こころマンホール*1 コバルト短編小説新人賞「もう一歩」選出作品
鈴木はこの一年、いつも下を向いて生きている。
しかし悪くはないと彼は感じていた。
四六時中地面を見つめる彼の世界は、それなりに豊かに広がっているからだ。
7月初旬。蒸し暑い金曜夜の居酒屋は混雑し、広くはない店内にざわめきが飛び交っていた。鈴木は大久保さんと小さいテーブル席にいた。大久保さんはメニュー表を楽しそうに眺めている。
「ふーん。ここ初めて入ったけど、割と手の込んでそうなつまみが結構あるな。今日は二人だからいろんな種類を頼もう。あ、お前もビールでいいよな?」
「はい