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古城 隆のヘアデザイン。そのロジックとデザインづくりを掘り下げる。『EYE HAIR DESIGN LOGIC × VISUAL』発刊特別インタビュー

美しいヘアデザインとは、美しいバランスとは何だろう……? 
そんな、抽象的になりやすいことに対する鍵を、日々のサロンワークや撮影の中で探してきた古城 隆氏[DADA CuBiC]が、この度、自身の単行本『EYE HAIR DESIGN LOGIC × VISUAL』(以下『EYE』)を刊行した。同書に込められた古城氏の想いについて、ひもといていこう。(月刊ヘアモード2021年4月号より転載)

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『EYE』は、デザインロジックについてさまざまな角度から解説した『EYE LOGIC』(以下『LOGIC』)と、古城氏が小社刊行物で発表した作品写真の中から選りすぐりのデザインを見せる『EYE VISUAL』(以下『VISUAL』)の2冊からなる。

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<Introduction>古城 隆が見いだした、「5つの視点」とは

『EYE LOGIC』中では、古城氏が長年かけて見いだしたヘアデザインにおける「美」を、5つの要素に分け、それに沿って章立てされている。
それらの要素の共通するのは「視点」。
では、「5つの視点」とは何なのか、まずは簡潔に見ていこう。

本書内で展開されている「5つの視点」とは、古城氏が日々、ヘアをデザインする中で発見し、少しずつ書き溜めてきた「美しさの理由」。
そこには、美容技術やデザインセンス以前の「ヘアデザインのどこを見て、何を考えればいいのか」というさまざまな要素に対する答えがある。

この「5つの視点」を理解することで、誰でも、デザイン発想の「取っ掛かり」をつかむことができるのだ。

【線】~デザインの「イメージ」や「感情」をつかさどるもの
シンプルな要素だが、ヘアデザインの最終的なクオリティを決める、基本にして重要なファクター。その角度や形状(直線か曲線か、など)、厚み、質感などによって、デザインにさまざまな感情を与え、イメージをつくる。
また線を操るためには、その集合体である「面」もコントロールしなければならない。

【フォルム】~「形」そのものが持つ印象を理解する
髪は立体物。すなわち、3D上における形を示す「フォルム」は、美容師が最も重視すべきもの。G、Lの構成やスライスの取り方、パネルコントロールなど、特定の組み合わせで切った髪が、落ちたときにどんな形になるのか。
それらがどんなフォルムやバランスを形成し、どんなイメージを生むのかを考えたい。

【肌の見せ方】~顔の見え方を司る要素=イメージをデザインすること
髪は当然ながら人間の顔と共にあり、髪と肌は常に連動した関係にある。
肌をどのくらい見せたいのか、あるいは隠したいのかは、つくりたい女性像を大きく左右する。肌色の面積がつくり出す「明」(空間バランス)と髪の面積が生む「暗」(重量バランス)の均衡が取れてこそ、美しいヘアデザインが生まれるのだ。

【バランス】~美しさの多様な展開を可能にする視点
「空間バランス」と「重量バランス」も、その取り方にはさまざまな視点がある。安定した比率にするのか、不安定な美しさを狙うのか……。
また、ヘアデザインには、見えない「バランス線」という概念もあり、これも展開方法はさまざま。バランスについて知ることは、ヘアデザインの多様性を広げることにつながる。

【ポイント】~良いデザインには、「目が行く部分」がある
人の目に留まるものには、必ずデザインの「急所」、すなわちポイントがある。それが強ければデザイン性が高くなり、インパクトも強くなる。つくり手の意図が集約された部分であり、「見せ場」だと言えるだろう。
フォルムやバランスなど、他の「視点」との足し引きをしながら、その見せ方を考えよう。

>>>FROM『EYE VISUAL』

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潔くワイドに切り込んだバングのラインと、バックの強いウエイト感がポイント。インパクトのあるバランスだが、耳上のやわらかい束感と、ネープ部分の曲線的な髪の動きで抜け感のある印象に。

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シンプルなショートレイヤーベースに、サイドのセクションを際立たせるため、ダイナミックにディスコネクトしてデザインポイントをつくった。うねるような束感と、あえて崩したライン感で、ラフなニュアンスをプラス。

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大きく崩しながら動かすことを想定したカットベースがポイント。動かしたときのフォルムや毛束の動きを予想して入れたレイヤーと、耳周りの肌が透けて見えるように施したディスコネクションで、よりランダムな動きを感じさせている。

<INTERVIEW>「美しさの理由」を知ることで美容師はもっと自由になれる

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古城氏が見つけた「5つの視点」は、これまでのデザイン解説書にあったような「ルール」や「セオリー」の説明とは、一線を画す概念。
この考えを美容業界に広めることで、古城氏が伝えたかったこととは……?

