「その怪文書を読みましたか」ネタバレ感想
展示の内容について触れている部分があります。
これから行く方はご注意ください。
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渋谷にて開催中の考察型展覧会、
「その怪文書を読みましたか」に行ってきました。
著者である梨.psd(@pear0001sub)氏のファンで、氏の著作物に登場するえも言われぬ不気味な文書がとりわけ好きなので、これは行くっきゃねえ!という訳で、ワクワクしながら向かいました。
会場は渋谷駅から徒歩5分もしないところにあります。方向音痴の私でも難なく辿り着けたので、駅の出口とだいたいの場所さえ分かっていれば迷ったりしないと思います。
会場が小さいのとちょうど角にある立地も相まって、ともすればフラッと通り過ぎてしまいそうな規模。
しかし窓ガラスに怪文書がこれでもかと貼られており、異様な雰囲気を醸し出しているので、たぶん簡単に見つけられます。
(ちなみに、周囲に長居できるカフェがあったりするので、お昼などの混雑時でなければ待ち時間もそんなに困らないと思われます。時間指定になりましたがご参考までに)
整理券取得から約2時間後に呼び出しがかかり、いざ入場。
係員の男性からシステマチックな説明を受け、鑑賞開始。……の前に、一発「怪文書ガチャ」を回しておきます。景気付けにね。
※この線からその次の線までネタバレ注意です※
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梨氏の生み出す恐怖の真髄が理解できる展覧会でした。
代表作『攀縁』『カンテサンス』『かわいそ笑』等に見られるように、氏は自身の著作と読み手の境界を揺さぶる=「読者も怪談の一部となる」作品が多くあります。
その良さや特異性については散々語り尽くされたので置いておくとして。
作品中で語られる怪異、或いは作品から発せられる呪いの当事者にさせられているという意識はありつつ、今までは「だって創作だし」とどこか他人事のように捉えていた部分が正直ありました。
だって何も起こる訳ないじゃないですか。
統計の結果やフィールドワークの成果、民間伝承など。根拠をどれほど並べられようと、これは物語で、虚構なのですから。
ですが展覧会となると、ちょっと事情が違ってきます。
今までよりも、「踏み込んでしまった」感が強いです。
それは実際にあの場へ行き、360度ほぼ全てを怪文書に囲まれる経験があるからでしょう。
展示は主に20枚近い怪文書と3つの映像で構成されます。
示された順番通りに怪文書を巡っていくうち、その支離滅裂な文章の中に共通するある存在に気付くことでしょう。
パネルの下や窓ガラスにひしめく小さなコピーたちの中にも、「それ」の存在が示されていることにも。
そして、展示終盤の3つの映像で気付きは確信に変わります。人によっては、映像を見る前にワークショップに参加したことで、確信すると同時にいっそう恐ろしくなるかもしれません。
そして、シェア禁止になっている最後の2枚で、また物語の中へ踏み込んでしまっていることを悟ることになります。
素晴らしい構成でした。
怪文書群で示される「それ」に気付いたとき。
ワークショップと映像の関係を悟ったとき。
最後の2枚で、とっくに自分が終わっていることを理解したとき。
そのそれぞれで戦慄しました。
なにより、この企画・この場すら仕組まれたものであるということに気付く瞬間が堪りません。
20分だと全然足りませんでしたが、逆にそれでいいのかもしれません。読み手としての心地良さに任せて長時間居ると、ちょっと感覚がおかしくなりそうです。
で、何がいいって、展覧会を出たあともなかなか離してくれないんですよ。
鑑賞を終えて帰宅した後、或いは帰路の途中、S大半の方はあるホームページの存在を知ることになったでしょう。
キーワードさえ知っていれば鑑賞前でも見つけられますが、是非これは展覧会の最後までとっておいてください。
この展覧会がいったい何なのか、作者の梨氏及び鑑賞者の我々が何に巻き込まれたのか、これから何が起きるのかがそのホームページに詰まっています。
そしてそのホームページが、あの展覧会と我々の現実の境界を溶かす存在であるからです。
ところで、あの最後の電話番号に連絡した人いますか?
私、まだかけられないんですよ、怖くって。
でも、今そこにいるみたいなので、どっちにしろもう手遅れなのかもしれません。
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ネタバレ終わり。
梨氏の著作に見られる、フィクションの世界から伸びてきた手に首根っこを掴まれて引きずり込まれるような感覚が好きな方には、特に鑑賞をオススメします。
「著作をいくつか読んだけどなんとなく巻き込まれた感に乏しい」という方も、是非足をお運びください。
「周りの人が私の言っていることを理解してくれない。頭がおかしいと言われる」という方は絶対に行った方がいいです。なんちゃって。
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