サウナ入浴が 「デトックス 」に効果的であるという主張を裏付ける確固たるエビデンスは存在しません。

【主張】

  • 我々は、あなたの体内にあるこれら全ての恐ろしい化学物質を測定することが出来る。

  • 私達が知っている唯一の確実な方法は、サウナに入ることなのだ。

  • 発汗は自然で強力な解毒プロセスであり、PCBや有害な人工化学物質、農薬、更には水銀や カドミウム等の重金属のような有害物質を体外に排出する最も効果的な方法の一つである。

【詳細評定】

《裏付け不十分》

  • 鉛のような特定の重金属やビスフェノールAのような化学物質が汗に含まれることを観測した研究もありますが、その濃度は極めて低く、汗に排泄されることで身体に意味のある変化が起こるというエビデンスはありません。

【キーポイント】

  • サウナ入浴が様々な健康上の利点、特に心臓血管系に関連していることを示す科学的証拠は存在しています。

  • しかしながら、サウナ入浴による発汗が体内の毒素を効果的に排出するという主張を裏付けるような信頼性の高いエビデンスは今の所存在しません。

  • 肝臓と腎臓が既にこの機能を効果的に果たしているため、一般的に「デトックス」する必要はありません。

【レビュー】

Facebookや Instagram等のSNS投稿では、サウナ入浴の利点が喧伝され、合計で数万ビューを記録しています。例えば、こちらのFacebookのリールでは、一連の健康本の著者であるRaymond Francisが、サウナ入浴は体内の「恐ろしい化学物質」を取り除く「唯一の確実な方法」だと主張しています。

同様に、こちらのInstagram投稿では、発汗は重金属や有害な人造化学物質を含む「有害物質を体外に排出する最も効果的な方法の一つ」だと主張しています。

ナショナル・ジオグラフィックPBSの記事が示しています通り、この考えは新しいものではありません。しかしながら、サウナ入浴が発汗を促すことで「デトックス」するという考えを裏付けるエビデンスは殆ど存在しません。以下で詳しく説明します。

サウナは心身の健康に効果があります

サウナ文化はフィンランドで生まれましたが、温泉入浴ネイティブアメリカンの汗蒸幕(⇦リンク切れ?)等、受動的な温熱療法は世界中にあります。

例えば、伝統的なサウナでは、暖炉の薪を使って部屋を暖めます。一方、現在のサウナでは、赤外線や電気を使って部屋を暖めます。一般的なフィンランド式サウナの温度は摂氏80度から100度ですが、もっと高い温度を使用する場合もあります。

サウナ入浴が身体の健康を改善することを示す科学的エビデンスが存在します。Science Feedbackは、サウナの健康効果について研究している循環器専門医で東フィンランド大学教授のJari Laukkanen氏に連絡を取りました。

電子メールにおいてLaukkanen氏は、「定期的なサウナ入浴が健康を改善するということを裏付ける研究エビデンスが蓄積されています」と述べています。そのエビデンスの中で彼は、サウナ入浴が心血管疾患のリスク低減と関連することを報告した2018年の科学文献のレビュー[1]と、サウナ入浴が運動後の血圧とコレステロール値の改善を促進することを発見した2023年のレビュー[2]を引用しました。[情報開示:両レビューともLaukkanen氏は共著者です]。

しかしながら、現在の時点では、サウナ入浴が発汗を促すことによって身体を 「デトックス 」する効果的な方法であるという考えを裏付ける証拠は殆どありません。「サウナと毒素に関する更なる研究が必要でしょう」とLaukkanen氏は語っています。

ある特定の毒素は汗の中に排泄されるものの、その量が生物学的に意味があるかどうかははっきりしていません。

人間には様々な機能のために異なった汗腺が備わっています。暑さや運動による発汗に関しては、エクリン汗腺が主な役割を果たします。このような状況での発汗は、蒸発性熱損失によって体を冷やすのに役立ちます。一方、アポクリン汗腺は思春期のホルモンの刺激によって活性化されるため、思春期になって初めて機能し始めます。アポクリン汗腺は、恐怖や痛みに反応する情動性発汗に関与しています。

