見出し画像

氷河期世代が(省エネで)行く!⑤

「蕎麦にうるさいヤツはめんどくさいヤツが多い」というエッセイを書いています。

 まったくの他業種からキャリアアップを図ろうと、独学でプログラミングスキルの基礎を身に付けるなどを経て、ITに触れながらキャリアチェンジを実現しようとする人は私達が社会に出た頃以上に増えているように感じる。中途採用の若手と定期的に面談をするような機会を持つのだが、その内の半数以上が全く別の業種からのシフトを実現しているようである。

 ある日、同じフロアの座席に外部からの出入り業者が座っていると思いきや、その週から新しくアサインされた新メンバーだった。外部業者のように見えたのは何故か。整理をして行くと、スーツ姿ではあるのだが、ジャケットを脱いでワイシャツの袖を捲り、赤いボールペンを耳の上に置いた出で立ちが、スーツ姿というのを除けばいわゆる外部の配達業者のステレオタイプと完全に一致しているからであった。彼は黒い猫のロゴでお馴染みの配達員から、IT資格を取得して異業種間での転職を実現していた。
 せっかく習得したスキルも何処で活かすかで、稼げるか稼げないかは割とはっきり線引きがあるように思う。とっかかりとしては構わないが、いつまでも小さな規模のクライアントが顧客であったり、業界内のピラミッドの下の位置で甘んじていては、ITスキルを手にしたところで結局は稼げない。パッと見スーツ姿でオフィス街を行き交いながらシュッとして見えるが、何をやっているのか分からない人たちに見えるくらいの変化しか得られないでは駄目だ。
 異業種からのキャリア転換を遂げた彼は、大きなプロジェクトの一員として新たなスタートを切りながらも、休日の空いた時間は古巣で配達のバイトを続けているという。

 数ヶ月に一度巡ってくる栃木県のデータセンターへの出張を楽しみのひとつとしながら、退職までの期間を先輩と2人1組でUNIXサーバーのコマンド実行に勤しんでいた。getコマンドを実行するのに「getだぜ!」と言いながら、ノリノリでキーボードを押下するのを他のメンバーもそっとしておいてくれた。
 北関東へ足を踏み入れるのは幼稚園の頃の那須高原への旅行以来であった。その最寄り駅のことをチームの先輩達が「あそこはシカゴみたいな街だ」などと揶揄していたが、駅前でブラジル人がシルバーアクセサリーを路上で販売しているくらいのものであった。
初日の夜。食事を済ませて先輩と別れてホテルに戻る前に駅前をぶらついていたら2人組の同世代の女性と遭遇した。声を掛けて3人が地べたに座って喋っていると駅前を徘徊するヤン車が何周も目の前を通過して行く光景に、何処の街も規模の違いは有れど似たようなものだと思った。連絡先を交換した女性は風俗嬢だった。

 そしてそんな現場でも、やはり後から中途で入社してくるプロパー社員には、最初からそうなるべくして、役割が与えられるのだというのを目の当たりにした。加入した週の後半にはその居室の全員の前で朝会のファシリテートを任されるなど、仕事が出来る出来ないであるとか、その現場での経験が長いか短いかは度外視で周囲が居場所を与えて行く。そういった役回りをしながら関係者に顔や名前を憶えて貰えるポジションというのも重要なのだと感じた。それが非常に羨ましかった。
 結局はどの位置にいるかで稼げるか稼げないかが決まるというのは、業界を問わず言えることだ。端的に言えばどの組織に属するかというのが非常に大きい。私もそういったポジションに身を置いて業務に向き合ってみたい、純粋にそう思った。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集