【ドイツ語】なぜ「水曜日」は「Mittwoch」なのか?
こんにちは!
ドイツ語で1週間の曜日は次のように言います。
Sonntag(日曜日)
Montag(月曜日)
Dienstag(火曜日)
Mittwoch(水曜日)
Donnerstag(木曜日)
Freitag(金曜日)
Samstag(土曜日)
「Tag」は英語の「Day」に当たる単語で、ほぼ全ての曜日が「-tag」で終わっているのが見て取れます。
「Mittwoch」を除いては。
「Mittwoch」は「Mitte(真ん中)」と「Woche(週)」を組み合わせて出来た単語です。
文字通り「週の真ん中」。
確かに、月曜から金曜まで働く就労者にとっては、水曜日は週の折り返し地点、「真ん中」なので納得。
7日間で見た時も、日曜始まりのカレンダーを見れば、水曜日はちょうど真ん中にあります。
(1月26日追記)ですが、ドイツでは週は月曜始まりとされるので、それでは「週の真ん中」は木曜日になってしまいます。
どうして水曜だけ「-tag」が付かず、「週の真ん中」なのでしょうか?
そして、なぜ英語「Wednesday」と似ても似つかないのでしょうか?
これには、ローマ神話と、ゲルマン神話と、キリスト教が関係しています。
英語やドイツ語の曜日の名前は、ラテン語の曜日の名前がベースになっています。
ラテン語では、火曜から土曜までは以下のようにローマの神々の名前が使われていました(注1)。
日曜日 ➡ 太陽の日(diēs Sōlis)
月曜日 ➡ 月の日(diēs Lūnae)
火曜日 ➡ マルスの日(diēs Mārtis)
水曜日 ➡ マーキュリーの日(diēs Mercuriī)
木曜日 ➡ ジュピターの日(diēs Iovis)
金曜日 ➡ ヴィーナスの日(diēs Veneris)
土曜日 ➡ サターンの日(diēs Sāturnī)
この曜日名は、フランス語やイタリア語、スペイン語など、ラテン語の後裔であるロマンス諸語の多くに受け継がれています。
この曜日がゲルマン民族に伝えられた際に、ゲルマン人はローマの神々の名前の代わりに、それに相当するゲルマンの神々の名前を当てました。
火曜日(マルスの日) ➡ ティウの日
水曜日(マーキュリーの日) ➡ オーディンの日
木曜日(ジュピターの日) ➡ トールの日
金曜日(ヴィーナスの日) ➡ フレイヤの日
土曜日についてはゲルマンの神の名前は当てられませんでした。
英語ではラテン語の名前を引き継ぎ「Saturday」としました。
一方、ドイツ語ではユダヤ教の安息日である「シャバット」を採り「Samstag」としました。
興味深いことに、フランス語やスペイン語などのラテン語の子孫も、元々のラテン語名ではなく「シャバット」に由来する曜日名を今に伝えています(仏:samedi、西:sábado)。ここが英語と違う点ですね。
さて、今回のテーマは「土曜日」ではなく「水曜日」でした。
上記のとおり、「水曜日」は英独では「オーディンの日」となりました。
オーディンはゲルマン神話(北欧神話)では主神とされる神様です。
つまり、一番偉い神様だったわけです(記事の画像の御方です)。
ローマ神話の主神はジュピター(ユピテル)ですが、オーディンは旅人の守護神マーキュリー(メルクリウス)と同一視されました。そのため、オーディンの日は木曜日ではなく水曜日となったのでした。
「オーディン」は北欧神話での名前で、アングロサクソン神話ではオーディンは「ウォーディン(Woden)」となります。
「Woden's day ➡ Wednesday」です。
ドイツでは「ヴォータン(Wotan)」とか「ヴォーダン(Wodan)」となります。
そのため、「水曜日」はドイツ語でも「ヴォータンの日(Wotanstag)」と呼ばれる「はず」でした。
実際、古い表現ですが「Wodenstag」という単語があるそうです。
ところが、キリスト教会がドイツの地で布教を行い始めると、異教の神々の名前を冠した曜日の名前は厄介な存在となりました。特に、主神を祭る日は問題です。
そこで、キリスト教の宣教師たちは、ラテン語で「7つの日(=週)の真ん中」を意味する「media hebdomas」をドイツ語に訳す形で、「水曜日」の呼称を「Mittwoch」に変えたのでした。
(古高ドイツ語:mittawehha、中高ドイツ語:mittewoche)
7つの日の真ん中がなぜ水曜日になるかというと、キリスト教会では週の始まりは主の日である日曜日からとされていたためです。
「『Mittewoche』から来ているならどうして『Mittwoch』は女性名詞じゃないの?」
と思った方はご明察。
この単語、昔は「Woche」の性に合わせて女性名詞だったのです。
今は男性名詞ですけれどね。
なお、教会で使用されていたラテン語(教会ラテン語)では、曜日はどう言っていたのかと言うと、以下のように非常に規則的でした(注2)。
日曜日 ➡ 主の日(diēs dominica)
月曜日 ➡ 第2の祈りの日(fēria secunda)
火曜日 ➡ 第3の祈りの日(fēria tertia)
水曜日 ➡ 第4の祈りの日(fēria quārta)
木曜日 ➡ 第5の祈りの日(fēria quīnta)
金曜日 ➡ 第6の祈りの日(fēria sexta)
土曜日 ➡ 安息日(sabbatum)
この規則的な曜日名を現代に伝えているのがポルトガル語です。
先ほど申し上げた「ロマンス諸語の多く」に含まれない、異色な言語です。
日曜日 ➡ domingo
月曜日 ➡ segunda-feira
火曜日 ➡ terça-feira
水曜日 ➡ quarta-feira
木曜日 ➡ quinta-feira
金曜日 ➡ sexta-feira
土曜日 ➡ sábado
週の最初の日は日曜日なので、「月曜日」は「第2の日」となり、週の中に「第1の日」という名前の曜日がないのが特徴的です。
中国語の曜日名も月曜から土曜まで数字を用いますが、中国語では月曜日が「星期一」と「1日目」なのがポルトガル語や教会ラテン語と異なります。
どうしてドイツ語では「水曜日だけ」変わったのか?
なぜポルトガル語のように、教会ラテン語式に変えることは無かったのか?
と言った疑問は残りますが(私の調査不足です)、
いずれにせよ、主神オーディンの日だけは名称変更の憂き目に遭ったものの、それ以外の曜日はそのまま残った、ということは事実のようです。
ここまでお読みいただきありがとうございました!