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#1 始まりの話



 私の名前は弓木奈於。乃木坂商事で受け付けの仕事をしています。そんな私は今、男の子と二人暮らしです。その子は小学六年生ですが、学校には行ってません。では何故、一緒に暮らす事になったのか。今回はその経緯を、皆さんにお見せしたいと思います。





 最初の出会いは、今からニ年前。非常に寒い日でした。この日は、仕事が早く終わったので、定時で上がり、真っ先に家に帰っていました。


奈於:ふぅ~。寒い寒い。

奈於:あれ?

 帰り道にある公園のブランコに、一人の男の子が座っていました。

奈於:あの子・・・こんなに寒いのに、どうして・・・

 この時の彼は、マフラーも手袋もしておらず、ましてや厚着でもありませんでした。私はそれが気になって、声を掛けたんです。

奈於:ねえ僕。何してるの?

?:・・・

奈於:こんな所で・・・お父さんかお母さんは?

?:・・・

奈於:あ、いきなり話しかけたらびっくりするよね。ゴメンね。大丈夫。私、弓木奈於っていうの。僕、名前言える?

?:・・・

奈於:・・・おやつ食べる?て言っても、じゃがりこしか無いんだけど。どうかな?

?:・・・🙁フリフリ

奈於:・・・そりゃそうだよね。それより寒くない?大丈夫?

?:コクッ

奈於:・・・マフラー、貸してあげるね。

 私は首にマフラーを巻いた。

奈於:どうかな?

?:・・・あったかい・・・

奈於:🙂此処には、遊びに来たの?

?:・・・フリフリ

奈於:違うの?

?:コクッ

奈於:・・・

?:・・・お母さんが、行けって・・・

奈於:お母さんが?

?:・・・お母さんが、出て行けって。僕、邪魔なんだって・・・

奈於:え?

?:お父さんも・・・僕は邪魔だからどっか行けって・・・

奈於:なに、それ・・・

?:だから此処に居るの。

奈於:・・・そっか・・・ちなみに、それ以外に何かされたりとかしてない?

?:・・・殴られた・・・うるさい、黙れって。

奈於:・・・そっか・・・あ、ねえ。ちょっと袖捲るね。

?:・・・

奈於:これ・・・反対側も捲るね。

?:・・・

奈於:やっぱり・・・これ、お母さんに?

?:・・・コクッ

奈於:・・・

 彼の腕には、いくつもの痣が有った。

奈於:ちょっと触るね?

?:痛っ!

奈於:あ、痛かったね。ごめんね。

?:・・・

奈於:・・・今日は、夜はどうするの?

?:・・・帰ったら怒られる。

奈於:・・・じゃあ、私の家、来る?

?:え?

奈於:・・・僕が良いなら、私は良いよ?

?:・・・

奈於:今日一晩私の家で暮らして、明日警察に行こっか。どう?

?:・・・僕、邪魔じゃないの?

奈於:🙂そんな事無いよ。

?:・・・ホント?

奈於:うん。・・・どう、かな?

?:・・・じゃあ・・・フラッ

奈於:!?ボフッ

?:ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・

奈於:ちょっとおでこ触るね。ピトッ🤚!?熱い。どれぐらい居たのかな・・・えっと、どうしよう・・・家に連れて行く?けど・・・病院に行くね?

?:ハァ、ハァ・・・

奈於:急がないと。

 彼を抱っこした私は急いで、近くの病院に向かった。

奈於:すいません!

看護師:どうされましたか?

奈於:この子、風邪引いちゃってるかもしれなくて。苦しそうなんです!

看護師:・・・ちょっと触るね。熱い。腕も見るね。!?コレ・・・

奈於:詳しくは、後で説明します。だから今は、この子を!

看護師:・・・分かりました。婦長!急患の子供が居るので受け付けまでお願いします!

 その後、婦長さんと先生が来て、彼を治療した。お陰で彼は落ち着いた。

奈於:・・・

医師:風邪でした。念の為、検査をしましたが、特に病気とかでは無いので、安心してください。

奈於:良かった・・・

看護師:それで、お母さん。

奈於:私、この子の母親では無いんです。

看護師:え?

奈於:・・・この寒空の中、防寒具も防寒着も無しで、公園のブランコに座っていたんです。

 それから、彼の事情を、知ってることを全て話した。

医師:成る程。・・・

奈於:あの、警察への通報は?

