【南雲香織の呟きをファクトチェック2022/10.25】ボストン大学のCOVID-19株は、野生株よりマウスを殺した率が20%少ないとの報告です -- 「80%の殺傷率」というのは人間に対して言及された物ではありません。
#南雲香織 が
なんてぬかしていた件について、Lead Storiesさんのファクトチェック記事が出ましたので、和訳をつけておきます。参考にして下さい。
ボストン大学が行なった「致死率80%」のCOVID-19株の研究は、人間への影響もあるのでしょうか?いいえ、それは違います。この致死率は実験に使われたマウスを指しており、ボストン大学で操作されたウイルスは、致死率100%を示す既存の野生ウイルスよりも致死率が低くなっていました。
ボストン大学で行なわれた実験は、SARS-CoV-2オミクロンウイルス変異体を操作し、他の2つの株と比較して、オミクロンの感染力がどのようなメカニズムで強くなっているのかを調べるものでした。COVID-19の様々な形態は、ヒトではなく、組織とマウスモデルで実験して比較されました。このような研究は、ウイルスの特徴を定義する上ではよくあることだと専門家は述べています。
この主張は、2022年10月17日にThe Daily Mailが掲載し、その後Fox Newsを含む他のメディアが、ボストン大学の研究者が「80%の致死率を持つ新しい致死性COVID-19株を作成した」と主張した記事で明らかになったものです。この記事を書いた時点のDaily Mailの記事は以下のような感じです:
記事執筆時点では以下のように表示されています:
生きている感染力の強いウイルスを使った研究は、安全設備や方法に問題があれば、理論的にはパンデミックを引き起こす可能性があります。ボストン大学の研究は、安全レベルが最も高いレベル4の研究室で正しく実施され、評論家は、施設や研究実施にいかなる不具合も記録していません。評論家が問題にしているのは、国立衛生研究所(NIH)への届出に関する連邦規則と同趣旨の地方規則をボストン大学が正しく解釈していたかどうかという点です。
Daily Mailの記事は、研究チームが「オミクロンとオリジナルの武漢株を組み合わせたハイブリッドウイルスを作り、研究で80%のマウスを殺した」と主張しています。これは技術的には正しいのですが、この研究は人間には適用不可能で、レベル4のボストン大学の研究室で実施されたものです。更に、この種の研究は、どのような要素がウイルスを感染させるか、或いは重度の感染症を引き起こすかを決定する際によく行なわれるものです。
ボストン大学の研究者は公開声明の中で、Daily Mailの報道は「虚偽で不正確」であり、「この研究によってウイルスの複製は危険でなくなった」と述べています。この研究は、プレプリントサーバーbioRxivに掲載されています。まだ科学雑誌の査読は受けていません。科学者は、特にCOVID-19の流行期間中、意見を求め、新しい研究手法の開発を早めるために、しばしばプレプリントサーバーに初期の研究成果を発表しています。
研究著者のRonald B. Corley氏(微生物学者、ボストン大学 National Emerging Infectious Diseases Laboratory(NEIDL)所長)は、Daily Mailが論文の要旨である「致死性COVID-19株、致死率80%」の1行を文脈から抜き出して(極端に強調して)いると述べています。
それでも、この研究は科学界に、ボストン大学のチームがそもそも研究を実施するのに必要な認可を受けたのかどうかという懸念を引き起こしました。
病原性を決定するためのキメラウイルス
2021年に初めて出現したコロナウイルス株であるオミクロンが、どのようにして免疫を回避しているのかを調べるため、NEIDLの科学者はオミクロンのスパイク・プロテインを抽出してキメラウイルスを作製しました。スパイク・プロテインは、ウイルスが人間の細胞に侵入するための構造で、コロナウイルスを特に感染力の強いものにしています。研究者達は、このスパイク・プロテインをオリジナルの野生型ウイルスに添加し、その結果、オリジナルのウイルスがマウスに感染する能力が向上するかどうかを調べました。
このキメラウイルスを、手を加えていないオリジナルの野生型と比較しました。その結果、キメラウイルスは80%の致死率(8/10)を示し、野生型が引き起こす100%の致死率(6/6)より低いことが判明しました。
これらの結果は、「スパイク・プロテインが感染性に関与している一方で、(ウイルスの)構造の他の部分の変化がその致死性を決定している」ことを示唆しています。言い換えれば、スパイク・プロテインはオミクロンのウイルス病原性、即ち、米国国立医学図書館(NLM)が「感染が病気につながる過程」と表現するものの主要な決定要因ではないのです。ボストン大学のアプローチは、マウスでテストされただけです。
「今回の研究は、他の研究者が発表した研究と一致し、オミクロンの病原性を駆動するのはスパイク・プロテインではなく、他のウィルス・プロテインであることを示しています。それらのプロテインを決定することは、より良い診断と疾病管理戦略に繋がります」と、筆頭著者のMohsan Saeed氏は2022年10月19日にLead Storiesにメールで送られた声明で述べています。
研究は必要な承認を得てから実施されたのですか?
