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一点突破全面展開

父が書いた言葉だ。
なぜそれを書いたのかを聞いたことはなかった。
父が亡くなって、時が経ってから調べてみると、孫子の兵法が由来のようだ。


脳梗塞に倒れた父。
当初は本人も家族も動転した。


私に何かを話してくれる。
顔をくしゃくしゃにしながら。
言葉にならない。
必死で伝えようとしている。
それを見るのが辛かった。
本人はもっと辛かっただろう。
右半身に麻痺が残った。

リハビリの病院を出て自宅で過ごせるようになった父。
介助が必要ではあるが、少しずつ出来ることをしていった。

リハビリで教わった身体や口の体操を続ける。
杖をついて散歩をする。
少しずつ歩く距離を伸ばしていく。
電動車椅子で少し遠出をする。
プールでの水中歩行。
左手でスプーンや箸を持っての食事。
左手で字を書く練習。
孫に手紙を書く。
日記を毎日書く。
趣味だった俳句を再開して楽しむ。
近所の人との交流。
孫の野球の試合を見に行く。
旅行。


自分の身体の状況を受け入れて、不平不満を言わず、出来ることをコツコツと続けていく。
そして楽しむ。
決して私には見せなかったが、辛い時もあったはずだ。

私なら父のように出来るだろうか。


左手を使って毛筆で書かれた

「一点突破全面展開」

父そのものだ。

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