祝⭐︎高平遺跡県指定文化財記念『村上市における火焔型土器の世界』図録

はじめに

縄文の里・朝日 夏・秋の企画展『祝しゅく⭐︎高平たかだいら遺跡いせき県指定文化財記念 村上市における火焔かえん型がた土器どきの世界』は、令和5年7月15日から11月26日まで縄文の里・朝日の企画展として開催かいさいしています。

令和4年3月25日より、新潟にいがた県けん文化財保護審議会ぶんかざいほごしんぎかいの答申とうしんを受けて、新潟県教育委員会において村上市の高平たかだいら遺跡出土品853点が、新潟県有形文化財（考古資料）に指定されました。
内訳として、火焔かえん型がた土器、王冠おうかん型がた土器などの土器119点、土偶どぐうや三角形土版さんかくけいどばんなどの土製品どせいひん89点、石鏃せきぞく、石錘せきすい、磨製石斧ませいせきふなどの石器類645点です。

高平遺跡は、縄文時代中期中葉（約4500年前）の遺跡です。火焔型土器のグループ、東北系土器のグループ、北陸系土器のグループが共存しています。また、各グループの土器の特徴が相互に混まじり合った土器があることから、東北地方と北陸地方を結ぶターミナルステーションのような遺跡であったことが分かります。そして、土偶、三角形土版からは信濃川しなのがわ流域りゅういき（主に新潟県中越地域ちゅうえつちいき）との交流も盛んであったことが分かりました。
南北の遠隔地えんかくちを結びつける拠点集落きょてんしゅうらくが残した出土品ということ、石錘せきすいや嘴くちばし状じょう石器せっき、三脚石器さんきゃくせっきといった独特な生業せいぎょうがあったこと、カッパ形土偶や三角形土版といった信濃川流域とのつながりを示す資料といった点が評価されて、県指定文化財となったのです。

ここからは、高平遺跡がどんな遺跡であったかを、発掘調査はっくつちょうさの成果せいかと出土品しゅつどひんから紹介していきます。

高平遺跡とは

遺跡の概要

高平たかだいら遺跡は、縄文時代中期中葉、約4500年前の遺跡です。
新潟県北部の村上市にある三面川みおもたがわの支流しりゅう、門前川もんぜんがわ右岸うがんの河岸段丘かがんだんきゅう上じょうに位置いちします。標高ひょうこうは約40m、門前川からの比高差ひこうさは約10mです。
現在は西向きのひろびろとした畑地になっております。

高平遺跡位置図（村上市教育委員会2001「高平遺跡」より）

高平遺跡調査区位置図（村上市教育委員会2001「高平遺跡」より）

市道しどうの改良・拡幅かくふくが計画されたこと から、工事に先立ち、平成９年５月から平成 10 年 10 月まで、２年にわたる発掘調査が村上市教育委員会に よって行われました。
調査は道路形状に合わせ、長さ 約 180ｍ、幅約６ｍの範囲で実施されました。その結果、比較的に狭せまい発掘調査面積にもかかわらず、驚くほど多くの遺物が出土しました。
コンテナケースの深箱ふかばこ（長さ55㎝×幅35㎝×高さ18cm）で800箱ほどになる土器片、2,194点の石器類が出土したのです。

大形竪穴建物が検出された高平遺跡調査区D地区（村上市教育委員会2001「高平遺跡」より）

遺跡から検出された遺構

高平遺跡の遺構としては、大形竪穴建物おおがたたてあなたてもの1棟とう、石組炉いしぐみろ4基き、焼土しょうど、土坑どこうなどが検出されました。
大形竪穴建物は、柱はしらや溝みぞの痕跡こんせきから、長軸ちょうじく約 15ｍ、短軸たんじく約６ｍの大きな隅丸すみまるの長方形であったと推測されます。建物内には、3基の石組炉が一直線上に並ならんでいました。そして、全ての炉に焼土を伴 いました。火を焚たいた痕跡こんせきがあったのです。3基の石組炉は大形竪穴建物に付随ふずいする施設しせつであり、埋設された土器の時期が共通することから、３基の石組炉がほぼ同時に設置せっちされ、使われていたことが推測されます。