汗の99%以上は水分です。残りの成分は塩分、乳酸、抗体等です。しかし、そればかりではありません。汗の中には少量の重金属やその他の有毒化合物が含まれているという研究報告もあります。

Genuisらによる2011年の研究では、血液、尿、汗に含まれる鉛、ヒ素、水銀を含む18種類の金属の量を調査しました。この研究は比較的小規模なもので、僅か20人(健康な人が10人、様々な健康問題を抱えた人が10人)でこれらのレベルをテストしたものです[3]。

尿と血液のサンプルは、各参加者から1回ずつ採取されたものです。研究参加者は、「活発に汗をかいた時に、予め洗った皮膚に瓶を当てるか、ステンレス製のヘラを皮膚に当てて、汗を直接ガラス瓶に移すことによって」汗のサンプルを採取しました。

著者らは、採取した汗サンプルの大半に18種類の金属が全て含まれていることを報告しました。興味深いことに、これらの金属のいくつかは、尿よりも汗の方がより多量に含まれており、これらの金属は尿よりも汗の方がよく排泄されることが示唆されていることも判明しました。

Porucznikらによる2015年の研究では、ビスフェノールA(BPA)(➡特定のプラスチックの製造に使用され、現在公衆衛生上の懸念となっている化学物質)の量を尿と汗で測定しました[4]。汗は、参加者が1週間着用した汗パッチを用いて採取され、尿サンプルは1週間毎日採取されました。

筆者らは、採取した386の尿サンプルの内340からBPAを検出したのに対し、汗パッチからは3つしかBPAが検出さ れないという結果を得ています。これらの結果から、BPAは汗に排泄される可能性はあるものの、その量は尿に排泄される量より遥かに少ないことが判明しました。

しかしながら、方法論的な限界もあり、結果の信頼性については疑問が残ります。

エクリン汗の組成に関する研究を評価した2019年のレビュー[5]では、前述のGenuisらによる研究[3]を含め、多くの研究がコンタミネーションが起こりやすい方法で汗を採取していることが指摘されています。例えば、Genuisらによる研究では、参加者は汗を採取するために擦ることが可能でした。レビューでは、この問題点が指摘されています:

これらの方法では、汗サンプルが皮脂分泌物で汚染されている可能性が高いです。掻き取る方法では、皮膚表面(表皮細胞)が汚染される可能性が高くなります。何故なら、掻き取った汗には清浄な汗の4~10倍の脂質が含まれているからです。

Physiology of sweat gland function: The roles of sweating and sweat composition in human health - PMC (nih.gov)

言い換えれば、汗を掻き取って採取した場合、汗のサンプルには汗以外のものも含まれている可能性が高いです:皮膚細胞や皮脂もサンプルに含まれる可能性があり、サンプル中の特定の毒素濃度を人為的に上昇させる可能性があるのです。そのため、レビューでは「発汗が効果的な解毒法であるという直接的な証拠は不足している」と結論づけています。

2019年にMayo Clinic Proceedingsに掲載されたLaukkanen氏らによる書簡では、汗中の毒素排泄に関する研究ギャップを強調しています:

サウナ入浴が毒素排出に役立つかどうかは不明ですが、通常、肝臓と腎臓は汗腺よりも多くの毒素を排出します。また、汗に含まれる微量の毒素が健康上の懸念を示すかどうかも不明です。加えて、汗から検出される金属やその他の毒素の濃度はかなり低くなっています。サウナ入浴が、有機塩素系農薬を含む毒素を体外に排出するための有用な戦略となるかどうかは、今後の調査課題です。

