小説企画書 タイトル『死神さんの自殺用品店』

#小説 #持ち込み用 #企画書


【概要】

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コージーミステリー(王道)×自殺(オリジナリティ)


自殺用品店に訪れる客は、店主の死神さんに自殺理由のすべてを告白しなければならない。
告白の対価として、美しさを保ったまま死ぬことのできる毒薬や、温かい記憶に包まれながら眠りにつける首吊りロープなど、死神さんが特別に仕立てた多種多様な自殺用品を受け取ることができる。

しかし、人の本心を映し出す死紙は、彼らの嘘を容易に見抜いてしまう。
自殺を望む本人ですら知らなかった、自分が自殺する本当の理由を、コージーミステリー風に解き明かしていく。
店に客が訪れ、店主が客の抱える問題を解決するという読み慣れた王道の型に、自殺という新規性を加えて、親しみやすさとオリジナリティを両立させている。


語り部である自殺者が、生きることを選択する物語


自殺用品店に最初に訪れる女子高生は、死神さんと触れ合い、自分の本当の自殺理由と向き合うことで、生きることを決意する。
女子高生は自殺用品店の助手として日々を過ごすことになるのだが、彼女を取り巻く環境は厳しく、依然として死に囚われている。

最後の最後に明かされる絶望は、彼女のなけなしの希望も砕いてしまうが、これまでに彼女が向き合ってきた人々と、死神さんの一言が、彼女に生き続けるという選択をさせる。
そこに至るどんでん返しは、読者の予想を遥かに超える絶望と希望のジェットコースターだ。

生きようともがきながらも、繰り返してしまう自殺企図。
そんなリアルを描き出しながら、それに対する答えを臨場感たっぷりに導き出している。


死神ならではの死生観で、死を見つめる


死神さんの世間ずれした発言や、個性的な行動を繰り返すキャラクター性も今作の魅力の一つ。
死神さんは常識に縛られない。
エキセントリックで、時には死をも肯定する。
人間では決して答えられない真理を死神さんに答えてもらうことで、自殺を望む人達に死者の言葉を届けている。

しかし、どれだけ死者の言葉が甘美でも、最後に彼らが望むのは、生者の言葉だ。
生者の言葉が届かない人に、生者の言葉を届けるのが、この小説の意義であり、世に出すべき理由だ。


多種多様な自殺者たち

死神さんの元にやってくる自殺者は、多様性にあふれている。
社会に疲れて死を求める者。親しい人間が自殺し、後を追おうとする者。自分の人生に満足し、命を終わらせようとする者。

客によって自殺の理由が根本から違い、時には解決方法も大きく変わる。
コージーミステリーという枠組みは同じながらも変化に富み、読者を飽きさせない。
三人の客を通じ、読者と語り部である女子高生に多様な価値観を体験してもらい、より多角的に死を観察してもらう。


【あらすじ(800文字 ネタバレあり)】

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女子高生の結衣は学校のいじめが原因で自殺した。しかし彼女が目を覚ましたのは『スーサイド』という自殺用品店だった。