高平遺跡の大形竪穴建物全景

高平遺跡大形竪穴建物（人によるスケール）

高平遺跡大形竪穴建物の図（村上市教育委員会2001「高平遺跡」より）

1号石組炉の完掘状況（西から）

3号石組炉の完掘状況（西から）

大形竪穴建物内から検出された石組炉の図（村上市教育委員会2001「高平遺跡」より）

複数の炉が設置されている状況から、大形竪穴建物は、一家族ひとかぞくのための住居というよりは、数家族すうかぞくが過すごす建物であり、集落しゅうらく共同の集会場や作業場、宿泊施設しゅくはくしせつなどの多目的ホールのような建物であったのではないかと想起そうきされます。

焼けた大形竪穴建物

大形竪穴建物跡の内側から焼けて炭化たんかした木材もくざいがちらばった状態で多く検出されました。 自然科学分析の結果、これらは、約 4,500 年前のクリの木であることが判明しました。
炭化木材の中には 「ホゾ穴」らしき加工痕かこうこんが 認められるものがあることから、建物の柱はしらや梁はりなどの建築部材けんちくぶざいであった可能性があります。つまり、この建物は、今から約 4,500 年前の火災で焼失しょうしつしてしまったと考えられます。縄文時代中期の建築部材は、非常に珍しく、全国的にも数例です。

炭化木材の検出状況

炭化木材に加工された痕跡が確認できます。

炭化木材にホゾ穴と考えられる加工の痕跡があります。

縄文時代の竪穴建物たてあなたてものは、現在、岩手県御所野ごしょの遺跡、福島県宮畑みやはた遺跡の研究により、土葺つちぶき屋根の建物であったことが分かっています。

土葺き屋根の竪穴建物では、気密性きみつせいが高く、夏涼すずしく、冬暖あたたかいという特徴と共に、気密性の高さから、火をつけるにも、建物内部では酸欠さんけつになり、燃もえないため、火災にならないということも分かりました。
縄文時代の竪穴建物の火災が非常に少ないのは、土葺き屋根の建物が主流であったためではないかとも推測されています。

つまり、火災に遭っている竪穴建物は、意図的に燃やさないと火災にはならないということです。
人為的じんいてきに建物を燃やすということから、建物廃棄たてものはいきの儀礼ぎれいが行われた結果、建物火災となったのではないかとも考えられます。
縄文時代中期には、竪穴建物が老朽化ろうきゅうかした時に、取とり壊こわす儀式の中に、「建物を燃やす」という行為があったのかもしれません。

高平遺跡の大形竪穴建物は、集落の共有施設きょうゆうしせつであった可能性が高いので、廃棄はいきに伴う儀式が行われたとしても不思議ではありません。
集落のみんなのモノをみんなが納得できる状況で取り壊すことで、また新あらたにみんなで協力して再建することができたのかも知れません。

高平遺跡が残してくれた大形竪穴建物跡には、縄文時代中期中葉の縄文人がどのような住居にどのような住み方をしていたのか、また、どのような思いがあって暮らしていたのかといったことを垣間かいま見みせてくれます。

高平遺跡の土器

中期前葉の土器群

高平遺跡では、縄文時代中期前葉（約5,000年前）から縄文人が活動していることが出土土器の特徴から分かっています。

縄文が転ころがる東北系土器と

竹を半分に割わったような工具である半截はんさい竹管ちくかんによる施文せもんをする北陸系土器があります。

また、北陸系土器を模倣もほうしたような在地ざいちの土器もあります。

縄文時代中期前葉の東北系土器

ここで紹介する土器群は、縄文時代中期前葉（約5000年前）の東北地方南部を中心に分布した大木だいぎ7式土器です。
器形、文様もんようを描く場所である文様帯もんようたい、文様といった様々な要素で東北地方の土器群と共有した土器が村上市からも出土しました。

高平遺跡出土の東北系浅鉢　約5,000年前

この浅鉢あさばちには、縄文じょうもん原体げんたいとよばれる縄文を施ほどこすための紐ひもを押し付けて、文様にしています。
このような文様を縄文じょうもん圧痕あっこんと呼んでいます。