「#2枚目は女性」で、ホントに女性議員は増えるのか? 参院選2019の結果からシミュレーションしてみた
これまで、本キャンペーンの記事の中で女性の議員がなぜ増えないのかについての考察、そしてその是正のためのひとつの可能性としての比例代表の仕組みと現状、その活用の方法について書いてきました。
とはいえ、本当にこの取り組みによって選挙に影響を与えることができるのか、女性の議員を本当に増やすことができるのかということについて疑問をお持ちの方もおられるのではないでしょうか。
若者世代は高齢世代よりも単純に人数が少ないですし、さらに投票率も決して高くはありません。その結果、若くて意欲ある候補者がコテコテのThe政治家といった雰囲気の方にむなしくも敗北していくことを見た経験はいくらでもあります。
この点は、わたしもこのキャンペーンに関わる中で気がかりでした。必要以上に期待を持たせはするもののロクに何の成果も出せないことで、余計に失望を与えるような結果になってしまいはしないかと。
もちろん今回の結果がどうなるかは投票日まで分かりませんが、出たとこ勝負というのも無責任な気もするので前回の2019年の参院選のデータなどを用いてざっくりシミュレーションを行ってみることにしました。
結論から言うと、このアクションは極めて強力で、うまく行けば女性の議員を増やす可能性は十分にあるものだと感じています。
シミュレーションの概要
これから行うシミュレーションは、どれくらいの人が政党名ではなくて個人名を書くことによって、選挙結果に変化を与えることができるのかというもの。用いたのは主として前回2019年の参院選の選挙結果のデータです。
具体的には以下の3つのシミュレーション。
1. どれくらいの人が個人名を書けば、結果は変えられる?
まずは、どの程度の人が政党名ではなくて個人名を書けば選挙の結果を変えられるのか、という点。この点を明らかにするために、政党の中で当選最下位だった人と次点で落選だった人の得票数を見て、政党票を入れた人のどれくらいが落選した候補の個人票を入れていたら結果をひっくり返せていたのかを考えてみます。
自民党の場合
まず、自民党の場合。比例代表の最下位で当選したのは個人票で19位だった赤池誠章氏で13.1万票。そして、次の20位の比嘉奈津美氏は11.4万票。
この得票数の差をグラフにするとこんな感じ。その差は約1.7万票。
一方での政党票はどれくらいあるのかというと、なんと1271万票。この数字を上のグラフに足すと、こんな感じ。
個人票の部分はもう、どっちが上なのか下なのか分からなくなりますね。これほどまでに政党票と個人票の割合は違っていて、圧倒的に多くの人は政党票の方に投票しているのが現状なのです。
それでは、この政党に投票した人たちのうちでどの程度が比嘉氏に個人票を投じていたら赤池氏を超えられていたのでしょうか。必要となるのは、両者の差である1.7万票。それではこの数字が政党票の1271万票に対してどの程度かというと全体のわずか0.13%。直感的に理解できるよう、絵であらわしてみたのがこちら。
目がチカチカするかもしれないですが、黒い点は人のピクトグラムで1000人います。比嘉氏が当選するために必要なのはこのうちの1.3人。つまり、政党票に入れた1000人あたりのわずか1.3人が比嘉氏に投票していれば、比嘉氏の順位が赤池氏よりも上になり、結果が変わってたということになります。
これを見ると「あれ、意外とイケるんじゃね?」と思いませんか。「1.7万票」というとものすごく大きな差のようにも思えますが、政党票の数からするとそれほど大きな数字ではないのです。
しかも、この投票先を変えるシミュレーションの対象はあくまで自民党の支持者なのです。その政党の支持者でない人から投票してもらうこと、そもそも投票に行っていない人に呼びかけて投票してもらうとなると簡単ではないですが、この話はそうではありません。あくまで対象は元々比例代表には政党名で「自民党」と書いた人に「比嘉奈津美」という個人名を書いてもらうだけなので、それほどハードルは高くないものです。であるにもかかわらず、これほどわずかな人の行動の変化によって、選挙の結果を変えられる影響を持ちうるのです。
立憲民主党の場合
同じの分析を立憲民主党の場合でもやってみます。立憲民主党の場合、当選最下位は須藤元気氏で、次点で落選したのは市井紗耶香氏。
グラフにするとこんな感じです。当選最下位の須藤氏と落選した市井氏との違いは2.3万票。自民党よりもちょっと差は大きい。
これに対する政党票は全体で669万票。自民党ほどではないにしても、個人票と比較すると圧倒的にこちらの方の数が大きい。グラフにするとこうなります。
それでは、この669万票の政党名に投票した人たちのうちでどの程度が市井氏に個人票を投じていたら須藤氏を超えられていたのかというと0.18%。1000人のうちの1.8人。
自民党の場合と同じように、極めてわずかな割合であったとしても政党票が個人票に流れると勝敗はあっと言う間に入れ替わってしまうのです。
2.最下位の人が当選するにはどれくらいの個人票が必要なのか?
