withコロナを乗り切る美容室経営者5つの視点/磯崎康一
東京・青山で1人サロンを構え、年2000万円の売上を実現している異端の経営者。コロナ禍にどう対峙し、自身のスタイルを貫いていくのか。/磯崎康一[JEWEL代表]
編集担当/美容界編集部 大頭 禅
1.市場リサーチは常日頃から
新型コロナウイルスの国内感染者が確認されて間もなく、マスクの品薄が社会問題に発展しました。その時既に、私は3か月分のマスクの在庫を確保していました。そのような事態が起こることは、ある程度予測できたからです。その上で、ドラッグストアに毎日通い、店内を1周りする習慣を身に付けました。そうすることによって次は何が品薄になるか、物の動きを把握してきたのです。ティッシュやトイレットペーパーの時も同様に、世の中の人が何に警戒しているかを感じ取り、また、ディーラーの営業の方にもリサーチを掛けながら、サロン営業において欠品すると困る物品の在庫を確保しました。それは買い占めではなく、営業を持続するために必要な備蓄です。流通が安定した今も、常に半年分は確保できるよう、少しずつ買い足しています。
2.自分の身を守る行動を心掛ける
緊急事態宣言の解除後、経済活動の回復へ人の動きが活発化する中で、コロナに対する警戒心も薄れ、再び感染者数が増加傾向に転じました。第2波、第3波は必ず来ると言われていましたので、私は営業再開後も決して警戒レベルは緩めていません。よほど大事な用でなければお酒を飲む場に出向くことはないですし、電車に乗った際は、濃厚接触をできるだけ避けるため座席には座らないようにしています。1人営業の私は、自分が罹患してしまったら店が完全に停止しますので、万が一を考えた行動を第一としています。
3.こんな時だからこそ張れるキャンペーン
国内の感染がピークを迎えた4月下旬、営業自粛の対象ではなかった美容サロンも、その対象とされました。そこで休業要請に従うことは、他人が設定した選択肢といえます。そんな状態から、いかにビジネスチャンスを見いだすか、経営者としての洞察力が問われるところです。店をしばらく閉じるとなった場合、その前に人が殺到するか、後からどっと人が押し寄せるか、その潮目を読んで的を絞ったキャンペーンを張るのも、チャンスの生かし方の一つです。ただそこで儲け重視の下心を見せてはいけません。例えば長期休業前であれば、来店できない期間を見据えた、多めの商品購入を勧めるなど、あくまでもお客さま本位で実施しているキャンペーンであることを強調することが肝心です。
4.安全・安心の演出は過剰なほどに
私のサロンは1人営業で、店内が密にならない個室状態ですので、新型コロナの感染が広がっても、安心であることを売りとして、店を閉める気は全くありませんでした。コロナリスクの怖さよりも、そこからお客さまを失うことを恐れたからです。予約の連絡をいただいた時も、他に予約が入っていないこと、感染防止の対策もきちんと取っていることをきちんと伝え、安心・安全をアピールしました。お客さま用の消毒液も、通常の数倍の量を惜しげもなく使い、感染防止の徹底ぶりを印象付けています。そういう演出ができるのも、消毒液の十分な蓄えがあってこそなのです。
5.常に最悪を想定して先を読む
今、サロンにお客さまは徐々に戻ってきていますが、それは自粛生活を強いられていた反動で、全体的に来店数が増えているかもしれませんが、1年スパンで見ると最終的には3割前後の減収と予測しています。市中を歩いていましても、キャッシングをする人が増えているように感じ、家計がひっ迫しているという世帯はかなり多いと思われます。そういった中で美容サロンにどれだけのお金をかけられるか。私はお客さまを気遣う体で、さりげなくリサーチをしているところですが、そこから算出する売上想定を最低ラインにしておかないと、さらに下回った時の精神的なダメージは計り知れません。
今年2月、米・ニューヨークでロックダウン起こった頃から、同じことが日本にも起こるはずと予測し、早々に融資の申し込みをするなど、コロナ対策に備えました。その甲斐あって、融資の窓口がパンク状態で資金の支給が大幅に遅れるという流れに巻き込まれず、4月下旬には、融資を受けることができました。ただ、それに手を付けるのは、どうにもならない時の最終手段と思い、まだ使ってはいません。自分には想像のつかない第2波、第3波が、新型コロナウイルスにおいては起こり得るので、冷静に数字の変化を見極めていくつもりです。場合によっては、サロンの器を縮小することも考えおりますが、そうなっても、なるべく融資のお金には手を付けないまま返済するのが、with コロナを乗り切る理想的な形だと考えています。
磯崎康一[JEWEL代表]
いそざき・こういち/ 1973年生まれ、東京都出身。2010年、東京青山に『JEWEL』を開業。翌年よりスタッフの雇用をやめ、1人サロンのメリット最大限に生かした独自の経営を実践している。著書「1人サロンの繁盛法則」「店販バカ売れ100のアクション」(女性モード社刊)がある。
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