この研究は、ボストン大学の機関バイオセーフティ委員会、およびボストン公衆衛生委員会の科学者と地域住民によって審査され、承認されました。
Lead Storiesがボストン公衆衛生委員会に問い合わせたところ、2022年10月19日に受け取った電子メールで、ボストン大学は正しく進めたと回答しています。
この研究は、保健福祉省(HHS)が最上位から数えて2つ目迄のセキュリティレベルと考えているBSL-3及びBSL-4レベルのラボで実施されたものです。しかしながら、この研究はNIHによる審査を受けていません。2022年10月18日にLead Storiesに電子メールで送られた声明の中で、国のCOVID-19対応を監督するNIHの国立アレルギー・感染症研究所は、ボストン大学の許可プロセスを非難していないが、ボストン大学がNIHの承認を必要とするかどうかを審査中であると述べています:
ボストン大学の研究者は適切な承認を得たのでしょうか?
NLMは、この研究を「ウイルスの遺伝子構造とウイルス-宿主相互作用の詳細を理解する」ために機能の獲得や喪失を伴う研究であると説明しています。これは、ウイルスの一部を操作して、その変化によって、病原体が、複製や細胞侵入の能力等の機能を獲得するか失うかを判定することによって実施されます。このような研究は、「ウイルスの生物学、生態学、病原性を理解するための基礎となるもの」です。
ボストン大学の研究者は、そのような主張に反論し、彼らの研究はGOFと見なされなかったと主張しています。 2022年10月18日にLead Storiesに送られた電子メールで、ボストン大学は次のように述べています:
しかしながら、ハーバード大学公衆衛生大学院の疫学教授(ウイルス学者ではない)であるMarc Lipsitch博士は、2022年10月18日のTwitter(アーカイブはこちら)で、この実験は「恐らく最も危険な種類のGOF研究ではない」が、「絶対に」機能獲得実験であるという見解を示しました:
但し、Lipsitch氏は、この種の実験は珍しいことではなく、科学的な価値があるとも述べています:
ウイルス学者でマウントサイナイ大学アイカーン医科大学微生物学部の教授であるFlorian Krammer氏もTwitterで(アーカイブはこちら)、この種の実験は「適切なバイオセーフティ実験室で実施する必要がある」「米国政府から許可を得た上で実施しなければならない」「それがここでは行なわれなかった」と述べ、「堅牢な」研究について言及しています。
「それが、このグループが問題になった理由です。実験そのものではなく、そう、許可を得なかったからです」と、Krammer氏はツイートしています。彼は更に次のように付け加えました:
ボストン大学の反論
ボストン大学は、この研究はGOFとは見なされず、そのためチームは必要な許可を受けたと主張しています。2022年10月19日にLead Storiesに送られた声明(こちらにも一部掲載)で、研究者達は次のように述べています:
Lead Storiesは、BPHCがこの研究をウイルスの機能獲得に関わるものと考えているかどうかを明確にするために、BPHCにフォローアップの質問を送りましたので、BPHCから回答があればこの記事を適切に修正します。