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【ドイツ語】形容詞の変化の「例外」

更新が暫く空いてしまい、失礼いたしました。

今回はドイツ語文法に関する疑問について書こうと思います。

具体的には、形容詞の変化についてです。

なお、形容詞の変化については結構前(4年前)に書いた記事があるので、ご参考になれば幸いです。多くの方に読んでいただき有難うございます!

今回は、冠詞がつかない場合の形容詞の変化を見ていきたいと思います。
冠詞が付かない、つまり不定冠詞もつかないわけですから、数えられない名詞の場合です。

それも、かなり限定して、単数・3格の場合です。
それも男性名詞と中性名詞にかかる形容詞に限られます。
その形容詞の数は2つかそれ以上です。

・・・めちゃくちゃ限定するな、と思った方もいらっしゃるかもしれません。本当にこんな限られた場合だけに見られる、一見「文法間違い」に思えるものがあるんです。

例えば、

nach langem heftigem Streit 

のように、2つの形容詞が名詞の前にある場合。
普通は、どちらの形容詞も「-em」で終わりますよね。
これについては何の疑問もありません。

ところが、

nach langem parlamentarischen Streit

のように、なぜか2つ目の形容詞の語尾が「-en」となる場合があるのです。

まるで1つ目の形容詞「langem」が冠詞の役割をしているかのよう

なぜに「nach langem parlamentarischem Streit」じゃダメなのでしょう?

最初は、誤植かな?と思いました。
ですが、「2つ目の形容詞の語尾が『-en』」という例をあまりに多く見かけるので、流石にこれは出版社の誤植ではないと思い、ドイツ語の先生に訊いてみたものの、「そんなはずは無い。誤植だ」の一言で片づけられてしまいました。

それ以来10年近く、これは私の中で解けない謎となっていました。

ところが、最近になってこの謎がドイツ人の同僚のお陰でようやく解けたのです。この場をお借りして改めて感謝申し上げます。

これは誤植ではなく、正しい使い分けなのだそうです。
鍵となるのは「形容詞が何を修飾するか」だそう。

①1つ目と2つ目の形容詞が並列関係で、それぞれが名詞を修飾する場合、形容詞の語尾は1つ目も2つ目も「-em」となる。

②2つ目の形容詞が名詞とともに「意味のかたまり」を作っていて、1つ目の形容詞がこの「意味のかたまり」全体を修飾する場合、形容詞の語尾は1つ目は「-em」となり、2つ目は「-en」となる。

抽象的なので、敢えて日本語の例を挙げてみましょう。

①大きく新しい車 
②大きい新しい車

この2つの違いは何でしょう?

①の場合は、「大きい(大きく)」も「新しい」も「車」にかかっています。形容詞なのだから名詞を修飾するのは当たり前なのですが、重要なのは形容詞どうしの関係です。「大きい(大きく)」と「新しい」は並列の関係にあります。そのため、「新しく大きい車」と順番を入れ替えても意味は同じです。

一方、②の場合は、「大きい」が修飾しているのは「車」ではなく「新しい車」という「意味のかたまり」です。「大きい新車」と言い換えても意味は変わりませんよね。これは「新しい」が「車」と一緒になって1つの意味のかたまりを作っているからです。順番を入れ替えて「新しい大きい車」というと、「新しい」は「大きい車」を修飾することになり、意味が変わってしまいます。

では、ドイツ語の例に戻りましょう。

nach langem heftigem Streit 

この場合、「langem」と「heftigem」は並列の関係にあります。「langem」も「heftigem」も修飾しているのは同じ「Streit」ですね。そのため、意味としては「長く激しい争いの後に」です。
順序を入れ替えて「nach heftigem langem Streit」と言っても意味は変わりませんね。

nach langem parlamentarischen Streit 

一方、こちらの場合は「parlamentarisch」と「Streit」で「議会の争い」という1つの意味のかたまりを作っています。「langem」が修飾しているのは「Streit」ではなく「parlamentarischen Streit」というかたまりなのです。意味は「長い議会の争いの後に」となります。
順序を入れ替えて「nach parlamentarischem langen Streit」と言うと意味が変わってしまいます(「議会の長期戦の後に」)。

もう一組、今度は「Licht(明かり)」を使った例を挙げましょう。

③mit hellem hartem Licht    明るく強い光
④mit hellem elektrischen Licht 明るい電気の光

この場合もやはり、
③の場合は「hellem」と「hartem」はそれぞれ「Licht」を、
④の場合は「hellem」は「elektrischen Licht」を修飾していますね。

③の場合は形容詞の順序を入れ替えても意味は同じですが、
④の場合は順序を入れ替えると意味が変わってしまいます。

この修飾・被修飾の関係を明確にするための工夫が、一見すると文法規則から外れているように見える現象の正体だったのです。

なお、形容詞の並列関係や上下(従属)関係に、コンマのあるなしは関係ないようです。

mit hellem, hartem Licht と書いても良いし、
mit hellem, elektrischen Licht と書いても良いようです。

なお、冒頭で触れたように、形容詞どうしの関係が並列か上下かということを気にして変化形に揺れが見られるのは、形容詞が「単数3格の男性または中性名詞に来る場合」だけのようなのです。

確かに、他の格だったり、女性名詞や複数形の前では形容詞は教科書通りに変化しています。私が今まで「ん?」と首を傾げたのも、単数3格の男性または中性名詞の前に来る形容詞の場合だけでした。

不思議なものです。

ちなみに、ドイツ語では、

並列関係にある場合の形容詞の変化(屈折)のことを「Parallelflexion」
上下関係の場合の変化のことを「Wechselflexion」と呼ぶようです。

この現象についてもっと知りたいという方は、このキーワードで調べられると色々と情報が見つかるかもしれません!

今回の記事の作成は以下のサイトを参考にしました。「Streit」と「Licht」の例文も同サイトから引用させていただきました。ご関心のある方はご一読ください。

ここまでお読みいただきありがとうございました!!🍀

【画像】Chris Spencer-Payneさま【Pixabay】