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臨床推論 Case82

Arch Neurol. 2006 Jul;63(7):978-81.
PMID:16831946

【症例】
54歳 女性

【現病歴/現症】
⚫︎ SASの既往があり、CPAPを装着している
⚫︎ 朝に目を覚まし夫に「疲れた」といっていた
⚫︎ 1時間後にベッドで意識不明になっている状態で発見し救急要請された
⚫︎ 入院時にCO2貯留あり挿管管理となった
⚫︎ 神経や筋肉の生理検査、脳波、心電図などを行ったが原因不明
⚫︎ Tilt試験を実施したところ臥位156/66mmHg➡︎70°8分で156/66mmHg➡︎20分で64/44mmHgまで低下した
⚫︎ これが関連しているか不明であった
⚫︎ ADLが低下しリハビリ病院に転院となった

⚫︎ 3ヶ月後に呼吸苦で再度受診された
⚫︎ 呼吸機能検査で中等度の閉塞性パターンを呈し、気管支拡張薬で回復した
⚫︎ 自律神経の検査の結果、中等度の自律神経障害ありと判断された
⚫︎ 何かしらの神経筋原性で呼吸がやられていると考えられた

⚫︎ 18ヶ月後に軽度の平衡失調、疲労感、片足を引きずるようになった
⚫︎ 座位から立位が困難で、腕のふりが非対称に減少した歩行を呈し、左脚は固縮気味であった
⚫︎ MRIや筋電図は正常
⚫︎ パーキンソン病と考えられレボドパ・カルビドパ試験を検討された

⚫︎ その後朝に顔色が真っ白になっており、救急搬送された
⚫︎ 低換気のために挿管管理となり、最終的には気管切開された
⚫︎ 謎の中枢性低換気の診断をうけて退院となった

⚫︎ 数ヶ月後Mayoを受診された
⚫︎ 夫より気管切開前に喘鳴を聴取されたエピソードあり、血圧変動、パーキンソニズムを認め、左バビンスキー反射が陽性であった

⚫︎ 頭部MRIでは橋被蓋部の低輝度が目立った

(画像は別の症例:Arch Neurol. 1999 Feb;56(2):225-8.)

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【診断】
多系統萎縮症

【考察】
⚫︎ MSAは運動障害としてレボドパ不応性のパーキンソニズムと脊髄小脳変性症がある
⚫︎ 呼吸不全症状はMSAの診断基準に含まれないが、喘鳴・SAS・呼吸不全・声帯機能不全を呈することがある
⚫︎ 呼吸の不規則性がMSAの初期症状となりうる
⚫︎ MSAの平均寿命は診断後8-10年である

⚫︎ 死因はあまり集積されていないが多くは夜間の呼吸不全であろう
⚫︎ MSAは低酸素に対する化学受容体の感受性が低い
⚫︎ そのため交感神経が働かず無意識のうちに低酸素になりうる
⚫︎ また睡眠中に呼吸リズムが乱れやすい
⚫︎ これらのためか、気管切開をしていても呼吸が乱れて亡くなってしまうことが多い

⚫︎ 呼吸中枢が位置している脳幹部にMSAは異常病理所見を認めやすい
⚫︎ 特に呼吸の化学受容体の責任部位である延髄腹側弓状核の変性を認める
⚫︎ 延髄のpre-Botzinger complexは呼吸のリズム中枢であるが、ここも変性しやすい

⚫︎ 同様に呼吸器症状が前面にきたMSAのMayoの症例達

➡︎初発症状できた症例で声帯機能麻痺、喉頭痙攣などが含まれる

⚫︎ 原因不明の中枢性呼吸不全、両側声帯麻痺、喘鳴、難治性のSASなどはMSAを検討すべし

⚫︎ 声帯機能障害を初発症状できた20例の検討(喉頭 33:21-25,2021)
・年齢

・症状

・声帯の症状でてから他の症状が出るまでの期間

➡︎この報告でも原因不明の声帯機能不全はMSAを検討すべしとしている
➡︎とくに自律神経障害もチェックすべしと記載あり

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