次は、もうちょっと無理めなシミュレーション。比例代表の得票数で最下位だった人が当選するまで順位を上げるためにはどの程度の個人票が必要なのかについて考えてみます。
自民党の比例代表で最下位だったのは森本勝也氏で2.3万票。先ほども出てきた当選者中で最下位の赤池氏との差は10万票以上。さすがに差は大きい。
これだけの差があると逆転するのは難しいのかなとお思いかもしれないですが、それでも計算してみると赤池氏を超えるために必要となる政党票は0.85%。これだけの差があったとしても、これを逆転させるために必要な政党票は1%以下という割合でしかないのです。これを同様に1000人のうちでどれくらいかを見てみるとこの程度。
先ほどよりは多くの人の投票が必要にはなるにせよ、それでも政党票を入れた1000人のうちでたった8.5人が個人票に切り替えれば、最下位の森本氏も当選することになるのです。
このようなことが実現するのは、繰り返しになりますが圧倒的に多数の人が政党名に投票をしていて、他方で個人名に投票しないためです。個人票のの数が少ないからこそ、わずかな割合だったとしても特定の人に対して個人票を入れることによって結果をひっくり返すことができるほどの影響を持つのです。
3. 当選に必要な「10万票」は、年代別の投票数に対してどの程度の割合か?
2つめのシミュレーションでは、10万票の差がある順位が最下位の人であっても政党票のうちで1%以下の個人票を集めることができれば当選しうることを示してきました。これは見方を変えれば、10万票程度を集めることができれば1人の議員を当選させることができるとも言えます。このように考えた場合、この「10万票」という数字はどの程度現実的な数字なのかというのが3つめの分析です。
この意図は、たとえば女性自身で女性議員を生み出すということがどこまで現実的であるかを把握することです。
政治の世界のおっさん文化に辟易としている方は多いかと思います。当事者性がないからこそいわゆるダサピンク的な政策や議論が延々と繰り返されているのが現状で、であればこそポジティブ・アクションとして女性候補者に投票して女性の議員を増やそうというのが本キャンペーンが目指しているところ。この趣旨に賛同するのは、もちろん男性も含まれることもあるでしょうが大半は女性ではないかと思います。この場合に、本当にこのキャンペーンによって女性議員を増やすというところまで行き着くことが可能なのでしょうか。
この点を明らかにするために行うのは、年代・性別あたりの投票者数です。なお、データは推計を含んでおり、正確なものではないことをはじめに言っておきます。年代別の投票率や投票者数のデータはあるものの抽出調査で、実際の投票者の数は公表されていないためです。したがって、以下の分析では取得可能なデータを用いて投票者数を推計しています(細かい計算は一番下に貼っておきます)。
女性の年代別の投票者数は?
さて、それでは女性の年代別の投票者数はどの程度見込まれるのかというと、以下のとおり。
10代(といっても18歳と19歳だけ)は36万票、20代は200万票弱、30代になると268万票といった調子。このうちで10万票が取れたならば、その世代の代表を国会に送り出すことができるわけです。
U30の女性だけで国会議員を生み出せる?
