突が立っている小さな建物を見かける。
かおたんラーメンとある。ちょっと迷ったが入らず。
そこまで空腹というわけでもなく、そのまま目的地に到着。
少し奥まった、道が細い区域に岡本太郎記念館があった。
地図アプリがないと見つけにくいかも。
自邸兼アトリエだったらしい。
敷地内に入ると、庭に所狭しと特徴的な立体作品が設置されている。
草木も生い茂っていて、作品と共存している。
芭蕉の蕾がおおきくぶら下がっている様子のほうが、より人工的に感じられてぎょっとする。
建物の中に入って受付。写真撮影はOKとのことであちこち撮ってまわる。
岡本太郎的としか言いようのない特徴的な立体作品、絵画。
立体作品はまだかわいらしい印象もあるものの、絵画に関しては形も色使いも不穏そのもの。
ポジティブなタイトルのついた作品でも文字通り受け取ることができない。
途中、室内からガラス越しに庭の写真を撮る。
他の入場者の方が映りこんでしまった。
少し話が逸れるが、自分は観光地の自撮りが苦手である。
被写体としての自分に魅力がなさすぎるのもあるが、表情を作ったり、ポーズをとったり、自分を含めた構図を考えたり、結構な技術とセンスが要求される。
元々の見た目とセンスの良さでそれなりに仕上げられる人もいるが、人並み以下の風体の素人おじさんが素人なりのセンスで自撮りしても、観光地に来た証拠写真以上のものにはならない。
特にこれから撮るぞ撮られるぞというときに必ず映ってしまう自意識が厄介なのだ。
後日、写真で旅行の楽しい思い出に浸ろうとしている時に、自意識が漏れ出ているおじさんが映りこんでしまうと悲しい気持ちになる。
人がやっているのを見てもなんとも思わないので、あくまで自分が観光地で自撮りする場合の話である(なので実際には撮ったことはない)。
話を戻すと、このとき偶然取れた写真が、自分の中でかなり出来が良かった。
映っている人は写されたことに気づいていないので、作られていない表情がとても自然であり、周囲の非日常ときれいに調和している、と思う。
惜しむらくは映っているのが自分ではないということだ。
今すぐその人のところに駆け寄って「すみません、いい写真が撮れたのでお送りしてもいいですか」と話しかけたい衝動に駆られる。
その人は女性であり、おそらく自分より少し若いくらいである。
新手のナンパと思われるくらいならまだマシで、不審者として通報されても文句は言えない。
しばらく自然に話しかけられる策はないか考えたが、何も思い浮かばず。
その人もどこかに行ってしまった。不審者にならずに済んだ。
とりあえず個人特定できない感じで画像を載せておくので、万が一、本人からコメントもらえればうまいこと共有する方法を考えたいと思う。
1時間ほど滞在して次の目的地に向かう。
せっかく岡本太郎記念館に行ったんだから、『明日への神話』も見たい。
この作品の詳細は「ほぼ日刊イトイ新聞」に詳しい。
南青山から向かうのは渋谷である。
地図で見る限り、作品が展示されている渋谷マークシティは徒歩圏内だ。
内股の擦れを気にしつつ、てくてく歩く。
渋谷駅までは問題なく到着。ただ、結構暑い。
半そでハーフパンツにサンダル履きでも汗だくになる。
本格的に夏になる前に来て正解だった。
あの有名な渋谷のスクランブル交差点をぐるぐるするが、作品があるという渋谷マークシティの場所がわからない。
屋内屋外出たり入ったりで、地図アプリが正確に機能しない。
どこがどこにつながっているのか、道が入り組んでいて、方向感覚も狂わされる。
結局「JR渋谷から京王井の頭線へ移動する途中にある」という文字情報だけで探すのが一番わかりやすかった。
カメラにはまともに収まらない巨大な作品。大きすぎて一度通り過ぎてしまった。
強烈な毒と規模、まさに太陽のごとき創作のエネルギーがないと生み出すことのできない作品だと思う。
もうすでに充分心が満たされているが、ここまでで15時過ぎくらい。
夜のイベントはこれからである。
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