叶うな劣情
好きな人が使っているからという理由で縦式を使っている。
Twitter(現X)のアカウントを特定した。アカウントを飛び回って見つけた。変態的なストーキング。同じになりたい、彼になりたい。しかしこれは憧れではない。ましてや「同じソフト使ってますね!」なんて話題のきっかけになれば、なんてこと微塵も思っていない。彼の価値観を私の価値観に染み込ませたい。時間割だって把握した。何を学びたがっているか知りたかっただけ。あわよくば会えれば……そんな高望みはしないけれど。
ただの一後輩、とすら思っていなさそうな、なんなら少し私のことを鬱陶しいと思っていそうなその態度が好きだ。数回のデートで私のことを嫌って、一生片思いのまま終われたら最高だと思っている。きっと私は、誰にでも優しいふわふわした彼の一面しか知らない。それ以外の一面を知りたくない。その人の綺麗なところだけ見て、好きになって、これが親からうまく受け取れなかった何かなのか純な恋心なのか特定しないまま、「ああ、好きだなあ」と思っていたい。
そう思っていたのに彼を探れども探れども綺麗なものしか見当たらない。減点方式で採点しても、減点するところが見つからない。あばたもえくぼ、なんてものでなく、客観的に見ても清廉潔白聖人君子なセンスのある優しい人間だ――センスがある、は主観だけど。
こんなに綺麗な人間がいていいはずないんだと思ってしまう。どうか大きな欠点を隠していてくれ。そう思っても、観察しても、話しても、一緒に帰ろうとして見ても、どうしようもなく「いい人」。「いい人」であろうとしている「いい人」ではなく、自分を愛し、自分が愛している人のことをただ大切に扱いたいと願うだけの博愛主義者だ。美しい言葉遣いをして、気遣いというよりかは心遣いができる人を私は初めて見た。
自己肯定感の低さも見受けられない。一度どん底に落ちたことがあると呟いていたが、きちんと歪まず今の場所まで登ってこられた彼は本当によく出来た人間だ。よく出来た、人間だ。
素人が拙いプロファイリングをしてみたところで、きっと彼の芯は見つけられない。人の本質はその人の口から語られるものが全てだと他者は思うしかなくて、それ以上に踏み込んではならないし踏み込むべきではない。でも、暴きたい。
私は彼のことが好きなのだろうか。それとも嫉妬だろうか。それとも幼い頃受け取れなかった父性、母性を感じてしまっているのだろうか。何にしろ、今まで誰かのことをここまで熱烈に、気持ち悪く、執着したことはない。愛というにはあまりに自己中心的で止められない感情を初めて抱けたのだ、それをどうにか創作にぶつけたくてたまらない。ずっと、それくらいの激情を欲していた。ああ醜い。叶うな、こんな劣情。