
【国指定重要文化財】新潟県元屋敷遺跡出土品の保存修理事業
はじめに
2015(平成27)年9月に国指定重要文化財になった元屋敷遺跡の出土品を2017(平成29)年度より国庫補助金の交付を受けて、保存修理事業を行っております。
ここでは、令和6年度の保存修理事業において修理された土器について報告いたします。
奥三面遺跡群元屋敷遺跡について
奥三面遺跡群元屋敷遺跡は、縄文時代後・晩期、今からおよそ4,400~2,400年前の集落遺跡です。

奥三面遺跡群元屋敷遺跡は、新潟県村上市三面に所在します。
三面川左岸の河岸段丘上に位置します。標高は約200mです。
県営奥三面ダム建設で遺跡全体が水没することから、1991~1993(平成3~5)年度、および1996~1998(平成8~10)年度の6ヵ年をかけて、遺跡全域におよぶ33,100㎡で発掘調査が行われました。

調査では、多くの建物跡やお墓跡、配石遺構などと一緒に土器・土製品がコンテナ箱(50㎝×40㎝×30㎝)で約3,500箱、石器・石製品が約2,200箱、動植物遺存体が約100箱の量で出土しました。

大量に出土した土器は、東北地方の伝統的な文様をもつ土器が中心であり、北陸、関東の土器が持ち込まれていることから、広域との交流があったことが分かりました。
磨製石斧、石冠、環状石斧などの磨製石器類が大量に出土しており、多面体敲石、筋砥石といった生産用具も出土していることから、元屋敷遺跡において大量の磨製石器類が作られていたことが分かりました。
また、ヒスイ製の玉類や土偶、石棒も多く出土しており、縄文人の精神的な活動の証が見つかっています。



国指定重要文化財について
元屋敷遺跡は、2015(平成27年)9月4日、「縄文時代当時の生活の実態や、精神文化・広域な交易の様相を考える上で学術的な価値が高い」と評価され、土器186点、土製品101点、石器957点、石製品466点、漆塗木製品2点、骨角器6点の計1,718点が、国の重要文化財に指定されました。
元屋敷遺跡出土品の保存修理事業
出土品の保存修理事業について
出土品の整理作業において図化、展示活用などを目的として出土品の復元が行われていますが、発掘からすでに30年以上経過しており、充填材や接着剤の劣化が進んでいる状況です。
村上市では、文化財保護法の主旨にのっとり、貴重な国民的財産を適切に保存・活用することを目的として、文化庁の指導と国庫補助金の交付を受けて、2017(平成29)年度より出土土器の保存修理事業を継続して行っています。
令和6年度の保存修理事業では、出土土器である国指定番号34・73・77・106の4点の修理が行われました。
土器修理の手順
国指定重要文化財の土器を、経年劣化した充填材、接着剤、ゆがみがある状態から、解体・接合・充填・割付・補彩の手順で修理します。
この修理を行うことにより、重要な考古資料として、そして、縄文人が創作した美術工芸品として、本来の姿に近い形に復元します。
解 体
破片の状態に解体し、汚れをクリーニングします。
以前に行った復元時の接着剤を除去し、風化した器面や漆、炭化物などの付着物などをパラロイド溶液で固定します。

以前の復元による充填材をとっています

以前の復元の接着剤を溶かして解体しています

現代のほこりや汚れを取り除いくためのクリーニングを行っています。

風化や炭化物などが剥離しないように補強しています。
接 合
ゆがみやすき間などができないように注意しながら、解体した破片を接合します。
接着剤はエポキシ樹脂とパラロイド溶液、マイクロバルーン、顔料を混合したものを使います。
重要文化財である土器の見た目や接着力などに配慮されています。

特別に配合した接着剤で破片を接合していきます。

接着面にゆがみがないように慎重に確認しながら接合を進めています。

接合を進める過程で、内面側に付着した炭化物が剥離しないように補強しています。
充 填
欠損部分には、エポキシ樹脂を充填して補います。
ただし、縄文時代に破損した部分を縄文人が修復した痕跡(ヒビ割れ、補修孔など)には充填を行わず、縄文時代当時の状態に保存しておきます。