医師:それはしないといけません。対応を考えないといけませんから。でも、今日一晩は絶対安静ですので、通報はまた後日になると思います。

奈於:分かりました。

看護師:この子が起きないと、名前も分かりませんね。

奈於:・・・

医師:取り敢えず、書ける範囲で、診断書を作成して。痣のことも含めて。

看護師:分かりました。

医師:弓木さんは、どうされますか?

奈於:一晩、此処に居ても良いでしょうか?どうせ明日は休みですし。それに・・・

医師:分かりました。許可します。

奈於:ありがとうございます!

医師:いえ。それでは。何か有ったらナースコールしてくださいね。

奈於:はい。

 そうして先生は出ていった。

奈於:・・・ギュッ🤝早く元気になってね。


翌日・・・


?:んっ。んぅ・・・此処、何処・・・?

奈於:あ、起きたんだね。

?:・・・お姉、さん・・・

奈於:良かった。此処は病院だよ。

?:病院・・・

奈於:先生、呼ぶね。

 ナースコールをすると、先生と看護師さんがやって来た。

医師:目が覚めて良かった。体調はどうかな?

?:・・・コクッ

医師:そっか。念の為、お熱測るね。

看護師:ちょっと襟元ゴメンね。・・・よし。しばらく待ってようね。

医師:弓木さん、ちょっと。

奈於:はい。

ガラガラ🚪

?:・・・

看護師:?弓木さんの事、気になるの?

?:・・・コクッ

看護師:そっか。弓木さん、必死だったよ。君を抱えて此処に来て、検査中もずっと側に居たから。

?:・・・

看護師:🙂


病室の外


医師:彼の腕の痣ですが、新しいのと古いのが混在しています。かなり長い間、虐待を受けていた可能性があります。

奈於:・・・

医師:コレは立派な犯罪です。警察に通報します。

奈於:お願いします。

医師:それと、彼の今後ですが・・・コレに関しては児童相談所と協議してみないと分かりませんが、恐らく、児童養護施設か孤児院に入る事になると思います。

奈於:そうですか・・・

医師:彼の事を考えると・・・児童養護施設の方が良いと思うのですが。こればっかりはどうしようも。とりあえず、保護者との事が優先です。

奈於:はい。

医師:じゃあ、一旦病室に戻りましょう。

奈於:はい。

ガラガラ🚪

医師:熱はどうでした?

看護師:37℃です。だいぶ落ち着きましたね。

医師:そうだね。一応、今日一日は此処で過ごそうか。

?:・・・ごめんなさい。

医師:気にしなくて良いよ。じゃあ、私は連絡してきます。

奈於:お願いします。

医師:また後でね。

?:はい・・・

 先生と看護師は出ていった。

奈於:早く治って良かったね。

?:・・・はい。

奈於:・・・何か欲しいもの有る?

?:・・・大丈夫です。

奈於:ホントに?何でも良いんだよ?

?:・・・コ・・・チョコ、食べたいです。

奈於:ふふっ。分かった。買ってくるね。

?:はい。ありがとうございます。

奈於:ううん。気にしないで。

ガラガラ🚪

?:・・・

 それからチョコを買って、彼にあげた。それからゆっくりしていると、病室のドアがノックされた。

奈於:は~い。

医師:弓木さん。警察の方と、児童相談所の方です。

?:はじめまして。乃木坂署生活安全課の賀喜遥香です。

?:児童相談所の田村真佑です。

奈於:弓木奈於です。宜しくお願いします。

二人:お願いします。

遥香:さっそくですが、いくつか質問させて下さい。

奈於:はい。

遥香:まず、虐待だと思った理由は?

奈於:腕の痣と、彼から聞いた話からです。両親から、邪魔だから出ていけ。そう言われたって。

遥香:成る程。先生、診断書を見せて下さい。

医師:コチラがその診断書です。

遥香:拝見します。・・・長い間ということですが、具体的には?

医師:一番古い痣で、ニ、三年前の物と思われます。

遥香:ニ、三年・・・風邪の方は?

医師:そっちの方は問題無いかと。熱も下がってますし。

遥香:そうですか。ありがとうございます。

医師:いえ。

遥香:・・・彼にも話を聞きたいのですが・・・

奈於:・・・自分の事、お姉さんに話せる?

?:・・・はい。

奈於:うん。お願いします。

遥香:はい。じゃあ質問するね。答えたくなかったら、首を振ってね。

?:はい・・・

遥香:お名前を教えてください。

?:・・・◯◯、です。

遥香:◯◯君ね。名字も言えるかな?

◯◯:・・・中島・・・

遥香:中島◯◯君だね。何歳ですか?

◯◯:十歳です・・・

遥香:十歳・・・四年生かな?

