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U20世界選手権は見えないものとの戦い⁈

 まもなくコロンビア・カリで開幕するU20世界陸上選手権大会の男子3000m障害に、城西大学1年の大沼良太郎が日本代表として出場します。どこまで戦えるか楽しみですし、多くのことを学んできてほしいですが、今回は大会が開催される環境について考えを述べたいと思います。コロンビア・カリは標高1100mあたりに位置しており、長い間、高地トレーニングや低酸素トレーニングを研究し、現場で実践してきた私にとって、大いに興味をそそられる大会でもあるのです。

 今では高地トレーニングは長距離ランナーのような持久性競技者のみならず、瞬発系などあらゆるスポーツにおいて活用されています。私が高地トレーニングを本格的に学び始めた2001年、雑誌『トレーニングジャーナル』に山地啓司先生が執筆された特集記事がありました。
 そこには古くから”高地トレーニングの始まりは呼吸循環器系の疾病を持つ患者や肥満の人を対象に歩くなどの歩行療法として行われていた”、と記されています。しばらくの間スポーツでの研究には発展しなかったようですが、1959年にあるアメリカの研究者による研究で、投てきや跳躍、短距離種目では高地の影響をあまり受けないものの、陸上や水泳の中長距離種目の成績は著しく影響を受ける、と報告があり、メキシコシティー(標高2200m)とメルボルン(標高30m)での陸上競技の成績が比較され、短距離種目の記録は高地の方が低地よりも優れ、800m以上の競技では距離が長くにつれてその逓減率が大きくなることが明らかにされました。

 なぜ短距離種目は記録がよくなるのでしょうか?それは高地では気圧の低下により低地よりも空気抵抗が少なることが理由です。
 逆に800m以上の種目では、気圧の低下による空気抵抗の低下よりも、体内に酸素が取り込みにくくなる影響が大きくなり、パフォーマンスが低下します。かなり前から、高地で開催されるレースでは高地トレーニングは不可欠であるという結論が導き出されています。
 今回のカリの会場は標高約1100mの準高地ですが、気になるのはどのくらいの標高から身体とパフォーマンスに影響を及ぼすかです。その記事によると、標高500m〜600m位から大きく影響を受けると記されています。これは箱根駅伝5区で言うと定点カメラがある場所でお馴染みの箱根小涌園あたりの標高とほぼ同じです。箱根5区はその傾斜による負荷に加え、実は微妙に気圧の低下が進むことによってもランナーの足を前に進まなくしているのです。
 私たちのように低地で生活し、トレーニングしている中長距離種目の代表選手たちは、今回のU20世界選手権はこの目に見えないものとの戦わなくてはならず、苦戦を強いられるでしょう。東アフリカのケニアやエチオピア、ウガンダなどの標高が2000m辺りの高さで暮らし、トレーニングをしている選手に大きなアドバンテージになることは容易に想像できます。

ケニア人ランナーのトレーニング場所の多くは標高2000m前後(一番左はビクター)

 しかし日本にもカリに近い標高800mほどの位置に暮らし、トレーニングをしている長野県佐久長聖高校があります。言うまでもなく高校長距離界の名門で、トラックや駅伝でその強さを誇っていますが、この環境面も強さを支える要因のひとつと言えると思います。今回、3000mと5000mの代表に選出された吉岡大翔選手は、その佐久長聖高校の選手です。高い走力を備えているのはもちろんですが、標高が比較的近い環境に身体が適応している理由から、私は大いに期待しています。

 もちろん本学の大沼良太郎も低酸素環境によるトレーニングで対策をしてきました。自然環境ではありませんが、酸素が取り込みにくい環境で身体を慣らすことで対応力を高めてきました。レースを想定したトレーニングも取り入れたので、今現在の力が発揮できるよう願っています。

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 低地で活動する長距離陣にとっては厳しい戦いは必至ですが、日の丸を胸に世界を肌で感じて、今後の競技に役立てられる何かを掴み取ってきて欲しいです。
 頑張れ「良太郎!」

参考文献
月刊トレーニング・ジャーナル
2001年8月号(通巻262号)


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