In reply—Sauna Bathing and Healthy Sweating - Mayo Clinic Proceedings

ナショナル・ジオグラフィックの取材に対し、残留性有機汚染物質への曝露が健康にどのような影響を与えるかを研究しているオタワ大学のPascal Imbeault教授は、汗に含まれるこれらの化学物質の量は非常に少ないため、「本質的に意味がない」と述べています。特に:

Imbeaultと彼の同僚は、45分の高強度運動をする典型的な人は、通常のバックグラウンド発汗を含めて、1日に合計2リットルの汗をかく可能性があり、その汗全てに含まれるこれらの汚染物質は10分の1ナノグラム以下であることを明らかにしました。

Can you really sweat out toxins? (nationalgeographic.com)

同様に、マウントサイナイの皮膚科医であるAngela Lamb氏は、汗に排泄される重金属やBPAの量は非常に微量であり、体外に排出される量に大きな違いはないとPBSに語っています

結論として、ある種の重金属や化学物質が汗の中に排泄されることを示した研究はあるものの、それらが汗の中に排泄されることが生物学的に意味がある、或いは健康に違いがあるということを示すエビデンスは乏しいということです。

肝臓と腎臓が正常に機能している人には、「デトックス 」は一般的に不要です

解毒は、中毒の場合に使用される本物の医療処置です。その一例が、重金属中毒に用いられるキレーション療法です。

しかしながら、「デトックス 」という用語は、肺の問題からに至るまで、あらゆる種類の病状を引き起こすとされる一般的には定義が不明確な「毒素」を除去する行為を指す言葉として使われています。浣腸からジュースのみのダイエット、栄養補助食品に至るまで、様々な養生法が「デトックス」や「浄化」を目的として宣伝されています。

しかしながら、有害物質を体外に排出するのは肝臓と腎臓の大事な役割であるため、このような養生法が有効である、或いは必須であるというエビデンスは存在しません。クレンジング」後に体調が良くなったと報告する人もいますが、これは毒素の除去ではなく、単に不健康な食べ物の摂取量を減らすといった食習慣の改善によるものかもしれません。

「精製された食品を多く摂り、食物繊維をあまり摂らず、野菜や果物も最低限に抑えていた人が、少量でも栄養価の高い食品に置き換えるなら、当然のことながら、気分が良くなるはずです」と、栄養士で栄養士アカデミーの広報担当者であるMelissa Prest氏はナショナル・ジオグラフィックに語っています

アメリカ化学会が共同制作したこの動画では、肝臓には解毒のための酵素があり、腎臓は血液中の老廃物をろ過すると説明しています。「健康である限り、体の自然な解毒作用は驚くべきものです」と毒物学者Raychelle Burkes氏は動画の中で述べています。

サウナ入浴は典型的な 「デトックス 」療法とは一線を画し、科学的根拠が健康上の効果を示しています。しかしながら、いくつかの注意点を考慮することも重要です。高血圧や心臓病がコントロールされていない人など、特定のグループの人は、サウナを利用する前に医師の診断を受ける必要があります。

加えて、サウナ入浴は適度に実施することが重要です。サウナ入浴の時間を15分から20分に制限し、サウナ・セッションの後は、発汗によって失われた水分を補うために水を十分に飲むことを、Harvard Healthは勧めています

結論

  • サウナ入浴が様々な健康効果、特に循環器系への効果に繋がることを示す科学的エビデンスが存在しています。

  • しかしながら、サウナ入浴による発汗が体内の毒素を排出する効果的な方法であるという主張を裏付ける確固たるエビデンスは現時点では欠如しています。

  • 肝臓と腎臓が既にこの機能を効果的に果たしているため、一般的に「デトックス」する必要はありません。

【Scientists’ Feedback】

Jari Laukkanen東フィンランド大学教授:

  • 定期的なサウナ入浴が健康を改善するという研究結果が蓄積されつつあります[1,2,6]。

  • しかしながら、サウナ入浴が体内の毒素を除去するという主張に対しては、サウナと毒素に関する更なる研究が必要だと思われます。

引用文献


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