◯◯:・・・はい・・・

 その後もいくつか質問され、◯◯君はちゃんと答えていた。

遥香:教えてくれてありがとう。

◯◯:コクッ

遥香:田村さんからは何かありますか?

真佑:じゃあ、一つだけ。◯◯君。お父さんとお母さんの所に戻りたい?戻りたくない?

◯◯:・・・戻り、たくない・・・

真佑:そっか。ありがとう。私からは以上です。

遥香:私からも以上です。

奈於:あの、今後はどうなりますか?

遥香:まだ何とも言えませんが、上に掛け合って、何かしらの対策を取ることにはなると思います。少し時間は掛かりますけど。

奈於:そうですか。

遥香:診断書をお預かりします。

医師:お願いします。

遥香:それから、◯◯君の痣の写真を撮らせてください。重要な証拠になるので。

医師:分かりました。

真佑:◯◯君は私が見てますので、弓木さんは一度帰宅してください。一晩ずっと◯◯君についていたという事なので、一度帰宅して休んでください。

奈於:・・・分かりました。また後で来るね。

◯◯:・・・はい。

 それから一度帰宅。シャワーを浴びて軽く一眠りしてから病院に戻った。


病室の前のベンチ

真佑:弓木さん!もう戻ってきたんですか?

奈於:◯◯君が心配で。賀喜さんは?

真佑:署の方に戻りました。

奈於:そうですか。◯◯君は?

真佑:今はYouTubeを見てます。物珍しそうに見てますよ。

奈於:良かった🙂

真佑:今まで、相当苦しい生活をしていたみたいです。

奈於:・・・中、入ってもいいですか?

真佑:どうぞ。

ガラガラ🚪

奈於:チラッ

◯◯:・・・あ、お姉さん・・・

奈於:さっきぶり。すっかり元気だね。

◯◯:はい。

奈於:YouTubeは面白い?

◯◯:はい。勉強になります。

奈於:勉強?

◯◯:はい。

奈於:あ、授業動画見てるんだ。

◯◯:勉強、ちゃんとしてないから。

奈於:え?学校行ってないの?

◯◯:はい。一年生の時は行ってたんですけど、学校行っても意味ないからって、お父さんが・・・

奈於:・・・(心:学校にも行かせてないなんて・・・虐待がバレるのを恐れて、行かせなかったのかも。)そっか。じゃあ、ちゃんと勉強しないとね。

◯◯:はい。

奈於:ふふっ。じゃあ、頑張ってね。

◯◯:帰っちゃうんですか?

奈於:ううん。外に居るよ。

◯◯:・・・お姉さん。

奈於:?何?

◯◯:・・・助けてくれて、ありがとうございました。

奈於:ふふっ。どういたしまして。

ガラガラ🚪

奈於:◯◯君。学校にも行ってなかったみたいですね。

真佑:そうなんですか?!

奈於:はい。多分、虐待がバレるのを恐れての事だと思いますけど。

真佑:なるほどですね。

奈於:・・・◯◯君が、学校に通える日は来るんですかね。

真佑:・・・正直、分かりません。でも、いつかは行けるようにしてあげたいです。

奈於:はい。

 それから一週間後。◯◯君の証言や体の痣、近所の人達の証言もあり、両親は逮捕された。その後の捜査で、傷害罪や逮捕・監禁罪なども判明。裁判に掛けられることになった。それから更に時は経ち、両親には懲役刑が課された。(懲役何年とかは難しくて分からないので、省きます。)一方、◯◯君は・・・

真佑:児童養護施設への入所が決定しました。

奈於:そうですか・・・

◯◯:・・・ありがとうございます。宜しくお願いします。

真佑:うん😊

奈於:賀喜さんも色々ありがとうございました。

遥香:いえ。私は、私の仕事をしただけですから。◯◯君。頑張ってね。

◯◯:はい。

遥香:ふふっ。

奈於:またね。

◯◯:ありがとう。奈於お姉さん。

奈於:うん。ちゃんとご飯食べて、勉強してね。ちゃんと運動もするんだよ?みんなと仲良くね。

◯◯:うん。

奈於:・・・元気でね。

◯◯:・・・うん。・・・ギュッ

奈於:!?◯◯君・・・ギュッ

◯◯:また、会いに来てね。

奈於:・・・うん。必ず会いに行くよ。約束する。

◯◯:うん・・・

奈於:指切りしよっか。

◯◯:うん。

二人:指切りげ〜んまん、嘘ついたら針千本のーます。指切った。🙂

奈於:また。

◯◯:うん。

 こうして、◯◯君とは一旦お別れとなりました。そして、出会ってから一年、お別れしてから二ヶ月が経った頃、私は◯◯君に会いに行った。

奈於:・・・

真佑:弓木さん。お待ちしてました。

奈於:田村さん。お久しぶりです。

真佑:お久しぶりです。

奈於:◯◯君の様子はどうですか?