古城 隆の「視点」を身に付ける

――『EYE』の中でうたわれている、「5つの視点」という要素はとても明解で、かつ特徴的な概念だと思いました。これらは、どのようにして発見したのでしょうか。

古城 構想をまとめ始めたのは、約2年前のことです。サロンワークや作品撮影などを繰り返す中で、「美しい」と思えるデザインとそうでないものにどんな違いがあるのか……自分なりにいろいろ考えていました。そしてあるときから、気付いたことを日々、記録するようにしたんです。

 自分がメモしたものを整理していると、いくつか共通のロジックが存在することにすぐに気付きました。それをまとめたものが、「5つの視点」です。

――ヘアデザインそのものが持つ「デザイン要素」という表現ではなく、つくり手の存在を強く意識させる「視点」という言葉選びが印象的です。この言葉の意図とは?

古城 「正解」を、一方的に自分の好みだけで決めたくなかったからです。ヘアデザインには、それをつくる人=美容師の意図が反映されています。つまり、どんなものをつくるかというゴールは自由。究極を言えば、正解・不正解のある世界ではないんです。

 ただ、つくられたヘアデザインが、普遍的な意味で美しいか否かには、確実に線引きがある。その「理由」を、なんとなくではなく明確な知識として身に付け、自身の「軸」とすれば、自由にヘアデザインを展開していけます。そのための取っ掛かりになるべき本として『EYE』をつくりました。

>>>FROM『EYE LOGIC』

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「自然の中にこそ、美しさの原点がある」と言う古城氏。『EYE』の中でも、自然物を例にとった「バランス論」の解説がなされている。

――なるほど。『EYE』、特に『LOGIC』について、ヘアデザインの「セオリー本」だと思っている方もいるかと思います。

古城 それとは、まったく逆の発想ですね。その証に、『EYE』の中では、「NG例」については一切載せていません。いわゆる教本ではなく、美容師が自分自身で身に付けた「軸」を元に、自分の可能性を広げるための本にしたかったんです。まずは「自分がどんな力=軸を身に付けたらいいか」を、本を読んで客観的に感じていただければと思います。

――古城さんのおっしゃる「軸」というのがまさに「視点」なわけですね。

古城 はい。技術力やデザイン力以前に、まず、「何に注目すべきか」が重要です。ヘアデザインに大切な「バランス感覚」や「センス」って感覚的なもので、言葉にするのは難しいですよね。

 実際、僕もサロンワークや撮影において、その瞬間は感覚でやっています。それを、『LOGIC』の中ではできるかぎり論理的に伝えられるよう、工夫しました。

>>>FROM『EYE LOGIC』

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『LOGIC』には、「5つの視点」のほか、「ディスコネクション」の技法についての章、さらに、古城氏のデザイン発想プロセスについて解説したセクション(写真)がある。

――要素が細かく分解されて載っていたので、とても分かりやすかったです。初心者の方が読んでも、頭に入りやすいと思いました。

古城 ただ、解説に使う言葉選びに関しては、具体的になりすぎず、あえて抽象的な表現も残すようにしました。ロジックを学びながらも、読者の方の想像が膨らみ、さらにその言葉が頭に残るような本にしたかったからです。ぜひ、ロジックを学ぶとともに、自分なりの解釈もしていただけると嬉しいと思います。

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美容師を長く続けていくためには デザイン力が欠かせない

――『EYE』を通じて、美容業界に発信したかったこと、出版に込めた思いなどを聞かせてください。

古城 美容師にとって「ヘアデザイン」がいかに大切なものか、ということです。ヘアに、「自分にしかできないこと」や「つくり手の存在感」がどれだけ反映されているか、がとても重要。

 そして自分がつくったものを「デザイン」と呼ぶためには、クオリティが必要です。それは、クリエイションの世界だけでなく、サロンワークにおいてもそうです。美容師が、美容師として「長く仕事を続けていく」ために、ヘアデザインというものに改めて向き合う必要があると思いました。

――時代によって、美の基準は変わるようにも思えますが、そこについてはどう思われますか?

