磯崎康一[JEWEL]遠く離れても失客しない12のポイント
1980年に創刊した『美容の経営プラン』は次号の6月号からリニューアルいたします!
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「距離が遠くなれば、顧客も通いづらくなるから、失客して当然」というのは思い込み。遠くても来てもらう仕掛けを打って失客を限りなくゼロにしよう。
解説/磯崎康一[JEWEL]
顧客を失いやすいタイミング
①顧客が転出する(顧客の移動)
②サロンが移転する、またはスタッフが他店舗に異動する(美容師の移動)
→このタイミングでの失客「ゼロ」を目指す!
転出後も「失客」しない単純な理由
そもそも、顧客が転出するとなぜ失客するのでしょうか?
もし「遠く離れて通えなくなるから」と考えたのならば、それは誤りです。正解は「美容師であるあなたが『この方は引っ越したからもう来ないだろう』とカルテを処分したから」です。言い換えると、「この方は引っ越したけれど、何かのタイミングで必ず来る」と思っていれば、失客したとは言わないのです。
こう述べると、単に現実を認めていないだけのように感じるかもしれませんが、あなたのサロンにも、例えば「引っ越してもう来ないと思っていた人が、また縁あって戻ってきて、再び通い始めた」という方が何人もいるのではないでしょうか。また、JEWELの実際の顧客にも、「普段は地元の美容室に行っているけれど、年に1回はここで切りたい」とか「海外に赴任しているけれど、現地の美容師には任せられない」という理由で来る方がいます。
そして、こうした方は、たまの来店時にはフルコースで施術を受け、ホームケア製品も大量に購入する傾向があります。つまりは「上顧客」。そういった方のカルテを処分するのは、もったいないと思いませんか?何年来なくても顧客は顧客なのです。
転出した顧客に「またいつか来てもいい理由」をつくる6つのアイデア
①転出後も定期的にDMはがきを送り続ける
DMの費用は1人1通当たり100円程度(印刷代30円強+郵便代金63円)。転出客に年2回、10年間送り続けても、1回来店すれば十分元が取れ、再び顧客になれば、2,000円で上顧客1人を獲得できるのだから、費用対効果は抜群。
②今おすすめのDMのキーワードは「(新型コロナにも)気にせずお越しください」
「新型コロナ禍でも受け入れてくれるなら、いつでも、(足が遠のいた)私でも受け入れてもらえる」という想像が働き、セーフティーネットのような安心感と信頼感も生まれる。「美容師に感染させたら…」と考えている人の心理的ハードルを下げる効果も。
③「慣れ親しんだサロンへ行き美容師に切ってもらう」という価値を提供する
1年に1回しか施術できなくても、ゼロになるよりは売上は上がる。「転居先に近い美容室での不満を発散する場」という価値を打ち出すのも一案。
④遠い人ほど「上顧客」
転勤などで遠く離れた顧客は、来店頻度こそ少なくなるが、来店する際は大きくスタイルチェンジし、ホームケア製品を大量に購入する方が多い。海外駐在ならなおさらだ。客単価の高い上顧客になりやすいカテゴリともいえる。
⑤店販品だけでもつながれる
取り扱う店販品がレア物であればあるほど、「移転先では手に入らない」と、定期的に通販を依頼してくる方も多くなる。発送の手間はかかるが、つながり続けていると、また近所へ戻ってきた際には必ず来店してもらえる。
⑥何年来店しなくても「顧客」
「この人はもう来ないだろう」と思い、カルテを処分した瞬間が、失客の瞬間。お客さまがまた来たくなったときに、いつでも、いつも通りに迎えられる姿勢を持つべき。電子カルテ化すると管理がしやすくなる。
移転・異動時の6つの注意点と失客を防ぐ仕掛け
⑦「近所だから大丈夫だろう」は大間違い
「サロンが手狭になったので移転するが、近所だから大丈夫だろう」「スタッフを異動させるが、店舗は隣駅だから顧客も付いてくるだろう」は甘い推測。「あの場所にあったから通っていたのに」「1駅でも鉄道に乗りたくない」という人は案外多い。後述する「次の店舗が待ち遠しくなる仕掛け」で移転・異動時の失客を防ぎたい。
⑧「異動先でも同じ」は勘違い
スタイリストだけ別店舗に異動すると、顧客は「いつもシャンプーしてくれた、あのアシスタントさんも好きだった」「周囲は知らない人ばかり」とアウェー感を覚え、足が遠のきやすい。顧客が1回転するまではメインアシスタントも一緒に出張させるとスムーズ。アシスタントごと異動させるのも一案。
⑨異動したスタッフの離職にも注意
いくら「異動させて経験を積ませる」などときれいごとを言おうが、異動したスタッフは顧客を失うリスクを背負わされ、実際に失客して売上が減れば、給与も減るという現実が待っているのだから、不平不満がたまりやすく、これをきっかけに辞める人もいる。給与保障なども要検討。
