さまよえるフランス語学習
私がドイツ南西部のフライブルクの大学に留学したときのことです。
正規入学するには、1年目が終わるまでに「自身の専攻に関連する2つの外国語の語学力証明を出すように」と言われました。
私の場合、別に正規学生ではなく交換留学生として2年在籍しても全く問題が無かったのですが、なぜか正規学生でないと他の学生から見て自分は特別扱いされることになるのではないかと思いまして、真面目に悩んだわけです。
ちなみにこの「外国語」は、母語でもドイツ語でもない言語。つまり、ドイツに来たばかりの私は、早くも英語、ドイツ語に加えてもう1つ、自分の専攻に関連する言語を学ぶ必要に迫られたのでした。
その時点で私はスペイン語や韓国語、フランス語を学んだことがあったのですが、韓国語は西洋近現代史という私の専門とはまず無関係。スペイン語もドイツとのつながりがあまりないとなると、残るはフランス語しかない。
こうやって以後10年以上経っても一向に解決を見ない、私の不毛な「ロマンス語の悩み」問題のパンドラの箱が開いてしまったのでした。
さて、肝心の専攻に必要な言語能力については、結局「韓国語が一応使えます、証明もあります」とダメ元で先生に言ったら、「ん、じゃそれで良いよ」と言われて解決。形式的な話でした。
しかし時は既に遅し。私はフランス語とスペイン語とイタリア語の勉強を開始してしまっていたのです。
ちょっと待て、なぜイタリア語?
フライブルクに来る前、私はミュンヘンの語学学校でイタリア人学生と知り合い、人生で初めて耳にしたイタリア語のあまりの美しい響きに、イタリア語を学ぼうと決めていたのでした。
それ以降、私の学習が続いたのはフランス語だけです。
イタリア語は、ローマに旅行に行った際に、あまりローマで良い思いをしなかったので、イタリアからの帰国とともに教材を棄てました(過激)。
スペイン語については逆に、旅行するたびに「またこの国に来たい。言葉を学びたい!」と心に決め、文法書まで買ったものの、結局1ページも進まずに古本屋に出す始末(棄てるよりかマシ)。
それで残ったのがフランス語なのですが、フランス語は「難しい」「聞き取れない」「話せない」などぶつくさいいながらも今まで続けてきました。
ただ、フランス語をいくら学んでも自信が一向に得られません。
2019年にDALF C1を取得しました。DELF/DALFの良くて悪いところは、100点満点中わずか50点で合格扱いされることです。
そのため、ダメ元でC2を受けたら、ひょっとしたらひょっとするかも?と思うこともあるのですが、実体の伴わない資格を集めたところで自分が虚しいだけです。
そのため、ことあるごとに「フランス語、やめようかなあ・・・」と悩み、「よし、やめよう」と決めた翌日に起きてすぐにフランス語を読んだり聴いたりする、という、なんとも煮え切らないことを続けています。
そもそもなぜ学ぶ必要があるのか?
昔は国際関係に関わる仕事をしていたので、フランス語を学ぶことはどこかで自分のキャリアに役立ったかもしれませんが、今はそうでもありません。
ましてや、火付け役となった留学時代はとうの昔に終わっています。
理由は、ドイツ語があまり広く使われていない言葉であり、英語以外にもう1つ話す地域の多い言語を学びたいこと、そして自分が昔から夢見ていた「ポリグロット」を自称するには、日本語を含めて4つの言語は使えないといけないんじゃないか、という変なこだわりがあることです。
(あれ、韓国語は・・・)
フランス語は昔の外交言語でしたし、欧州の中央にあるドイツから陸路で旅行できる隣国の多くはフランス語を話しています。役に立たないこともない。
何より、ドイツにいると周りの母語話者のほうが当然ドイツ語が私よりも上手で、英語だって彼らのほうが流暢です。そんな中、彼らにとっても私にとっても外国語である「第3の言語」、それもドイツ人も苦手とするフランス語で自分の力を試してみたくなった、というのが大きな理由の1つです。
しかし今となってはそんな理由なんか関係なく、ただサンクコスト(埋没費用)にこだわってしまっているだけだと思います。つまり、今までの努力を無にするのが勿体なくて、結局始めたことをやめられずにダラダラ続けてしまっている状態です。
あの留学から既に12年が経ちました。確かにC1や仏検準一級は取得し、級としてはそれぞれあと1つでコンプリートですが、ここに来て自分の自信の無さを強く感じています。
12年勉強した割には、私のフランス語の語彙力・表現力はとても低いです。特に私のフランス語の語彙力の9割は英語の語彙力によって支えられていると言っても過言ではないくらい、フランス語独自の語彙に対する知識が浅い。
妙なことに、フランス語は出来るようにならないという変な自信があるのです。しかし、だからこそ、「苦手克服」のためにもっと続けたい。あと少し、あともう少し頑張れば、自信がつくようになるのではないか?と。
よく、私の中でフランス語に代わるものとして候補に挙がるのがスペイン語です。スペイン語のほうが発音は簡単だし、文法的にも分かりやすい。この言語だったら自分の自信につながるかもしれないし、フランス語の基礎があるから上達の進度も速いに違いない。
しかし、じゃあスペイン語に変えよう、と思ってもなかなか続かないのです。どうしても「フランス語の代わり」みたいな、スペイン語に対して失礼な扱いをしてしまいそうな気がするためです。
一方、イタリア語も美しい言葉でかつ複雑な文法を備えた言語で、私にとって魅力満点の言葉なのですが、「広がり」という面でどうしてもその他2言語と比べて見劣りがしてしまう。
しかし、ロマンス諸語を全く学ばない、という選択肢は何故か取れない。
私にとって一番肌に合う言語はドイツ語であるにもかかわらず、です。
ゲルマン系の言葉のほうが私は馬が合うのですが、
なぜか馬の合わないロマンス諸語に妙な執着心を抱いている。
さて、どうしたものか。
この不毛すぎる悩みに多くの時間とお金を割いてきてしまい、肝心のドイツ語が疎かになるという笑えない事態が起きています。
しかもこれが10年以上続いているのです。いくら趣味とは言え、長すぎる。
もう10年以上勉強しているのに、話すことさえロクにできないこの言語。これに費やした労力を別のところに注ぐことができていたら、何かを大成させることだってできたはずです。
なので、そろそろ「損切り」の時期なのではないかと思います。
しかしその一方で、「あともう少しやれば伸びるんじゃないか」とか
「語学は人生をかけた勉強だから、最後まで続けた人が伸びるんです」
という考えにも囚われています。
C2の受験料は230ユーロほど。
半分の得点で合格できるとは言え、生半可に受けられる金額ではありません。しかも、仮に合格できたとしても、名目上の実力が認められるだけで、実質的にはまだまだ私の力はC2には遠く及びません。
でも、今から言語を切り替えるというのもなあ。。。
と、正に典型的なサンクコストの罠にはまっているのでした。
結局これからもこうやってフランス語をダラダラと続けていくのだろうな・・・と思っています。
こういう悩みを抱えていらっしゃる方は他にもいらっしゃるのでしょうか?
長くなりましたが、お読みいただきありがとうございました!
【画像】Rodrigo Pignattaさま【Pixabay】
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