霧崎よだか

Gin is better than all the water in Lethe. | パルプスリンガーを志しMEXICOに出てきた。現代美術とかメディアアートとかの展覧会とライヴを訪うカウボーイ。

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    ときどき街へ赴くごとの記録

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    トリニタイト散らばる荒野

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魔球:ケラウノス

 そのチーム--エンジェルスに天使は一人だって残っていなかった。全員が死球を喰らって病院送りになったからだ。代わりに、別の時代の異邦人がボールを追っている。例えばたった今、盗塁を狙って走った山本の踵に野球星人の手が触れた。山本も死んだ。人類史が野球星人に侵される。地球が野球になっていく。  野球に最適化されたその種族--野球星人は侵略先の星々に野球を挑み、戦利品として惑星を征服してきた。地球にやってくる以前にも、きっとどこかで七本腕がバットを振るい、あるいはベースを踏みにじ

    • 逆噴射小説大賞2024ライナーノーツ

      ひと昔前はデジタル時計の方が高価だったらしいぜ  もともとは007 No Time to Dieの予告編で、ヴィランを演じるラミ・マレックが呟いた一言がきっかけでした。「License to kill…」  ラミ・マレックいいですよね。もともとドラマの『MR.ROBOT』が大好きだったんですけど、『ボヘミアン・ラプソディ』で「これラミじゃん!」ってなって、『ナイト・ミュージアム』を10年ぶりくらいに観て「これラミじゃん!」ってなりました。結構キャリア長いんですね。  それ

      • 地震が起こると対蹠地でも揺れるらしいぜ

         むかし、よく聞かされた話があった。白くてふわふわな長耳の平行人類が暮らす土地があったとか、“聞く”のでも“嗅ぐ”のでもない映画や絵画とか。  井桁の傍にでかい背嚢を下ろすと、まるで風船にでも吊られたみたいに身体が軽く感じた。背を反らせて首を回す。薄く瞼を透かして、天蓋から下方へ、こちらへ生え落ちてくる摩天楼を見上げる/俯瞰する。ビルばかり建ち連なるそれだけは、地表とよく似た全球掩蔽擁壁の威容。  純正地表=こちら側と架装都市=あちら側が、互いの空を封鎖してもう数世紀も経っ

        • ひと昔前はデジタル時計の方が高価だったらしいぜ

           第二種殺しの免許保有者は、自動火器に加えてある種の爆発物と毒物も仕事で扱うことができる。おれはスイッチを握り込む。  ドアの蝶番が吹き飛んだ。  おれはご機嫌だった。全額前払いという好条件の救出任務を請けたのだ。それも指名で。調子に乗って一人でメインフロアに忍び込み、強襲をかけた。アサルトライフルとかサブマシンガンを撃ってくるやつらをすみやかに制圧して、神経質にあちこち巡る。救出対象はどこだ?  向こうで、誰かが手を振り上げている。投げナイフか、グレネードか。反射的に頭を

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        記事

          哀れなるものたちを観た

           2月23日あたりに新宿のTOHOシネマズで観たんですが、感想を残し忘れてました。ヨルゴス・ランティモスは初めてです。 ストーリー  フランケンシュタインの怪物みたいなおじさんは大学教授で、プライベートではお屋敷で死体を切り刻んだりしています。ある日橋のたもとで自殺した妊婦を発見したフランケンシュタインは、彼女に胎児の脳を移植。みごと蘇生を果たしたエマ・ストーンは、赤子のような無垢さながら、急速に学習して自立性を身につけ始めました……。 感想  エマ・ストーンの衣装が

          哀れなるものたちを観た

          DUNE Part.2を観た

          はじめに 公開初日の3月15日にさっそく観てきました。  前日の夜に『mine』という、北アフリカの砂漠で地雷を踏んだアメリカ兵が飢えと渇きと疲労の中で幻覚を見る映画で砂漠力を高めて、いつもの新宿のTOHOシネマズに向かいます。 あらすじ  スマートドラッグ:香料(メランジ)が産出する惑星アラキスの統治を命じられたアトレイデス侯爵家は、ハルコンネン男爵と皇帝近衛兵サーダカーの攻撃で滅亡する。しかしレト・アトレイデス公爵の愛妾ジェシカとその息子ポールは生き延びて、アラキスの

          DUNE Part.2を観た

          DUNE Part.1(IMAXリバイバル)を観た

          なんぞ 3月15日のPatt.2公開に合わせてIMAX限定でリバイバル上映された、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のDUNE Part.1です。原作はフランク・ハーバートのDUNE 砂の惑星、主演はティモシー・シャラメ、ヒロインにゼンデイヤです。  さて、2/11の新宿は激混みです。この日の19:40〜22:40に上映されるDUNE Part.1のIMAXリバイバル上映を観るために新宿は歌舞伎町へ行ってきました。私は美術館の前にいっぱい引っ掛けると感受性がブーストされる気がしてよいの

