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貸せ、夜ふかしはこうやるんだ
“わんわんわんわんわんわんわんわん”
気合いの足りない銃声が聞こえる。マテルの5・56ミリ。酔っ払いが変身でもしでかしやがったらしい。とっくに深夜だ。近所迷惑極まりない。
魔法少女、という連中がいる。
嘘っぱちだ。魔法など使えない中年男性ばかり二、三十人も詰めている。それもハチキューとかM4とか装備したトレンチコート姿のやつらだ。あまりにも物騒なので、お役人がイメージアップを図ったのだと聞いた。ちょうどそいつらが働いてるらしい。
戦闘を見物でもしようと思って数ブロックほど歩いていた時だった。
“にゃー”
近くの建物をぶち抜いて足の生えた洗濯機(せんたっき)みたいな黒い影が吹き飛んでいった、と、向こうの角からは男たちが小銃を手に手に走り出してくる。
足を潰し、腕を潰し、洗濯槽にグレネードを投げ込んで蓋を閉める魔法少女(中年男性だ)の手並みは鮮やかだ。洗濯機(せんたっき)野郎が爆散する。
その戦い様を見ているうちに、足がもつれて転げてしまう。
「キミィ! こんな時間になにやっとんだグボォ」
いちばん偉そうなサングラスの男が殴り飛ばされる。てめえこそなにやってんだ前見えてんのか?とか言う暇もなかった。
ビルに空いた大穴から出てきたのは擬人化されたカブトムシみたいな野郎だった。すなわち掃除機、吸引力が変わらないやつだ。魔法少女たちは俺に目を向けていて気づいていなかったのだ!
鏖殺が始まる--頸と頭がパイプとノズルに置換されたそいつは、気合い一つでいっぺんに四、五人を吸い込む。近接戦も辛口だ。
「クソッ、本隊への連絡はまだかヴォッ」
しかし魔法少女ってやつは可哀想じゃないか? 仕事終わりの一杯もままならない。怪人の襲来を日曜朝に回すのはことだが、平日の深夜帯はもっとだめだ。金曜の夕方が一番いいはずだ。
そんなことを考えながら、拳銃とグレネードを拾い上げ、おれはステッキを空に掲げるのだ。
【続く】