女性の顔をした店主の死神さんは、自殺者が自殺するための最後の番人。彼女に自殺理由を話し、それを『死紙』に記してもらうことで、自殺の許しを得ることができる。そして許しを得ることができたなら、『死者の望みを叶える自殺道具』を手に入れることができるのだ。
結衣は死神さんに自殺理由を話したが、彼女はすぐにこう言った。
「あなたは嘘をついていますね」
死神さんは、結衣の本当の自殺理由を推理し、見事言い当てることに成功した。結衣は自分の望みと改めて向き合い、再び生きることを決意する。そして、店の雑用係として働かないかという死神さんの勧めに応じるのだった。
結衣は、死神さんの補佐として様々な人と交流し、多様な価値観と生き方を学んでいく。その過程で、結衣は死神さんに恋心を抱くようになっていった。しかしそれは、結衣にとって諸刃の剣だった。自分が醜い同性愛者であるという思い込みが、彼女の自殺理由だったからだ。
そんな中、結衣は死神さんの寿命が近づいていることを知ってしまう。生者を店に呼ぶために多大な力を使う死神は、定期的に生者を自殺させることで、その魂を食べなければならないのだ。
そんな折、結衣は死神さんの部屋から、自分が撮った覚えのない、死神さんとの写真を見つけてしまう。
『スーサイド』から生きることを選択した人間は、死神さんのことを全て忘れて現実世界に帰ることになる。結衣は、過去に何度もここへ訪れ、何度も生きることを選択し、その度に自殺して帰ってきていたのだ。
自分のせいで死神さんが死ぬという事実に耐えきれず、結衣は再び自殺することを決意する。
しかし、同じく自殺から生きることを決意した人々や、死神さんの「生きてほしい」という涙ながらの思いを受け、結衣は再び生きることを決意するのだった。



【冒頭(4200文字)】

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プロローグ


〇月×日。私は自殺した。

自宅の風呂場で、バスタオルに身を包み、湯船にゆっくりと浸かりながら手首を切ったのだ。
学校でクラスメート達からいじめられる毎日に嫌気が差した。それが自殺の理由だった。
毎日、毎日、数分ごとに辛い現実を思い出して心が沈むのを繰り返し、唯一そんな現実から逃れる方法として考えたのがこれだった。
何度も衝動的な自殺未遂を繰り返し、ようやく冷静に、完全に成功する方法を実行するに至ったのだ。

最初に見つけるのは母親だろうか。
でもきっと、その時の私は綺麗な姿をしているだろう。
血に染まったバスタブの中で、眠るように死んでいる娘を見て、母は悲しみながらも、美しく散った私を祝福してくれるはずだ。

手首を切り、そのまま目を瞑っていると、命が吸い出されるように、血液が外へと放出されていく。
軽い貧血に襲われながらも、私は安堵していた。
これでもう、現実の煩わしいもの全てから解放される。そう思っていたから。


チリンチリーン


そんな音がして、私は目を覚ました。
そこは学校の教室だった。
椅子に座り、机に突っ伏したまま眠っていたようだ。
周りには誰もいないけど、すぐに自分のクラスだということが分かった。

茜色の夕焼け。文化祭用に書かれた黒板アート。
それらが、とても懐かしく感じられる。

夢を見ているのだろうか。
しかし夢だとしても、今ここで見ている光景が夢なのか、自殺したことが夢なのか、ぼんやりした頭ではよく分からなかった。


チリンチリーン


いつの間にか着用していた制服にいぶかしんでいると、再びベルの音が聞こえてきた。
どこか遠くで、誰かが私を呼んでいるようだった。

私はその音に導かれるように教室を出た。
学校の門を抜け、しばらく歩いたところで、狭い路地裏を見つける。
この場所はいつも通っているが、こんな道があったという記憶はない。

チリンチリーン

迷っている私に手招きするように、ベルの音が優しく耳に届いた。
不思議と、恐怖心はなかった。
狭い路地裏をなんとか進み、そこを抜ける。
突然、一陣の風に迎えられ、思わず目を瞑った。

おそるおそる目を開けると、私はいつの間にか、見たこともない、真昼間のけやき通りにいた。
青々と茂るけやきの隙間からは日光が差し込み、石畳を照らしている。地平線の向こうまで延々と伸びるその道に、人の姿は一人として見当たらない。
まるで、天国へと続く道のようだ。けれど、どこか懐かしい気持ちにさせられる。

不思議に思いながらもその道を歩いていると、ふと、その道から外れた場所に、一軒の小ぢんまりとしたカフェがあることに気付いた。
私がそこをカフェだと思ったのは、小窓から一卓のティーテーブルが見えたからだ。
しかしそれが間違いだということは、ドアに掛けられた看板を見て、すぐに分かった。

