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臨床推論 Case128

BMJ Case Rep. 2021; 14(2): e239184.
PMID:33547129


【症例】
36歳 男性

【主訴】
左股関節痛 頻尿

【現病歴】
⚫︎ 1年前からの左股関節痛と1日8回以上の頻尿のため受診された
⚫︎ 21歳のときにL5/S1腰椎椎間板ヘルニアで手術歴がある
⚫︎ 複数の整形外科を受診されたが原因を指摘できず

【現症】
⚫︎ 下肢の脱力は認めず 
⚫︎ 左下肢のSLRテスト陽性で、両側膝蓋腱反射亢進あり、両足アキレス腱のクローヌすを認めた
⚫︎ Wartenberg signや肩甲上腕反射は陽性であった
⚫︎ 前屈時の指ー床は20cm以上離れており、前屈障害を認めた

⚫︎ MRIではL5/S1の変性を認めたが、脊柱管狭窄やヘルニアは認めなかった
  パトリックテスト陽性だが仙腸関節部に何もない

⚫︎ しかし胸椎レベルで上記画像のA/B=0.28と減少しており”short cut sign”が陽性であった

What’s your diagnosis ?






【診断】
脊髄終糸症候群(Tight filum terminale)

【経過】
⚫︎ TFT誘発試験は陽性であった
⚫︎ 脊髄終糸の切除手術を施行した

⚫︎ その後は痛み、頻尿、腱反射は正常化した

【考察】
⚫︎ 脊髄係留症候群は3型に分類され、TFTは脊髄円錐がL1/2椎間の正常高位にあり、緊張した脊髄終糸による脊髄が牽引されるgrade1に相当する
⚫︎ 異常な緊張が生じて、脊髄円錐が尾側にひっぱられ疼痛、しびれ、膀胱直腸障害などの症状を引き起こす
⚫︎ MRIでは(ぱっと見)解剖学的な異常を認めないため診断は困難である

⚫︎ 小児での発症と成人での発症にわけられる
⚫︎ 小児では失禁など泌尿器症状で気づかれる
⚫︎ 成人では腰痛や神経分節に沿わない下肢痛、他に脊髄に沿った上肢の痛み、体幹の屈曲障害などを訴える

⚫︎ 成人発症の機序は以下の通り
・ 加齢性変化として線維化、弾性の低下
・ 思春期で身長が伸びて終糸にテンションがかかる
・ スポーツなどで終系に負荷がかかる
・ 加齢による脊椎変性で垂直方向への運動のしなやかさが失われる

⚫︎ 画像だけでは診断は困難であるため診察が大事!
⚫︎ 駒形先生たちによる誘発テスト
① 体幹部を最大前屈する
② ①の状態で頚椎を前屈すると腰痛や下肢痛が誘発される
③ ①の状態で頚椎を後屈すると痛みが軽減する

⚫︎ この誘発試験は立位よりも座位で認めやすい
⚫︎ 座位で行った場合、TFTで96.4%、ヘルニア3.3%、脊柱管狭窄症0%、健常者0%であった

⚫︎ またTFTとヘルニアは症状が似ているようで異なる

東京医科大学のHPより引用(https://tmuortho.net/sekitsuiblog/tftldh/)

⚫︎ 本例ではWartenberg、肩甲上腕腱反射を認めたが文献上での陽性率は3-5%である
⚫︎ 脊髄が引っ張られることで上位の脊髄の障害が起きるのだろう
  疑ったら上肢の診察も入念にやるべし

⚫︎ 画像での試みはいくつか報告がある
・ 脊髄終糸が2mm以上に腫大しているという報告があったが、手術で70%が1.5mmだったとcontroversialである
・また分厚さは関係なく、硬さの問題だろうという報告もある

・ short cut signは診断に役立つとされている
・ 胸椎と脊髄までの距離が短くなる
・ TFTvs健常者でAPR 0.28vs0.83と有意差あり(p=0.03)

⚫︎ 手術により症状は消失し長期予後も良好である

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