なぜ君は国宝になれないのか?空也上人、見返り美人
定期的に女装を探しにいってる東京国立博物館。ザビエルと並んで教科書にイタズラ描きされるNo.1の空也上人をぎりぎり予約取れて見に行きました。
激混み、予約制なのに外に大行列でした。が、後ろから、横から、空也上人を見れた満足度は高かったです。
空也上人立像 六波羅蜜寺
空也上人像はなぜか国宝でありません。重要文化財です。
現物をみても、すごく細かいところまで、例の口から出るやつや杖以外は、草履などのパーツに至るまですべて一つの木材からの彫刻です。近くでみても、後ろから見ても、高い技術にはスキがありません。今にも動き出しそうな迫真とともに、空也上人の阿弥陀信仰への篤い思いも、表現されていて、もう国宝で良いんでないの?と思いました。
なにが国宝の妨げになっているのか?
かんがえたところ、口からの南無阿弥陀仏とおなじく6つの理由が浮かびました。
一つは鎌倉時代と仏像カテゴリーではわりと新しいこと。仏教美術は、飛鳥時代や奈良時代、平安時代とすでに充実した国宝がありますので。
2つ目は小さいこと。想像していたよりも小さかったです。感覚的には等身大の2分の1スケールかな(117センチなので3分の2ですかね)。このサイズだと、国宝だと蕎麦で有名な調布の深大寺の仏像があるけど、あれは飛鳥時代ですね。
3つ目は、ほかにも空也上人像が存在しているらしいこと。下の記事参照。
国宝は建築物を除いて、オリジナリティーが求められて同じようなデザインやモチーフでも、ほかと比べて拓逸したところが必要みたいです。ほかの空也上人見たことないからわからないけど、この六波羅蜜寺の空也上人はその点では、ほかを超えている(気がする)ので、いつか国宝になったらいいなぁと思いました。
4つ目は、これを作った一族が国宝をすでに総ナメしていること。空也上人像を作ったのは康勝という人ですが、お父さんは運慶です。運慶はもちろんおじいちゃん、そして本人もすでに国宝の彫刻が2点あります。そうなると、さらに国宝増やすのは難しいかなぁと。
6つの理由と言ったな?それはウソだ!南無阿弥の4つしか浮かびませんでした。
菱川師宣「見返り美人図」
空也上人並みに見たかったのは、これ!国宝室で4月から始まった「未来の国宝」シリーズ第1弾。
菱川師宣「見返り美人」(江戸時代)です。超有名なのに、国宝どころか重要文化財ですらないのです。
切手のデザインになって有名になり、トーハクのミュージアムショップでは、関連商品が多数売られているのに、この扱いはなぜ?
と思っていました。
だがしかし、
「国宝になるには150年早いわ!」(またまた上から目線ですみません)
という感想でした。
この絵は女性の美しさや内面を表現するためではなく、当時流行っていた流行の髪方と帯の留め方(女装が開発!)を表現するためのファッションスナップだったそうです。
今なら、ユニクロでコーディネートを紹介するインスタグラマーのような。映える、伝わるといった情報性は高い(だから1センチくらいの切手になっても、むしろよく伝わる)けど、芸術的な作品として、現物でないと伝わらないオーラやら怨念、情念が少ないと感じました。
というのも、未来の国宝第2弾に出る上松松園「焔」(大正時代1918年、米騒動のあった年)が、オーラに満ちたヤバ目の絵だからです。
一階で、超高精細復元で展示されているのですが、復元でこれだと、本物はどんな禍々しさなのかしら!と失礼にも、見返り美人の前で期待をしてしまうくらいでした。
LiSAの炎を聴きながら鑑賞する予定です。
ちなみに上松松園は女性作家です。
さらなる未来の国宝を発見
さら会場を一周したところ、いつも女装を探しに行く浮世絵コーナーで、衝撃の出会いがあったのです。
見返り美人図に、何室も挟みながらも、相対する位置に1点展示されていた直筆浮世絵の美人画がすごく良かった。
ほかの観客も「えっ?だれ?」と足を止めてしまう、三菱一号館美術館の印象派展のレッサー・ユリィのような現象が小規模ながら起きてました。
遊女立姿図 懐月堂度繁
度繁(どはん)という初耳な浮世絵師の肉筆画(江戸時代18世紀)でした。
なんとあの懐月堂安度の弟子!(両方知らな〜い)
芯の強そうなキリッとした表情。いいですね〜。戦後に、見返り美人が切手になったころ、昭和的なおしとやかで控え目な女性像で見返り美人が受けたのかと思いますが、令和はこの振り返らない女性像が人気になってもいいのではないでしょうかね?
やっぱり女装に興味なし?北斎
トーハクの浮世絵コーナーでは女装(若衆)ウォッチをしてるのですが、今回の展示では女装が少な目でした。
北斎の版画があって、モチーフは歌舞伎の演目なのに、演じてる女装役者として描くのではなく、完全に女性として描いてます。
あーやっぱり北斎は女装に興味ないんだなぁと、サントリー美術館の「大英博物館 北斎」に続いて思いました。
以下は解説キャプション。
エロい女教師(風)の歌麿
このコーナーで目を引きつけられたのが、喜多川歌麿の浮世絵シリーズ。
トリミングすると、江戸時代とは思えないビジュアルの女性が!
丸襟にソバージュ気味の髪型。
なんとこの妖艶な昭和風のエロい女教師は「山姥」だというのです!!
まずは喜多川歌麿 (1753?~1806) の復習。以下は解説キャプション。
どう見ても色っぽい女性なのですが、エロい春画はよく売れるけど幕府の表現規制が強くて、色々言い逃れするために、どうやら「これエロい?山姥と金太郎なんだけど。エロく見えるやつがエロいっていう笑笑」みたいな感じで作ったシリーズみたいです。
長沢芦雪が美人を描くと犬顔になる
ちょっと笑えたのが、近代美術コーナーで見たこの美人図。
かわいいモフモフ犬の絵で知られている長沢芦雪(ろせつ)の美人図。
以下は解説キャプションから。
いや、下手だとか、優品ではない、と言うつもりは無いです。ですけど、数少ない日本美人画ってところがツボで、思わず笑っちゃいました。
完全に一致!美女というより仔犬に一致!
長沢芦雪はこれ描いて、「あー俺ってイヌしか描けないんだ!女描くの無理〜!」って愕然としたんじゃないかなぁって想像して吹き出しました。
あらたな女装っ娘は見つけることはできなかったけど、トーハクは相変わらずとても面白かったです。
いずれも5月8日まで(長沢芦雪はいつまでかわからん)なので、気になる方はどうぞ上野へゴー!たぶん、空也上人展は朝イチで並ばないと当日券ないと思うけどね。