「自殺用品店、スーサイド……?」

不穏な単語が並ぶ看板を、私はじっと見つめていた。
ふと、ベルの音が店の中から聞こえてくる。
どうやらこのベルは、私をこの店の中へ導きたいらしい。

私は、けやき通りを離れ、改めてそのお店を見上げた。
モスグリーンの扉。窓枠に置かれた小さな観葉植物。
どう見ても、小洒落たカフェにしか見えない。
しかし、この看板が嘘ではないということを、何故か私は確信していた。

これが夢ではないことは、頬をつねらなくてもよく分かる。
身体に鉛をくくりつけられたような重みと倦怠感。
それが、自分にまだ命があるという証拠だった。
何故なら私は、この苦しみから逃げるために、死を選んだのだから。


意を決して、私はドアを開けた。
中はまるで、アンティークショップのようだった。
長テーブルの上には、フラスコや試験官が置かれていて、中には色鮮やかな液体が入っている。
ふと奥を見ると、そこには掛け時計があった。まるで振り子時計の代わりのように、小さなベルが時計の中に収納されている。
それを見て、このベルが自分を呼んだのだと確信した。

馬鹿げている。
でも、そんな馬鹿げたことが起きそうな、不思議な雰囲気の店だった。

天井には輪っかのついたロープや、豊富なハーブが吊るされていて、壁には古びたマスケット銃が掛けられていた。
傘立てのような入れ物には、刀や剣がいくつも刺し込んである。
近くにあった引き出しを開けてみると、中から鋭利なナイフや小型の拳銃まで出てきた。

さすがに身の危険を感じ始めた私は、さっさと踵を返そうとしたところで、奥にある大きな釜に目が向いた。
子供向けアニメに出てくる魔女がかき混ぜていそうなその釜の中には、ドロドロの液体が入っていて、ボコボコと沸騰している。
なんだろうと、私がおそるおそる覗き込もうとした時だった。

「カアァ‼」
「きゃっ!」

突然、黒いカラスが飛んできて、私は思わず飛びのいた。
そのカラスは私を横切り、カウンターの前にいる、真っ黒なフードを被った女性の肩に降り立った。

「こらこら、カラスさん。あまりお客様を怖がらせてはいけませんよ」

いつからそこにいたんだろう。まるで気付かなかった。
……いや違う。
こんな黒いローブを着た女性が座っていれば、すぐに気付いたはずだ。
確かに、そこには誰もいなかった。今の今までは。

「申し訳ありません。カラスさんは、あなたを守りたかっただけなのです。あの蒸気を人間が吸っていると、魂が腐ってしまいますから」

フードを頭から被っているので、顔は見えない。ローブから覗く手は、骨のように細く、驚くほどに白かった。
カウンターの奥には、きらりと光る大きな鎌がある。
私は思わず、ごくりと息を飲んだ。
その様相は、まさしく“あれ”ではないか。
やっぱりこんないかがわしいところ、来るべきじゃなかった。

「す、すみません! 道に迷っただけですので──」

そう言って背を向けようとした時、彼女は、ぱさりとフードを脱いだ。
それを見て、私は思わず息が止まった。
長い黒髪がふわりと広がる。そこから現れた彼女の顔は、まるで人形のように整っていた。
白い顔には生気がなく、病人のようだったが、それ以上に美しかった。

「ここは、迷子が来ることのできるようなところではありませんよ」

彼女はゆっくりと、噛みしめるように言葉を発する。
ただそれだけなのに、まるで普通の人とは違う時間の中で生きているような気がして、なんだか不思議な喋り方に聞こえた。

「ようこそ、スーサイドへ。私が店主の死神です。ここに来たからには、あなたにより良い死を提供することを約束いたします」

彼女は、私が脳裏に過ぎって仕方のない単語を、いとも簡単に言ってみせた。

「あの……死神って、比喩か何かですか?」

彼女は、じっと私を見つめてくる。
私は緊張で、思わず喉を鳴らした。

「比喩とはなんですか?」

死神を自称するような人だ。何を言われても驚かないように心構えはしていた。
しかしその質問は、私にとってあまりにも予想外で、しばらく時が止まったように固まってしまった。