真佑:最初の内はまったく馴染めなかったんですけど、今は一部の子とだけですが、仲良く遊んでますよ。

奈於:そうですか。良かった。

真佑:じゃあ、どうぞ。

奈於:あ、お邪魔します。

真佑:◯◯君!奈於お姉さんが来たよ!

奈於:あ・・・

◯◯:・・・奈於お姉さん!

 ◯◯君は駆け寄ってきてくれた。私はそれを、しゃがんで迎える。

◯◯:ギュッ

奈於:おっ😊ギュッ 久しぶり。元気にしてた?

◯◯:うん!

奈於:ふふっ。良かった。遅くなっちゃったけど、約束守ったよ。

◯◯:うん!

真佑:ずっと待ってたもんね。

◯◯:うん・・・

奈於:ゴメンね。ちょっと仕事が忙しくて遅くなっちゃった。

◯◯:フリフリ

奈於:🙂

田村:弓木さん、ちょっとお話が・・・

奈於:?分かりました。◯◯君、ちょっと行ってくるね。

◯◯:うん。

 田村さんに連れられ、別室に移動した。

奈於:話って?

真佑:◯◯君の事なんですが・・・

奈於:はい。

真佑:毎日では無いんですが・・・夜中に、◯◯君が魘されている事が有るんです。

奈於:魘されている?

真佑:はい。「お父さん、お母さん。辞めて。」って。

奈於:それって・・・

真佑:はい。虐待の記憶が、夢の中で◯◯君を苦しめているみたいで。軽く抱き締めて、頭を撫でてあげると落ち着くんですが。

奈於:・・・

真佑:我々としては、彼を安心させる為にも、彼を受け入れてくれる家族を見付けてあげたいと思ってるんです。ただ、中々見つからなくて。

奈於:・・・親戚とかもいないんですか?

真佑:・・・父親も母親も一人っ子です。父親の両親は二人共亡くなってます。

奈於:母親の方は?

真佑:母親の方も、父親は彼女が若い頃に亡くなり、母親は肺がんのステージ4で、余命一ヶ月。引き取りは不可能。だから・・・

奈於:天涯孤独ってことですね。

真佑:はい。

奈於:・・・里親って、どうなったらなれますか?

真佑:・・・弓木さん、もしかして・・・

奈於:私が◯◯君の里親になります。

真佑:・・・色々大変ですよ。弓木さんの生活だって、今とは大きく変わりますし。

奈於:それでも・・・私は◯◯君の力になりたいです。

真佑:・・・分かりました。里親になるには色々準備があります。条件を満たしてないとなれないので。

奈於:何でもします。◯◯君のためなら。

真佑:◯◯君も、喜ぶと思います。

奈於:そう思ってくれたら嬉しいです。




奈於:◯◯君。

◯◯:あ、お姉さん。話終わった?

奈於:終わったよ。

◯◯:一緒に遊ぼ?

奈於:ふふっ。良いよ。何して遊ぶ?

◯◯:うーん🤔パズルしようよ。

奈於:パズル?ふふっ。良いよ。

◯◯:じゃあ持ってくる!

奈於:うん!

真佑:ふふっ。(心:弓木さんなら、安心だな。)

 それから色々準備をして、◯◯君の里親になる条件を満たす事が出来た。里親になると決めてから、半年後だった。

奈於:これからは、一緒に暮らそう?

◯◯:ホントに?僕、邪魔じゃないの?

奈於:邪魔じゃないよ。

◯◯:ホント?

奈於:うん!

◯◯:チラッ

真佑:うん。

奈於:どうかな。

◯◯:・・・一緒に居て良いの?

奈於:勿論!◯◯君は、どう思ってる?◯◯君が嫌なら、私は無理には言わない。◯◯君の、素直な気持ちを教えてください。

◯◯:・・・僕も、奈於お姉ちゃんと一緒が良い!

奈於:◯◯君・・・

◯◯:ギュッ

奈於:・・・😊ギュッ これから、宜しくね。

◯◯:・・・宜しくお願いします。

奈於:はい。

真佑:😊

 こうして私は、◯◯君の里親になった。コレが、◯◯君と一緒に住むことになった経緯です。



To be continued…



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