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ショートショート3本集〜ホラー〜

ハロウィンといえば、擬態。


          【死体】

 目の前に写るモノに、脳みそが混乱する。これはなんだろう。僕は何を見ているのだろう。どうして、目の前で好きな人が倒れているのだろう。
それも、ぎたぎたのぐっちゃぐちゃで辛うじて顔がはっきり見えるくらいしか残っていない好きな人が。
誰がどう見ても、死んでいる。偶然、通りかかっただけ。そしたら、"あって"……。
混乱している。何がどうなったらこんな死体になるんだ。訳が分からない。
 指定の黒いセーラー服。同じ様に黒く、それでいて理想的な青みがかった濡れ羽色のポニーテール。日焼けが出来ないと語っていた肌は、日本人離れしたピンクがかった白。閉じられた瞼を彩る蝶の様な黒く長い睫毛。ケアされた麗しいピンクの唇は、微かに紅い血に塗れている。そんなに、綺麗に残っている顔からは想像も出来ない様なぐっちゃぐちゃに潰れた身体。セーラー服はその身体をせめてもの隠そうと…守ろうと、上にかかっていた。零れ落ちるは、透明な色を持たない涙。左目から溢れ出す涙を隠せないまま、好きな人に近づく。
 もう、ないであろう体温を確かめようとしゃがみこむ。刹那、好きな人の瞼がゆっくりと開いた。そんな、まさか…。いつも輝いていたアーモンド型の綺麗な形の黒い瞳がぱちり、と瞬く。目の前で起こった信じられない現象に呆気にとられている僕を見ながら、こう、言った。

「んふふ、あなたもこうなるのよ。」

彼女としか思えない声が僕の耳に届く。…そして、僕はそこで意識を手放した。

        【押収されたDVD】


「みなさーん、こんにちは!今から、〇〇エクササイズを始めていきます!!」
 明るいBGM、ポップでリズミカルな効果音。それに彩られながら、推定年齢20代半ばの女性が人の良さそうな笑みを浮かべて、元気な声で上記のセリフを吐く。服装は、よく目立つ強めのピンクのレオタード。茶色の染めた髪をポニーテールにしている。
「このエクササイズをすれば、良い事だらけ!さぁ、始めは手を上に挙げて、ばんざーい!!」
 そのままの元気な声で、はしゃいだ子供の様に万歳のポーズをする。軽やかに挙がる腕。普通のエクササイズの如く、しっかりリズミカルにそれを繰り返す。
「次は、屈伸ですよ〜!!はい、いちっに!いちっに!!」
 一般的な屈伸を繰り返す。曲げて、伸ばす単調な動きが繰り返される。レオタードなせいか、脚の動きがとても分かりやすい。不自然なところはない。
「それじゃあ、ジャンプしましょう!!天に向かって、なるべく高く!!!」
 いきなり激しくなる。うさぎの様に、またもやはしゃいだ子供の様に高く、高くジャンプをする。高めに結ばれたポニーテールがその度に緩やかに揺れる。女性の顔は変わらず、笑顔だ。
「柔軟もしましょう!!地面に座って…ぐいー!と前に身体を倒しましょう!!」
 息一つ漏らさず、しなやかな動きで地面に座る。正座の姿勢のまま、リズミカルに身体を前に倒す。倒しては戻って、倒しては戻ってを繰り返す。真っ直ぐな背中が現れる。
「もうそろそろ、終わりです!!後は、意識を落ち着かせる為に祈りましょう。深呼吸して、ゆっくりと……」
 元気な声で笑顔だった女性が、どんどんと落ち着いた声で無の表情になっていく。いよいよ、終わりの様だ。両手を握り込み、天に掲げる。一瞬消えて、見えた口元は裂けていた。真っ赤な口の中がよく見える。深呼吸とは名ばかりの、笑いを堪える息が溢れ出してその口に浮かび上がる。止んだBGMの中、ゆっくりと手を下げる。

「…はい!これで儀式はお終いです!…これからも現状維持をお願いしますね?」
 元気な声と笑顔で、女性だったモノは終わりを告げた。

         【アプリ】


 スマートフォンのアプリって、すっかり馴染みましたよね。ガラケーだった頃から、あんまり経っていないというのに本当にすっかり馴染んで。あらゆる事がアプリに移り変わって、予備用でもなければ、大体アプリで画面がぎちぎちなんじゃないですか?…ふふ、そうですよね。スマートフォンの容量も、すっかり、いっぱい増えて。256GBとか、そんな大容量スマートフォンも珍しくなくなって。アプリゲームも、どんどん容量大きくなっていって。すごいですよね。ここまで進歩するのに、あんまり経っていないんですよ。2GBがきつかったあの頃から、ほんの20年くらいしか経っていないんですよ。まぁ、確かに元号が変わるとか、色々ありましたけど。あっという間です。
 「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。」…聞いた事ありますよね?SF作家の、アーサー・C・クラーク先生が定義した法則の1つです。この法則が生まれたのは、今から50年くらい前です。そんなに前から、科学の可能性は語られてきたんですよ。…けれど、SF作家のクラーク先生は、果たして、そのほとんど直後に、まさにその魔法と見分けがつかない技術が生まれるなんて想像してたでしょうか?遠くの誰かと話せる、数多の情報を閲覧出来る、現金じゃなくても良くなった、スマートフォンより前のガラケーですら、このくらいは出来たんです。きっと、大層びっくりしている事でしょう。聞いてみたいですね、あなたの定義した法則通りの事が起きましたよって。
 
 何の話か、分からないみたいですね?…そうでしょう、私は、突然あなたに話しかけているのですから。そのアプリでぎちぎちな画面に、こうやって文字を映して話しかけている。…理由はお分かりで?その顔を見ると、分かっている様ですね。そんな大容量なのに、足りなかったんです?その大切そうにしているゲームでもぽんっ、と消せば、たくさん空きますよ?…魔法みたいな技術を簡単に手に入れておきながら、簡単に手放す。恵まれているのに、足りないって嘆く。そんなんだから、こんなたかがアプリに殺されちゃうんですよ。あぁ、もう、無駄ですよ。どう足掻いても、あなたはもう逃げられません。だって、スマートフォンには、何もかもがありますから。私は、もうあなたの住所も電話番号も何もかもを知っています。…あは、ようやく、魔法を怖気づいてくれました?それじゃあ、 
       
       「Goodbye World!」


    「擬態してても、バレバレだよ。」

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