ウェルネスコーチの主張に反して、塩分の過剰摂取は高血圧のリスクを高めます。
【主張】
塩分が血圧を上げることはない。
精製塩が血圧を上げるのは化学物質のせいであり、塩が悪いからでは ない!
ヒマラヤの岩塩とケルティックシーソルトとは血圧を下げる効果がある。
【詳細評定:事実誤認】
塩分摂取が血圧を上昇させることは、何十もの質の高い臨床試験で証明されています。
この効果の背後にある生物学的メカニズムは十分に解明されています。
【キーポイント】
血液中のナトリウム量が増えると、血液中に水分が多く入り、血圧が上昇します。
食塩(塩化ナトリウム)は食事中のナトリウムの主要な供給源であり、大部分の人は推奨量以上のナトリウムを摂取しています。
臨床試験では、食塩の摂取量が増えると血圧が上昇し、心臓病や脳卒中のリスクが高まることが示されています。
【レビュー】
高血圧は高血圧症とも呼ばれ、動脈を傷つけ、心臓病や脳卒中を引き起こす可能性があります。2023年のWHOの報告によりますとと、世界の成人の3人に1人が高血圧であり、予防可能な死亡の主な原因となっています。
Facebook上で50万人のフォロワーを持つヘルスコーチ、Sean Christopherは、2024年4月にFacebookとInstagramで広く視聴された2つの動画を公開し、食塩は血圧を上昇させないと主張しました。このレビューで説明されるように、食事中の塩分過剰が血圧を上昇させるという明確な証拠があり、塩分摂取を減らすことで血圧と関連する健康状態のリスクを下げることが可能です。
過剰なナトリウムは体内で調整されます
塩(塩化ナトリウム)は我々の身体を機能させるために不可欠なものですが、その濃度は慎重にバランスを保たなければなりません。ナトリウムは、重曹(炭酸水素ナトリウム)、MSG(グルタミン酸ナトリウム)、硝酸ナトリウム(保存料)といった、食品に含まれる他の物質からも摂取されます。
塩分を摂り過ぎますと、血液中の高濃度のナトリウムを希釈するために体内に水分が貯留されます。この水分量の増加は血液量を増加させ、心臓をより強く働かせ、動脈の圧力を上昇させます。この血圧上昇は、時間の経過とともに深刻な心血管障害を引き起こす可能性があります。
世界的に見ますと、平均的な成人は1日当たり10.8グラム相当の塩分を摂取しており、これはWHOが推奨する1日5グラムの2倍以上に相当します。
長年の証拠が示すナトリウムの血圧に対する因果関係
食塩が血圧を上昇させるという事実は、何十年も前から確立されており、多くの研究結果によって裏付けられています。
1988年に世界中の1万人以上を対象に実施された研究では、尿中のナトリウム濃度と加齢による血圧上昇との間に明確な相関関係があることが実証されました[1]。2014年に10万人以上を対象に実施された別の研究では、1日の食塩摂取量が1グラム増える毎に血圧がどれだけ上昇するかが正確に数値化されています[2]。
他の研究では、食塩を減らすことの有益性を示すことで、原因と結果の関係が立証されています。1997年に実施された32件の無作為化臨床試験のメタアナリシス(複数の試験のデータを系統的に組み合わせたもの)では、ナトリウムの摂取量を減らすと血圧が低下することが示されています[3]。この研究では、次のように結論付けられています:
米国人口の食生活におけるナトリウム摂取量の大幅な低下による血圧低下は、心血管系の罹患率と死亡率を低下させることが期待されています。
2001年に発表されたランダム化比較試験では、ナトリウム摂取量を減らすことで1ヵ月以内に血圧が低下し、推奨上限値以下に下げることでより一層の改善が見られることが示されました[4]。食塩の影響を更に示すものとして、成人集団を対象とした13件の研究を対象とした2009年のメタアナリシスでは、食塩摂取量が多いと心血管疾患と脳卒中のリスクが有意に上昇することが示されています[5]。
海塩にもナトリウムが含まれ、血圧を上昇させます
白い食卓塩に含まれる漂白剤が血圧を上げる原因であり、漂白していない海塩は血圧を下げる可能性があるとChristopher氏は主張しました。しかしながら、塩の産地に関わらず、塩化ナトリウムが主成分であることに変わりはなく、過剰に摂取すると血圧を上昇させる可能性があります。
米国心臓協会は、食卓塩と海塩に含まれるナトリウムの量との間には「殆ど差はありません」としています。前述の研究結果が示すように、血圧を上昇させるのはナトリウムの摂取量です。
ナトリウムをカリウムに置き換えた減塩塩もあります。発表された研究のコクラン・レビューによりますと、これらの代替塩は「恐らく成人において血圧、非致死的心血管系イベント、心血管系死亡率を僅かに減少させる」ことが分かりました[6]。
結論として、塩は血圧を上げない、海塩は血圧を下げるというChristopherの主張は不正確であり、潜在的に有害であるということです。食塩の摂取が血圧に及ぼす影響は、何十もの調査研究によって確立されており、生物学的メカニズムも明確です。ナトリウム摂取を減らす介入は、血圧とそれに関連する心血管リスクを下げることが可能です。
引用文献
1 – Intersalt Cooperative Research Group. (1988) Intersalt: an international study of electrolyte excretion and blood pressure. Results for 24 hour urinary sodium and potassium excretion. The British Medical Journal.
2 – Mente et al. (2014) Association of Urinary Sodium and Potassium Excretion with Blood Pressure. New England Journal of Medicine.
3 – Cutler et al. (1997) Randomized trials of sodium reduction: an overview. The American Journal of Clinical Nutrition.
4 – Sacks et al. (2001) Effects on Blood Pressure of Reduced Dietary Sodium and the Dietary Approaches to Stop Hypertension (DASH) Diet. New England Journal of Medicine.
5 – Strazzullo et al. (2009) Salt intake, stroke, and cardiovascular disease: meta-analysis of prospective studies. The British Medical Journal.
6 – Brand et al. (2022) Replacing salt with low‐sodium salt substitutes (LSSS) for cardiovascular health in adults, children and pregnant women. Cochrane Database of Systematic Reviews.