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BEAMSと仙台の伝統こけし工人のコラボが生んだ「インディゴこけし」が描く未来の伝統工芸の可能性。

こんにちは。紅猫堂です。

東北の温泉地などでよく見かける「こけし」。
江戸時代の頃から宿屋にお椀などを収めていた木地職人が、木っ端を使って子供の遊び道具を作っていたのが始まりと言われています。それが湯治客のお土産としても喜ばれるようになり、遠刈田系、鳴子系など宮城県では5つの系統のこけしが誕生しました。顔立ちや色彩など地域独特の特徴を持つこけしは収集家の心を掴み、こけしブームと言う波を起こします。それは現在も変わらず、正月明けに白石市で行われるこけしの初引きなどには全国から多くのファンが訪れています。

10年前、その「こけし」に突如ニュータイプがあらわれました。その名も「青いこけし」です。

「青いこけし」の登場

「インディゴ(青い)こけし」の物語は、2013年の夏にセレクトショップBEAMSのレーベル「fennica」のディレクター北村恵子さんとテリー・エリスさんが、仙台市郊外にある「仙台木地製作所」を訪れたところから始まります。
この製作所では伝統的な遠刈田系のこけしを制作していました。その工房で「青色のこけしってどうしてないの?」という素朴な疑問から佐藤康弘工人による木材に「藍」で絵付けする技法の挑戦が始まります。青色は発色が弱くて退色が早いため、絵付けにはあまり使われて来ませんでした。
しっかり色が乗る染料をどう開発するか。康広さんは、古くから仙台に伝わってきた藍染めに答えを求めます。納得する色に仕上がるまで1年近く要したそうです。

顔立ちは遠刈田系のまま藍色で誕生した「インディゴこけし」

こけしと藍染めという二つの伝統を組み合わせたことで、スタイリッシな見た目となり、珍しさも加わって2014年に仙台で開催された実演イベント中の1時間足らずで用意していた数百本が完売となってしまいました。

この実演、私も近くで拝見していました。何重にも取り囲んだギャラリーのほとんどが女性。佐藤工人の手の中で出来上がってゆく青いこけしは一目ぼれしそうなほど美しく、可愛らしく、魅力的でした。財政面にゆとりがあれば私も欲しかった。

「青いこけし」の作り手は元サラリーマン

仙台木地製作所の佐藤康弘工人がこけしを作り始めたのは2011年。こけし工人の家に生まれながら、こけしとは縁がないままサラリーマンとして働いていました。8年間勤めた測量会社を辞めた後、2010年に父正広さん(黄綬褒章を受章)のもとへ正式に弟子入り。父の手仕事や伝統こけしの魅力にあらためて気づいた康広さんは、跡を継ぐ決意を固めます。父の教えは「木をい(活)かせ」。木の性質を知り、無駄なく活用せよとの意味です。康広さんは自在に刃物を扱えるまで練習を重ねました。2013年にそんな康弘さんとBEAMSの出会いがあり、1年後の2014年、BEAMSのレーベル (fennica(フェニカ)の出張型ショップ 「Traveling fennica shop」が 仙台市の協賛で開催されるに至ったのです。

※fennicaとは:セレクトショップの草分け的存在であるBEAMSの中で、日本の伝統的な手しごとをはじめ、世界中から集めたウェアや食器、インテリア、食品など、新旧デザインが融合したスタイルを発信するレーベル


ここまで紹介しておいて大変恐縮なのですが、この「青いこけし」は仙台のお土産物店では手に入りません。何故かといえば「BEAMSが別注した限定販売品となっているから」です。

そこが個人的に悩ましいところなのです。他にも伝統に則りながら、時代に会った新しいこけしを作っている工人はたくさん居ます。パステルカラーだったり大きさが1寸しかなかったりと、オリジナリティに溢れたイマドキの作品ばかりです。本来なら青いこけしも同じ宮城の伝統こけしとして一緒に並んでいて欲しかったというのが本音なのです。

大人の事情なのはよく分かるのですが、何とかならないものでしょうか。
と、歯切れの悪いまま問題提起しただけで一旦区切らせて頂きます。

この子たちは皆、仙台のお土産物屋さんに仲良く並んでいます


佐藤康弘工人に関する情報を。
10月26日(土)に行われる仙台歴史民俗資料館の秋祭りに佐藤康弘工人が参加します。10時~16時までこけし作り実演の様子を無料で見学出来ますよ。
問合せ:仙台歴史民俗資料館 電話:022-295-3956

ー追記ー
地元仙台でもなかなか手に入らない「インディゴこけし」ですが、2024年6月に京都の高島屋のイベントで「伝統こけし 青 草花紋」として販売されていたようです。初日の会場では混乱を避けるため、売場に入れる客は一人ずつで、購入数も決められており、すぐ前には順番待ちの囲いが設けられていたらしいです。並んでいた方の中には仙台在住の方もいらしたとか。未だに衰え知らずの「青いこけし」。すでに「見つけたらラッキー」的な存在になりかけています。


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