          DUNE Part.1(IMAXリバイバル)を観た

          逆噴射小説大賞2023の振り返りというかライナーノーツというか

           大賞、以下最終選考と二次からのコメンタリー組のみなさんおめでとうございます。  『トナカイって冬に角が生えてるのはメスだけらしいぜ』は一次二次選考通過、『貸せ、夜ふかしはこうやるんだ』はふつうに落ちましたね。無念。パルプ一年目にしてはいいとこ行ったんじゃないか。 というわけで振り返り  これは言わずと知れたNORADのサンタ追跡が元ネタで、じゃあサンタが軍にバレたらまずいもん運んでて、主人公の軽挙でぽしゃって、というところから物語を始めたらどうだろうという連想。たぶん思

          逆噴射小説大賞2023の振り返りというかライナーノーツというか

          イヴ・サンローラン展を観た

           というわけで12月10日に国立新美術館に行ってきました。都営大江戸線で六本木まで行って、地獄の底からとぼとぼ地上に帰還します。ふだんは乃木坂駅直結の入り口を使うのですが、正面から入ってみるのもなかなか楽しいです。いい天気だったし。  11日が閉幕、その直前の日曜日ということでずいぶん混んでましたね。13時過ぎにはほとんど並ばずすんなり入場できましたが、観終えて出ていくととぐろを巻いた行列がカフェテリアを過ぎて売店のあたりまで。交差点よろしく列を横切るための仕切りまで用意し

          イヴ・サンローラン展を観た

          キュビズム展を観た

           “パリ ポンピドゥーセンター キュビスム展—美の革命 ピカソ、ブラックからドローネー、シャガールへ”。  10月22日、用事があって広尾に行ったら商店街でなんか出店が出てたりちっちゃい電車みたいのを走らせたりしていたので、ビール二杯とサングリアを引っ掛けてから上野に出かけた。酩酊しない程度にアルコールを摂ってから美術館に行くと感受性がブーストされるからで、上野公園で時々催されるイヴェントでも酒類が供されている時は少し飲んでから美術館に行く。  さて、これは国立西洋美術館で

          キュビズム展を観た

          貸せ、夜ふかしはこうやるんだ

           “わんわんわんわんわんわんわんわん”  気合いの足りない銃声が聞こえる。マテルの5・56ミリ。酔っ払いが変身でもしでかしやがったらしい。とっくに深夜だ。近所迷惑極まりない。  魔法少女、という連中がいる。  嘘っぱちだ。魔法など使えない中年男性ばかり二、三十人も詰めている。それもハチキューとかM4とか装備したトレンチコート姿のやつらだ。あまりにも物騒なので、お役人がイメージアップを図ったのだと聞いた。ちょうどそいつらが働いてるらしい。  戦闘を見物でもしようと思って数ブ

          貸せ、夜ふかしはこうやるんだ

          トナカイって冬に角が生えてるのはメスだけらしいぜ

          「クリスマスと正月がいっぺんに来た気分だぜ……」  メタルかなにかを熱唱する爺さんの傍らでおれは呟くが、鐘みたいな歌声にかき消されて自分の耳にも届かない。クソダサいセーターに赤白の帽子。薄暗いカラオケルーム、ディスプレイに照らされて濁る色。  彼だけがマイクを握って、もう十曲ほど歌っただろうか。その歳で随分パワフルな声が出せるものだ、場違いな感心を抱きながらそのさまを眺めていると、爺さんは初めておれに向かい合う。 「ここに呼んだのは他でもない、わたしの橇について話すためだ

          トナカイって冬に角が生えてるのはメスだけらしいぜ

          ジョン・ウィック コンセクエンスを観た

           見るべきところは随所にあるが私には合わないな、というのが最終的な結論だった。面白い人は面白いんだろうと思う。クオリティはすこぶる高いので、多分誰でも楽しめるはずだ。  ヴィジランテもの、復讐ものとして、乾きひりついた色彩感覚で成功したのが第一作だ。劇中世界の裏社会を示すのはコンチネンタル・ニューヨークのコンシェルジュに差し出される一枚の金貨、そして哀れミズ・パーキンスの死にざまくらい。主人公の拳銃はH&K、愛車はマスタングだ。犬は死ぬ。  主席連合なる組織の存在が示され

          ジョン・ウィック コンセクエンスを観た