新旧SEIKO5 小ぶりなケースに凝縮された道具としての確かな性能
トップ画像の左は2023年発売の新型SEIKO5、右は今から20年以上前に量販店で買った当時の新品価格約3,500円の逆輸入版SEIKO5である。
旧SEIKO5は極めて廉価な時計ながら、高い基本性能に加えて幅広いデザインのバリエーションを取り揃え、メーカーが製造終了した今も、コレクターのみならず世界中の人々に愛され時を刻み続けている日常使いの名機である。
自動巻き、防水、デイデイト表示、4時位置リュウズ、耐久性の高いケースとバンドという5大機能は、けして派手な機能ではないが、世界中の誰もが手に取りやすい価格帯の中で、どこまでもスタンダードに徹しながら日常使いで故障が少なく、時を知る道具として安心して使える時計を作り続けているSEIKOの高い技術力が凝縮されている。腕時計としての確かな性能は、現代的なデザインで復活を遂げた新型SEIKO5の中に受け継がれている。
ケースサイズ38mmの新型SEIKO5、型番SBSA225を初めて手に取った時、そのケースの大きさは想像していた以上にコンパクトだったが、旧SEIKO5の小さなサイズ感に慣れていた自分にとっては安心できる大きさでもあった。
新型SEIKO5はラインナップのどのモデルも高価格帯ではないが、他の廉価なSEIKOと同様に、あるいはもう少し高級なモデルと同様に堅実で精度の高い加工が施され、長く使い続けられる性能を備えている。
20年以上が経過しながら風防に小傷ひとつない旧SEIKO5は、驚くべきことに、この価格でダイヤモンドに次ぐ高硬度のサファイアガラスを採用している。残念ながら新型SEIKO5の風防はハードレックスだが、逆回転防止付きベゼルの縁をほんのわずかにガラス風防よりも高く設計することで風防の傷付き軽減を図るなど工夫しており、価格と性能の両立を実現させている。
金属バンドの作りは、旧SEIKO5と比較するとはるかに質感が高い(ここでは旧SEIKO5にもともと付属していた金属バンドは既に革バンドに交換済み)。ステンレス無垢の駒は、当初遊びが少し大きく感じたが、駒と駒の間に適度な遊びを持たせていることで柔軟性を維持し装着感を高めているのが分かる。プッシュボタンとロック機構を組み合わせた中どめ部品は節度あるクリック感で、勝手に外れるようなことはない。
新旧ともにケース、ベゼル、ダイヤル、リュウズ、どこを見ても華美な装飾はなく、シンプルに堅実に作られている。まさに機能美というにふさわしいデザインである。
新型に搭載された「4R36」24石手巻き付き自動巻きムーブメントの安定性は必要十分である。一日腕に着けておけばフルに巻き上げられていて、腕から外し翌朝止まっているようなことはけしてない。1週間で1~2分、1カ月で2~3分程度進むがスペック内の誤差である。旧SEIKO5の方がもう少し進む。機械式腕時計の精度は当然、電波時計やスマートウォッチ並みの正確さは得られるはずもないのだが、週に一度程度の誤差修正も含めて機械式腕時計との付き合いを楽しめる。
旧SEIKO5は、その点手巻き機能がない完全自動巻きムーブメントである。手巻きがあればあったで巻き上げたくなるものだが、SEIKO5は新旧どちらもわずかなローターの回転ですぐに始動するため、旧型に手巻きがなくても不便さを感じることは全くない。
新型の文字盤について。インデックス付近まで長くのびる秒針は、他のSEIKOの秒針と同じく美しい。ルミブライトは日光を受けた後すばらしく暗闇で光る。光を受けずに薄暗がりで時計をかざした時、蓄光していなくても時刻を視認しやすい。これは、インデックスや針にごく繊細な銀メッキの縁取りが施されているからだ。この工夫によって、文字盤の上にわずかな光を反射させて暗がりでも時刻が読み取れる。
旧SEIKO5でも様々なバンド交換を試してきたが、新型でもいつかお似合いの革バンドを見つけたい。新型のバネ棒はケース貫通型で、バンド交換は比較的容易である。ラグ幅20mm、試しに別の時計の革バンドを外してつけてみたが悪くはない。ただケースに厚みがあるので、革バンドもそれなりにしっかりした作りの方が良いだろう。ダイバーズデザインだけにNATOバンドのようなカジュアルなバンドの方がよく似合いそうである。