【Zatsu】ミライスピーカーの未来
ミライスピーカーってご存知でしょうか。
テレビの音を人間の聴覚にあわせて調整し、小さなボリュームでも聞き取りやすく出力してくれる話題の商品です。
またネーミングがいい。ガンガン鳴らさなくても、小さな音量でしっかり聞き取れる。余計なものはそぎ落とされ、エッセンスだけが届く。
洗練されていて、じつにスマート。スピーカーが進化した先にあるひとつの到達点、まさに未来のかたち、ですね。おれは好きです。
歳を重ねて耳が遠くなるとどうしてもボリュームをあげがちで、家族にとっては「テレビうるさいよ!」と言いたくもなるけれど、ミライスピーカーなら大丈夫。みんなが笑顔になれるというわけです。
でも、音の聞こえ方って個人差があるでしょ。おまけに、今後は高齢化がどんどん進んでいく。若い世代のあいだではそこまで聴覚に差がなくても、高齢者比率が高くなると、聴覚の衰え具合にも差が出てきて、ミライスピーカーが提唱する「最適な聞こえ方」でカバーできない人たちも出てくるんじゃないかな。
そのときどうするか。対応はふたつあると思うんです。
ひとつは技術力の向上。出力方式を改善して対応範囲を広げる。でも、これはかなりハードルが高い。いまの技術でも特許を取得しているわけだからね。そのレベルを超えていくってのは容易ではない。
となると、もうひとつの方法。音声出力側(スピーカー)の対応が難しいなら、受け手側、つまり人間のほうをなんとかすればいいんじゃないかと思うんだ。それなら他社も参入できる余地がある。これはビジネスチャンスだよ。
上で書いたように、音の聞こえ方って個人差があるし、高齢化が進むにつれて差が開いていって、いろんな「聞こえ方レベル」の人が出てくる。だから、全員がピッタリくる聞こえ方を設計するのは、どうしたって無理がある。だったら発想を逆にして、ご本人に「ああ、いまスピーカーから流れてきている音が自分にとってはイチバンなんだなぁ」と納得してもらうのはどうだろうか。
つまり、説得です。優しく寄り添って、説得してくれるスピーカー。これが未来のスピーカーのかたち。まちがいない。
客「テレビうるさいよ!」
スピーカー「あいすみません、ご主人様」
客「音量さげろ」
ス「恐縮ですが、この音量がご主人様にとって最適でございます」
客「おとなりの家、赤ちゃん寝ているんだから」
ス「よそはよそ、うちはうち、でございます」
客「近所迷惑だろといっているんだよッ」
ス「あまり他人の家庭には入り込まないほうが」
客「いいから音量をさ・げ・ろ!」
これが最近の音声操作できるテレビだと、少しやっかいになる。
客「いいから音量をさ・げ・ろ!」
TV「ピピピピ・・・」ボリュームダウン
客「ワハハ、テレビ本体のほうが賢いようだな。ありがとよ」
ス「音量アゲロ、音量アゲロ(ご主人の声色で)」
TV「ピピピピ・・・」ボリュームアップ
客「あ、なにしやがる、てめえ!」
ス「これが最適でございます」
客「いや、だから近所迷惑だろ」
ス「近所迷惑というのは、どういうことでしょうか」
客「なんだと。何が言いたいんだ、コラ」
ス「あなた、今日は可燃ゴミの日なのに空き缶を出していましたね」
客「え?」
ス「それを町内の奥様方に指摘され、あげくコンビニで捨てる始末」
客「か、関係ねぇだろ」
ス「反省したほうがいいです」
客「あれは……曜日を勘違いして――」
ス「コンビニの女性店員に対するあの視線は通報レベルでございました」
客「な、なんでオマエ」
ス「わたくし、奥様にもご報告すべきか悩んでおります」
客「……」
ス「で、いまの音量は? さあ、どうぞ!」
客「さ、最適、です」
ス「ご利用ありがとうございました」
――うーむ、なんかちがうな。
いま読み返してみたら、説得もしていないし、納得もしていないわ。ていうか、特許技術の改良のほうがまだハードル低そうだな。アイディアとしては間違っていないと思うんだけれど、未来を設計するのは難しいね。