古城 もちろん、トレンドは移り変わっていくものですし、それは意識すべきものではあります。でも、どんな時代のスタイルであっても、見る人が心地よいと感じる要因、普遍的な「美しさの理由」は変わらないと思います。

 例えば、スタイリングでヘアを崩してラフさを表現するときでも、根底となる美しさを知っているか、知らないかでクオリティが変わると思います。なぜそれが美しいのかを理解していないと、トレンドが移り変わったときに、良いデザインをつくることが難しくなるかもしれません。

『EYE』で解説しているようなことを「硬い」と思う人もいるかもしれませんが、美容師にとって身近なことなんだ、と感じてくれると嬉しいです。

>>>FROM『EYE LOGIC』

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「線」の項目において、さまざまな表現方法を比較したページ。
切り口を強調したり、毛先の質感で構成したりと、表情を少し変えるだけで印象が大きく変わる。

――普遍的な美……たしかにそうですね。クリエイションの世界でも、そういったことはあるかもしれません。

古城 そうですね。最近は写真表現やメイク、衣装のクオリティがものすごく高い作品が多いですが、その反面、ヘアのクオリティが他の要素に負けていることも多いように感じます。もちろん、表現の自由ではありますし、何に比重をおくか、という選択も、1つの作品をつくり上げる上では大事です。

 ただ、美容師が表現するクリエイションという観点から見たときに、ヘアそのものが持つ力について、もっと考えたほうがいいな、と思うこともたくさんあります。そうしたことも、出版意図の1つとしてはあります。

――古城さんのように、ヘアデザインに対する鋭い「視点」を身に付けるためには、何を心がけたらいいのでしょうか。

古城 「自分で気付く」ことが大切だと思います。僕も、初めからロジックに気付いていたわけではなくて、自分がつくったものを見て「なぜこれは心地よくないんだろう?」などと、よく考えていました。

 自分の作品だけじゃなくて、他の人がつくった作品を見るときでも、「理由を探す」クセをつけると良いと思います。そして、自分がつくるときには、「最後までこだわる」ことも大切です。

――ありがとうございます。『EYE』を購入した人、気になっている人に、メッセージをお願いします。

古城 正直に言うと、『EYE』の内容を最初から全部理解するのは、難しいかもしれません。でも、ヘアデザインを何年も続けていると、あるとき、この本に載っていたことを実感する瞬間がきっとあります。

『EYE』をそうした体験のきっかけにしてくれれば。また、これからクリエイションにチャレンジしていきたい方にも是非読んでもらいたいです! サロンワークにもきっと役立つ内容だし、こういう、デザインをロジカルに追求する世界があるんだ、と知ってもらえたら、うれしいですね。

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PROFILE
こじょう・たかし/1980年生まれ。大分県出身。
大村美容専門学校(現・福岡大村美容ファッション専門学校)卒業後、
『DADA CuBiC』に入社。現在、同サロンのアートディレクターを務める。
2019年JHA大賞部門グランプリ。

書籍概要

並び

◆『EYE HAIR DESIGN LOGIC + VISUAL』
著者/古城 隆[DADA CuBiC]

『DADA CuBiC』古城 隆氏が送る、ヘアデザインに対する想いが詰まった一冊。ヘアデザインの「質」と「価値」を高めるための、視点と手法が盛りだくさん。「5つの視点」を中心に、美しさの「理由」についてまとめた『EYE LOGIC』と、古城氏の「存在感」をくまなく反映した、珠玉の作品集『EYE VISUAL』の2冊セット。

発売日/2020年12月10日(木)
定価/8,800円(本体8,000円+税10%)
判型・頁数/A4判変型
「EYE LOGIC」160ページ「EYE VISUAL」96ページ ※2冊セット

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