充填剤が隅々まで行き渡るよう細部にも慎重に充填しています。

欠損部分に樹脂を充填しています。カーブの具合、量など気が抜けない作業です。
割 付
残った破片に施されている文様の構図を参考にして、欠損部分に充填した樹脂に推測される文様を施します。
元の文様のイメージを損なわないように繊細かつ慎重に文様が描かれます。

残存している破片の文様から推測して、線の深さ、幅を合わせていきます。
補 彩
接合した接着部分と充填部分には、アクリル顔料で色付けします。
欠損により充填された部分は、少し明るくするなどといった工夫により、本来の土器部分と区別できるよう仕上げました。

欠損の充填部分と残存する破片が識別できるように、
多少色調を変えて、色が塗られています。

外面側は、残存している破片の色彩から目立たないようにしています。

内面は修復の痕跡が分かる色合いにされています。
令和6年度に保存修理された土器
ここからは、令和6年度に修復された土器4点について紹介していきます。
国指定番号34 鉢形土器
縄文時代晩期後葉の鉢形土器です。
大洞A式土器前半に並行する土器です。
口径14.4㎝ 器高14.7㎝
内湾する口縁部、口縁下部に最大径がある器形です。
口縁端部が小波状になります。
口縁部に平行沈線文が施されます。線を何度もなでています。これは、縄文時代晩期後葉に特徴的な沈線の描き方です。
胴部には、結節S字縄文が施されています。
これらの特徴からも、縄文時代晩期後葉に東北地方を中心に分布する大洞A式土器に並行する土器であることが分かります。
ススコゲなどが付着していない状況から煮炊きではなく、食器、保存の器といった機能が想定されます。

修復前に行われた復元では、胴部下半に大きな欠損部があるため、底部と胴部の接合部にゆがみが生じています。

修理によりゆがみが修正され、縄文時代当時の形により近づきました。
充填・割付・補彩の作業により、土器が研究や展示に活用しやすくなりました。今後は、常設展にて活用するよう準備していきます。
国指定番号73 深鉢形土器
縄文時代晩期後葉の深鉢形土器です。
鳥屋1式土器に並行する土器です。
口径13.0㎝ 器高15.2㎝
平縁で、底部にむかってすぼまる器形です。
口縁部に3本の平行沈線文が所々で合流する浮線文が施されています。沈線内が何度もなでられています。また、胴部には、縦方向に引かれた条痕文という同時期の関東の土器の手法が用いられています。
浮線文、条痕文という手法から鳥屋1式土器と分かります。
鳥屋式土器は、新潟県新潟市の鳥屋遺跡出土土器群を基準資料とした縄文時代晩期後葉の土器群です。
同時期に関東地方にも分布する浮線文系土器群のひとつです。
外面にススが付着しているので、煮炊きに用いられていました。高さ約15㎝と小形の深鉢です。縄文時代晩期後葉では、このような1~2人前用かと考えられる土器で調理するようになります。

シンプルな器形で、あまりゆがみはないようですが、大きな欠損部もあり、充填が必要です。

以前の復元でもゆがみは少なかったのですが、破片ごとのすき間など数千年の時の経過ですり減っている部分も加味して修理されています。
充填・割付・補彩の作業により、土器が研究や展示に活用しやすくなりました。今後は、常設展にて活用するよう準備していきます。
国指定番号77 深鉢形土器
縄文時代晩期後葉の深鉢形土器です。
大洞A式土器前半に並行する土器です。
口径28.6㎝ 器高40.6㎝
内湾する口縁部で、口縁直下に最大径がある器形です。
平縁で、口縁端部に刻み列、口縁上端に縦刻み入りの張瘤が一定間隔に施されています。
口縁部文様は、口縁上端と下端に平行沈線文と刺突列が確認できます。上下の平行沈線文に挟まれた口縁部分には、平行沈線による鋸歯文があります。
胴部には、結節S字のあるRL縄文が施されています。
内湾する器形や結節のある縄文といった特徴は、東北地方中心に分布する大洞A式土器前半にみられるものです。
外面のススの痕跡から煮炊きしたことが分かります。日常の道具として使われていましたが、埋設土器に転用されています。
埋設土器は、幼児のお棺のようなものではないかと推測されています。食べ物を作り出す煮炊きする道具を、命を生み出す子宮に重ね合わせて、命が再び戻ってくることを祈願しているのではないという推論があります。
説の立証は今後の研究となりますが、約2,400年前の縄文人の精神的な活動をあらわす証拠となっています。