⑩移転・異動の通知は4ヵ月前から
特にスタッフを異動させる際は注意。辞令を出して1~2ヵ月後に異動では、顧客へ直接説明し、「次の店舗が待ち遠しくなる仕掛け」の機会を奪ってしまう。直接知らされなかった顧客の心は、別のサロンに移りやすくなる。
⑪顧客にとっての環境の違いに配慮する
店舗が違えば、顧客にとっての居心地も微妙に異なるもの。移転・異動後、前の店舗から来てくれた顧客が初来店の際は、店舗の雰囲気やセット面・シャンプー台の座り心地などについて「何か気になることはありませんか?」と尋ね、「勝手が違って申し訳ありません」とお詫びをすること。低姿勢でいると、お客さまは不満を抑えてくれ、次第に慣れてくる。
⑫最初は顧客を迎えに行く
顧客が公共交通機関で来店する場合におすすめ。あらかじめ「万が一にでも迷わないように、最初は最寄り駅からご案内するので、駅に着いたら連絡してください」と伝えておき、連絡が来たら、迎えに行ってサロンまで案内する。駅から遠い場合は自動車で送迎してもOK。
ちょっとの違いが顧客には大違い
盲点となるのが、「美容師側の転出」です。
それでも、独立して地元に戻るとか、チェーン店で違う県の勤務になるというならば分かりやすいのですが、実は「隣の駅の新店舗に異動した」とか「駅の北口から南口に移転した」というだけでも失客の可能性が高まります。なぜなら「このサロンがここにあるから通っていた」という方は案外多いからです。
そうして改めて考えてみると、「隣の駅」は問題外。商圏全体から見れば大した差はないように思えますが、「徒歩で行けるから通っていたのに」「往復の運賃が余計にかかるのは…」などの理由で通わなくなる人は結構います。
「同じ駅で出口が変わるだけ」も同様です。「会社帰りに、家へ戻る途中にあったから通っていたけれど、疲れた体で逆の側の商店街を歩くのは嫌」という人もいます。
いい物件があれば移転するのは仕方がないことですが、後述するように、顧客には「次の店舗が待ち遠しくなる仕掛け」を施すべきです。
また、複数店舗を持つサロンで勘違いしがちなのが、「系列店なのだから、お客さまは同じように通ってくれるだろう」ということ。実際には、顧客にとっては同じどころか、立地も違う、雰囲気も違う、周囲のスタッフも違う、アシスタントも違う…と、新店に入るのと同じような思いをしているのです。
そして、複数店舗を持つオーナーにぜひ気を付けてほしいのは、オーナー(会社)都合ばかりを優先させてスタッフを異動させないこと。顧客にとっては、そのスタッフの異動理由…例えばそれが「内部昇進して別店舗を任されるようになった」のだとしても、今まで通っていた店舗からは実際にいなくなるのですから、「ならば別のサロンも検討しよう」となり、異動したスタッフにとっては大事な顧客を失うことになりかねません。言い換えると、スタッフは異動によって失客リスク(=給与が下がるリスク)を負わされるのですから、フォローが足りなければ離職します。なお、顧客にとって突然の移転・異動にならないように、4ヵ月前からの告知がベターです。
最後に、「次の店舗が待ち遠しくなる仕掛け」について簡単に述べましょう。顧客は、サロンで髪を切ることだけでなく、髪を切る前や切った後の体験も含めて、サロンの施術をイベントとして楽しんでいます。つまり、移転・異動先の道のりが顧客にとってどれだけ楽しく、メリットがあるのかを想像してもらうことで、失客を防ぐことができるのです。
次の店舗が待ち遠しくなる仕掛け
顧客は、単に美容室で施術を受けることだけでなく、「おいしいパン屋へ寄って帰る」「帰り道のワインバーで1杯飲む」などと、行き帰りの道のりも含め、一つのイベントとして楽しんでいる。そこで、最寄り駅から移転・異動先までの道のりをリサーチし、その途中にある名物店・有名店などを撮影。顧客には、写真を見せながら「次のお店の近くには、途中に有名な和菓子屋さんがあるんです」「お酒好きならここは外せません」のようにプレゼンすると、顧客は移転・異動後の店舗へ通う自分の姿を想像し、楽しみになるから、失客を減らすことができる。
NG!
「ちょっと不便な場所ですが」「周囲は騒がしいところですが」などとネガティブな紹介をしても、顧客は全くわくわくできず、足が遠のきやすい。
磯崎康一
いそざき・こういち/東京・青山で1人サロンJEWELを経営。1人サロンのメリットを最大限に生かし、広告宣伝費ゼロ、値引きゼロ、キャンペーンゼロで、年2000万円を売り上げている。そのノウハウをまとめた著書『1人サロンの繁盛法則』(小社刊)が大ヒット。最新刊『店販バカ売れ100のアクション』も好評発売中。
『美容の経営プラン』2021年3月号