日本での研究結果について、「COVID-19ワクチン接種者に心不全が急増 」と主張する投稿がなされていますが、これは間違った解釈です。
【主張】
COVID-19ワクチン接種者の心不全が急増、日本は警鐘を鳴らしている。
日本ではCOVID-19ワクチン接種者の心不全が4900%急増したことに警鐘を鳴らしている。
【詳細評定】
情報源の記述について噓を伝えています:
この主張を裏付けるために引用された研究は、COVID-19 mRNAワクチン接種後に報告された心筋炎症例を調査したものです。
しかしながら、この研究では憂慮すべき傾向は報告されておらず、心不全についても触れられていません。
【キーポイント】
心筋炎は心筋の炎症です。
COVID-19 mRNAワクチンは、特に若い男性において、心筋炎の稀な症例と関連していますが、COVID-19そのものは、血栓のような他の合併症と共に、心筋炎のより大きなリスクと関連しています。
バランス的には、ワクチンのメリットはそのリスクを上回っています。
【レビュー】
2025年2月、「日本ではCOVID-19ワクチン接種者の間で心不全が急増し、警鐘を鳴らしている」とするSNS上の口コミ投稿が話題になっています。これらの投稿は、記事の見出しのスクリーンショットのようなものをシェアしていました。その一例は、FacebookのページKAG Save America 2024が投稿したもので、17,000以上のユーザーエンゲージメントと10,000以上のシェアを獲得しました。もう一つの例は、20万9000回以上視聴されたこのTikTokの動画です。
画像のリンクは、Journal of Infection and Chemotherapy誌に掲載された「SARS-CoV-2 mRNAワクチンに関連した心筋炎及び心膜炎:日本の有害事象報告データベースの解析(SARS-CoV-2 mRNA vaccine-related myocarditis and pericarditis: An analysis of the Japanese Adverse Drug Event Report database)」と題された研究です。
これらの記事と同じ見出しの記事は見つけられませんでしたが、2025年1月18日に発表されたSlay Newsによる同様の見出しの記事が見つかりました: 「COVID-19ワクチン接種者の心不全が4900%も急増したため、日本は警鐘を鳴らす」。この記事も同じ研究に言及したものです。
このSlay Newsの記事は、米保健福祉省(HHS)長官候補のRFK Jr.を支持するLos Angeles TimesのオーナーPatrick Soon-Shiong、ワクチンについての誤情報を広めた2019年英国総選挙のブレグジット党の元候補者Jim Ferguson、COVID-19とワクチンについての誤情報を広めた耳鼻咽喉科医Mary Talley Bowdenといった、多くのフォロワーを持つアカウントによってXでシェアされました。
しかしながら、この研究はそのような主張を支持しておらず、科学的証拠から見て、COVID-19ワクチン接種は、バランスの上で、心臓合併症を含むこの病気による合併症のリスクを減少させることが示されています。以下に説明します。
この研究は何を行ない、何を発見したのでしょうか?
本研究では、米国のワクチン有害事象報告システム(VAERS)に相当する日本の有害事象報告データベースを調査対象としました。VAERSと同様、このデータベースはワクチン接種後に発生した有害事象に関する情報を収集しているだけです。また、VAERSと同様、ワクチンが有害事象を引き起こしたという報告だけでは十分な証拠にはなりません。
2004年4月から2023年12月までのデータを調査した結果、COVID-19 mRNAワクチン接種後に880,999件の有害事象報告があり、そのうち1,846件が心筋炎、761件が心膜炎であることが判明しました。データによりますと、罹患者の多くは男性で30歳以下でした。ワクチン接種から発症までの期間は8日以下でした。これらの所見は、COVID-19 mRNAワクチンと心筋炎との関連を認めた先行研究[1-3]と一致しています。
研究者らは、「日本人集団において、SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種は、心筋炎/心膜炎の発症と有意に関連しており〔...〕、大部分の有害事象はワクチン接種後早期に発生したが、全体的な転帰は良好でした」と結論付けています。投稿の内容とは異なり、この研究では憂慮すべき傾向は報告されていません。
この研究は心不全を対象としておらず、ワクチンのメリットはそのリスクを上回っています。
投稿にある主張とは対照的に、この研究は心不全とは無関係でした。心不全とは、心臓が血液を本来のように送り出せなくなる状態のことです。一方、心筋炎は心筋の炎症であり、心不全とは異なります。心不全は心筋炎の合併症となり得ますが、COVID-19ワクチン接種に伴う心筋炎は一般的に軽症であることに注意することが重要です。大部分の患者は安静と薬物療法で完治します。
更に、この研究では罹患者が心筋炎を発症する前にCOVID-19や他のウイルス感染症に罹患していたかどうかは考慮されていません。心筋炎の最も一般的な原因の一つは、インフルエンザや風邪の原因となるようなウイルスによる感染であるため、これは重要なことです。このことが、この研究が心筋炎の症例が実際にCOVID-19 mRNAワクチンによって引き起こされたかどうかを確実に評価することが出来ない理由の一つとなっています。
COVID-19ワクチン接種と比較した研究結果によりますと、COVID-19は血栓のような他の合併症と共に心筋炎のリスクが高いことが示されています[4-8]。米国心臓協会は、COVID-19ワクチンのメリットはリスクを上回ると考えています。米国心臓病学会の専門家によるコンセンサスでは、「これまでに評価された全ての年齢と性別のグループにおいて、COVID-19ワクチンには非常に良好なベネフィット対リスク比が存在します」とされています[9]。
結論
COVID-19ワクチン接種後の有害事象に関する日本の研究が、ワクチン接種者に心不全が急増していることを示したと虚偽の内容でSNS上に投稿されています。この研究はCOVID-19ワクチン接種後の心筋炎症例について検討したものですが、その所見は過去の研究で報告されたものと一致しており、心不全については言及していません。
COVID-19のmRNAワクチンは、特に若い男性において心筋炎の稀な症例と関連していますが、COVID-19自体は他の合併症と共に心筋炎のより高いリスクと関連しています。バランスを考慮しますと、ワクチンのメリットの方がリスクを上回ります。
引用文献
1 – Barda et al. (2021) Safety of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine in a Nationwide Setting. New England Journal of Medicine.
2 – Hippisley-Cox et al. (2021) Risk of thrombocytopenia and thromboembolism after covid-19 vaccination and SARS-CoV-2 positive testing: self-controlled case series study. BMJ.
3 – Knight et al. (2022) Association of COVID-19 With Major Arterial and Venous Thrombotic Diseases: A Population-Wide Cohort Study of 48 Million Adults in England and Wales. Circulation.
4 – Block et al. (2022) Cardiac Complications After SARS-CoV-2 Infection and mRNA COVID-19 Vaccination — PCORnet, United States, January 2021–January 2022. Morbidity and Mortality Weekly Report.
5 – Patone et al. (2022) Risks of myocarditis, pericarditis, and cardiac arrhythmias associated with COVID-19 vaccination or SARS-CoV-2 infection. Nature Medicine.
6 – Writing Committee. (2022) 2022 ACC Expert Consensus Decision Pathway on Cardiovascular Sequelae of COVID-19 in Adults: Myocarditis and Other Myocardial Involvement, Post-Acute Sequelae of SARS-CoV-2 Infection, and Return to Play: A Report of the American College of Cardiology Solution Set Oversight Committee. Journal of the American College of Cardiology.