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【英語】インフルエンザと「the flu」

こんにちは!
今、日本でも、私の住んでいるドイツでも、コロナやインフルエンザがとても流行っています。コロナ禍が一応の終りを迎え、人の往来が再び増えている中、病気の往来も増えてきています。皆様もどうぞご自愛ください。

最近英語の冠詞について、もう一度勉強しています。
冠詞に関して、以前、次の2つの本にとても感銘を受けました。

「aとtheの底力」(津守 光太 著)
「英語の複数と冠詞 ネイティブの感覚を読む」(小泉 賢吉郎著)

ただ、最近英語史関連の本、つまりは英語の専門家の本を読んでから改めてこの本を読んでみると、「ん?」と思う場所がいくつか見られます。

全体的には読みやすく良い本だと思うものの、こじつけ感のあるところや、誤解があるところも見受けられるためです。

1つ、象徴的な例を紹介します。

「インフルエンザ」を表す英語には「定冠詞」がつく、というものです。

「aとtheの底力」では、筆者は次のように書いています。

流行病にもtheを付けます。the flu(インフルエンザ)などです。このような流行病は、「今/あのとき、流行っている」のですから、話し手同士で「あの」という了解が成り立っているわけです。これがtheをつける理由です。

前掲書、p.158。太字は筆者によるもの。

病名にtheを付ける場合があります。たとえば、学級閉鎖になるような流行病にはtheを付けます。「あの、今流行っている」病気、というニュアンスです。
代表はthe flu(インフルエンザ)。「今流行っているのはA型、B型?」-流行っている「あのB型」にかかってしまうので「the」を付けます。

前掲書、p.196。太字は筆者によるもの。

どうでしょうか。
学級どころか国自体を閉鎖してしまった「コロナ」については、「I had COVID.」というように無冠詞で言います。あれはもはや固有名詞と考えて良いのかもしれませんが、上の例に従うと定冠詞をつけたくなります。

しかも、この著者がズルいなと私が思うのは、「the flu」の正式版「influenza」は無冠詞であることについて言及していない点です。

これは「英語の複数と冠詞」のほうに書いてあります。

病気の名前はきわめて複雑で、Z型、A型、T型が入り混じっているが、正式な名称の場合はZ型を使う。
(中略)
「インフルエンザ」も正式には、
I have influenza. 
のようにZ型になるが、fluという略語の場合は、
I have the flu.
とT型になる。

前掲書、p.128-129

ここで言う「Z型」「A型」「T型」とは、それぞれ、名詞が「無冠詞(=ゼロ)」「不定冠詞」「定冠詞」を伴うことを指しています。

後者の本の筆者の書きぶりで私が好きなのは、分からないところはハッキリと分からない、と書いて、無理やり説明しようとしないところです。

「ネイティブの感覚を読む」の副題の通り、「ネイティブはこんな基準で使っているのかもしれない」と、観察者の立場から本が書かれています。

上記も、「なぜ?」と言うところは説明せず、「病気の名前はきわめて複雑」だ、と言い、事例を出すにとどめています。

一方で、この本には「carpはどうして複数形にならないんだ、うーん…」と著者が悩みこんでしまい、「carpの複数形はcarpで、このパターン(単複同形)の名詞は割とありますよ」と、こちらが思わず助け舟を出したくなる箇所があって、ちょっと頼りないのです。

***

それで、最近私が読んでいる本は、英語学の専門家の書いた「英語の歴史から考える 英文法の「なぜ」2」(朝尾幸次郎著)です。

まだ前半しか読めていませんが、前半でよく出てくる「殺し文句」が「アイルランド英語」です。

アメリカは移民の国ですが、移民の中でも特にアイルランドから渡った人々が話していた英語が、アメリカ英語に色濃く残り、イギリス本土の標準英語とズレが生じている、とのことです。

そして、「インフルエンザ」はこの本の中でも取り上げられます。

病名にはふつう定冠詞をつけませんが、アメリカ英語ではつけることがあります。次は(中略)「インフルエンザ」という病名に定冠詞がついています。
(3)Hooker: I've been home with the flu all day.
フッカー:おれはインフルエンザで一日中、家にいたんだ。
                                                                                     -映画Sting (1973)
 イギリス英語では定冠詞をつけないwith fluのほうが一般的です。アメリカ英語に見られる定冠詞のこの使い方もアイルランド英語由来とされます。

前掲書、p.44-45

つまり、「flu」に「the」が付くのは、流行病だからでも略語だからでもなく、「イギリスの標準英語とは異なるタイプの英語がアメリカに伝わったから」というわけです。

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いかがでしょうか? どれが一番しっくりきたでしょうか?

私は最後の「アイルランド英語由来」という説明が一番しっくりきました。

「じゃあなんでアイルランド英語では『the』をつけるの?」という疑問は不思議と抱かず、「なるほど、だから定冠詞については常に例外が付きまとい、統一的な説明はできないのか」と一人で納得してしまいました。

英語史は、英語を理解するときの補助線の1つとしてとても役立ちます。

とはいえ、語学の最終目標は「使えるようになる」ことで、「謎を解明する」ことではありません。

語源なんて知らなくてもネイティブは母語を使えています。
逆に、使えるようになるために役に立つのなら、語源や英語史の知識も役に立ちます。

いや、それどころか、「正しい知識」じゃなくても、使えるようになるならこじつけだって良いわけです。
受験勉強の時に、語呂合わせで年号や古文単語を覚えたように。

結局は、それぞれの学習スタイルに合わせた説明を探すのが一番!
とは言え、一番はやはり大量にネイティブ表現をインプットすることです!

ここまでお読みいただきありがとうございました!