「……あの……つまり……死神みたいなことをする人、という意味で言われたのかと」
「ああ。そっちのことですか」

そう言って、死神さんはおおげさに何度もうなずいた。
知ったかぶりだということは、初対面の私にも分かった。

「比喩ではありませんよ。私は死神です」

はっきりと彼女はそう答えた。
私は、まじまじと彼女を見る。
ローブで身体のほとんどは見えないが、それでも、彼女は人間だと断言できた。

「そんな風には見えません」
「そんな風に見えたら、お店に来たお客様が困るでしょう?」

……まあ、確かに。
って、いやいや。何を丸め込まれそうになっているんだ。
もしも彼女が死神だったとしたら……
……何が困るんだろう?
そこでようやく、私は自殺したのだということを思い出した。

「あの。死神……さん」

なんとなく、呼び捨ては悪い気がして、私は彼女をそう呼んだ。

「私、自殺したんですか?」

およそ初対面の人にする質問ではない。
けれど、私は聞かざるを得なかった。
それになんだか、この人なら答えてくれるような予感がしたのだ。

その予感の通り、彼女はうなずいた。

「はい。しました」
「じゃあ、ここはあの世ですか?」
「いいえ。あなたは自殺しましたが、失敗しました」

失敗……?
他人に邪魔されないような時間を選んだし、確実に死ねる方法だった。
およそ、失敗する理由なんてないはずだ。

「そういう約束なのですよ」

そう言って、死神さんは微笑んだ。

「約束って……私、そんなこと知りません」
「あなた個人は関係ありません。自然との約束です」

自然……?
摩訶不思議な場所で、摩訶不思議な女性の口から出て来た理解できない言葉に、私は混乱した。

「よ、よく分かりませんが、つまり私は、どれだけ自殺しようとしても、絶対に失敗するということですか?」
「はい」

当たり前のように、死神さんは言った。
そんなのいやだ。これ以上この世界で生きていくなんて、私にはとてもできない。
これ以上……
私は、ハッとした。

死神を自称する店主。より良い死を提供するという言葉。店の中に置かれた物の一つ一つが、今初めて線になってつながった気がした。
そうだ。ここはスーサイド。
自殺用品店だ。

「……もしかして、このお店なら、私を自殺させてくれるんですか?」

彼女が本当に死神かどうかなんて、この際どうでもいい。
問題は、彼女が私を自殺させてくれるかどうかだ。
彼女はにこりと笑った。

「そういうお店ですから」

私は今、はっきりと自殺したいという意思を彼女に示した。だというのに、彼女は驚くこともなく、不安や怒りに苛まれることもなく、淡々と、けれど確かに私を尊重するように、そう答えた。
それは、今まで会ってきたどんな人間とも違う態度だった。
死を間近に感じている。死に行く人間に、何の偏見も持たない瞳。
それを見て、私は直感的に理解した。
ああ、この人は本当に死神なのだと。

「ただ、そのためにはあなたのことを知る必要があります」
「私のことを?」
「はい。あなたの出自。どう生きて、何を思い、そして、どうして死ぬのか。それを私に伝えることで、あなたの死は自然の一部となる。全ての命は、自然と共になる約束なのです」

度々出てくる『自然』という単語が理解できずにいると、それを察してか、死神さんはゆっくりと言葉を付け加え始めた。

「それに、あなたのことを理解できれば、あなたにとってより良い最期を迎えるお手伝いができます」

死神さんは、白く細い手で、窓の側にあるティーテーブルを指し示した。

「どうでしょう。少し、お茶をご一緒しませんか? そこでゆっくりとお話しましょう。あなたの、最期のひと時のために」

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https://kakuyomu.jp/works/1177354054890678865


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