地域の住民に愛され続けた一本の桜の木の物語
こんにちは紅猫堂です。
先日早朝に宮城野区の医療センター近辺に出かけた際、移転後に更地になった場所を眺める機会がありました。確かここには県民会館のようなものが建てられることになったと聞いています。
そう言えばこの先の道路には、大きな桜の木があったっけ。
帰宅後に画像のストックを探してみるといろいろな季節に撮っていました。
季節外れの桜の話題ではありますが、キャプション代わりにまとめておこうと思います。
私がその桜と出会ったのは、現在の医療センターがまだ国立病院だった頃のこと。当時国立病院に非常勤で勤めていた私の通勤途中にあったのが毎年見事な花を咲かせる大きな桜の木でした。個人宅の桜ではありましたが、見頃を迎えるとご主人がライトアップした庭を開放し、道行く人を招き入れて夜桜を楽しませてくれました。
ところが2017年、この桜は持ち主の家ごと仙台市の市道拡幅工事に伴う伐採計画の対象になってしまいます。市には桜の保存を望む多くの声が寄せられましたが、ソメイヨシノの平均寿命(約60年)を考えると「おそらく別の場所に移植しても耐えられないだろう」というのが樹木医の診断結果でした。
2017年に伐採が決まってから「今年こそ最後かな」と毎年気になっていましたが、2022年の春には無事に花を咲かせ、地元のテレビ局が取材に来ていました。
インタビューの中で奥様が仰った「青空に桜が羽衣を着て、昇っていくって感じがするんですよ」という言葉が心に響きます。
そして2023年の6月。別れは突然やってきました。
地元紙によると6月15日早朝、この桜の木が力尽きて倒れているのを近くの住民が発見しました。樹木医の調査の結果、内部の腐朽が進んでいて「いつ倒れてもおかしくない」危険な状態だったそうです。
誰の手に掛けられる事なく、自ら最後を悟って人通りのない夜明け前に潔く倒れて逝った桜。しかも車道や歩道を避け、誰にも迷惑のかからない方向を選んで静かに倒れていたそうで、まるで「桜の木に意思が宿ったようだ」と記事はそう結んでいました。
半世紀以上に渡って地域と共に育ち、愛された桜の木です。同じ場所に立ち続け、住民の暮らしを見守ってきたのですから、案外もの言わぬだけで魂は宿っていたのかもしれません。
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