ひとつ具体的に見てみます。たとえば30代以下の女性が集まって自分たちの世代の代表になるような候補者を当選させたいと考える場合、この年代のうちのどの程度の割合の投票が必要になるのでしょうか(現在だと被選挙権が30歳からなのですが)。
10代と20代の投票数を合わせると234万票。この中から10万票を集めるとなると、全体のうちの3.73%。
1,2のシミュレーションほどの割合ではないものの、これについても思った以上に「なんかイケそう!」と思わないでしょうか。
現在の比例代表では多くの人たちが政党に投票しているために個人票の価値が極めて大きくなることから、10万票程度で当選ラインに食い込むことが可能となります。そして、若者は全体の数がそもそも少ない、しかも投票率が低いと言われていますが、それでも投票数の全体としては230万もの数があります。この事実を踏まえると、この仕組みをうまく利用することができれば数として少ない集団・属性であっても国会に代表者を送ることが十分可能なのです。
多様な政治家を生み出す可能性
これは、これまで労働組合や業界団体といった何らかの利益集団がこれまで行ってきたことを何らかの属性という、新たな形で実現することです。言い換えれば、政治を我々の手に取り戻すということです。上記の例では「U30の女性を代表する女性議員」という属性で考えてみましたが、これはあくまでひとつの例に過ぎません。「子育て世代」や「シングルマザー」、「性的マイノリティ」、「非正規労働者」、「身体障害者」など、世の中には様々な属性を持つ人たちがいます。
この比例代表の仕組みは、こういった方々が組織的にそれぞれの属性のもとに一定程度結集することによって国会に議員を送るということを可能にする仕組みであり、その帰結として多様な政治家からなる多様な国会を生み出すための大きな可能性となりうるものと期待しています。
最後に
本キャンペーンでの一連の記事では以下の点について書いてきました。
・女性の政治家が増えない背景
・その解決策としての比例代表の可能性
・比例代表の仕組み
・なぜ個人票を入れるべきなのか
・有権者の投票行動の現状と課題
そして、この記事では比例代表で実際にどの程度の人が政党票ではなくて個人票を入れれば選挙結果が変わりうるのか、というシミュレーションを前回の選挙のデータを持ちいて具体的に示してきました。
冒頭に書いたとおり、この結果は非常に期待が持てる内容ではないかと感じます。この制度をうまく活用することができれば女性を大幅に増やすということはもちろん、より多様で様々な属性を持つ議員を生み出すことのできる可能性もあるのです。
ついに7/10は投票日。まずはぜひ投票に行ってください。あなたの1票は決して無力ではありません。そして、様々な立場や考え方がありますのでどの候補に投票するかというのはそれぞれ異なるものではありますが、この記事をご覧いただいたあなたには、あなたの意思をより多く反映できるよう比例代表にはぜひ個人名、さらにできれば女性の名前を書いていただけたらと考えております。
補足:年代別の投票者数の考え方
文中で書いたとおり、正確なデータを総務省が提供してくれれば良かったのですが、実際には存在しないので年代別の投票者数は推計を行っています。用いたデータは、以下の2つ。
年代別人口は5歳刻み(0歳-4歳、30-34歳みたいに)での人口データ。この18歳以上の数字を有権者数としています。2019年の結果をシミュレーションするためには2019年時点のデータを使うのが正しいのですが、この部分については今回の選挙でどれくらい可能性があるのかという観点の方が大事かと思って2022年のデータを用いてます。
もう1つは年代別投票率で、これは総務省が選挙のたびに公開している数字。問題なのは抽出調査である点。「188投票区(47都道府県×4投票区)の抽出調査」と注記があり、正確な数字ではありません。
この2つを使って、年代別の人口にそれぞれの年代別投票率を掛けることで、だいたいの投票者数を出しています。