欠損部分は比較的少ないのですが、高さ約40㎝あることからゆがみが出ています。

埋設土器ということで、欠損が少ないのですが、土圧などによる損耗がありました。大きい土器ゆえに復元時にゆがみが生じる場所もありました。
修理により、ゆがみや欠損部が充填され、研究や展示といった活用により寄与できるようになりました。
国指定番号106 深鉢形土器
縄文時代後期前葉の深鉢形土器です。
文様のない、いわゆる粗製土器であり、正確な時期は分かりません。
口径27.6㎝ 器高36.4㎝
やや内湾する口縁部、胴部上端に最大径がある器形です。
文様はなく、縄文も施文されていません。ケズリやナデによる器面調整の痕跡が確認できます。
器形、口縁部の処理、器面調整といった特徴から縄文時代後期前葉に属する土器と推測されます。
外面にススが付着していることから煮炊きに使われたことが分かります。ただし、内面にコゲの付着が少ない点や大きい土器あることから、下準備で堅果類などのアク抜きに使われていた可能性があります。
この土器の最大の特徴は、文様ではない、土器作成した縄文人その人の感性で描かれた絵画が表現されていることです。
両手をひろげ何かをもったような人のようなものや楕円形にシッポがのびたようなものが描かれています。
文様は、広い範囲で共通した認識により決まった配置で描かれるのですが、絵画文は、縄文人個人の独自性にあふれた描かれ方で唯一無二の絵であるため、比較検討できず、何を表したのか皆目見当がつきません。
みなさんも実物を見て、縄文人が何を表現したかったのか悩みませんか。

もともときちんとした整形ではないことと、大きい土器であること、接合面に大きなすき間があることからも、ゆがみがあることが分かります。

不思議な絵があります。

大小の楕円形が二つで線がのびてます。なんでしょう?
縄文人が作った時から、文様のある土器と違い、もともとの土器のつくりが粗い面があり、口縁部の縁が歪んでいたりしました。
縄文時代当時につくられた形を忠実に再現するため、文様のある土器よりも修理にかなりの工夫があったと推察されます。
風化、劣化した器面や形などが修理され、研究や展示といった活用により寄与できるようになりました。
おわりとして
ここまで、令和6年度 新潟県元屋敷遺跡出土品の保存修理事業により修理された4点の土器を紹介しました。
修理された土器は、縄文の里・朝日にて、保管し、常設展示として活用することになります。
修理された土器は見応えのある土器となりましたので、ぜひともご覧いただきたく、みなさんのご来館をお待ちしております。




縄文の里・朝日では、定期的な常設展示室の展示物入れ替えや年2回の企画展を行い、何度ご来館いただいても新しい出会いのある展示を工夫しております。
展示入れ替えの関係で今回紹介の土器をご覧いただけない場合もあります。なにとぞご理解の程、よろしくお願いいたします。
また、縄文体験も常時行っており、おひとりさまからご家族まで体験できます。10名以上の団体の場合、事前にご連絡いただけると対応がスムーズになりますので、ご連絡の程、お願い申し上げます。
また、FacebookやXにて館の情報を発信しているので、よろしかったら、フォローや「いいね」の方、よろしくお願いいたします。
みなさんの縄文ライフにちょっとだけも関われたら、幸甚です。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
今後とも、村上市教育委員会、縄文の里・朝日ともによろしくお願いいたします。
お問い合わせ
村上市教育委員会
生涯学習課 文化行政推進室
〒958-0854
新潟県村上市田端町4-25
村上市教育情報センター内
TEL:0254-53-7511
FAX:0254-52-4133
E-mail:bunka@city.murakami.lg.jp
縄文の里・朝日
奥三面歴史交流館
〒958-0241
新潟県村上市岩崩612-118
TEL:0254-72-1577
FAX:0254-60-2025
E-mail:joumon@mail.iwafune.ne.jp
いいなと思ったら応援しよう!
