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日本人がメジャーで成功することがいかに偉大であるか。日ハム入団・加藤豪将選手の言葉から。


2022年の野球シーンを振り返ることの一つに、高校を卒業後にMLBドラフトでヤンキース2位指名を受けた加藤豪将選手のメジャー初安打が挙げられます。プロ入りして10年目にしてようやく果たした夢舞台での初安打でした。

それにしてもすごいですよね。10年目にして初のメジャー昇格を勝ち取り、初ヒット。これ、僕のサロンモデレーターと話題になったんですけど、普通に考えたら10年間も1軍の経験がない選手がプロ野球選手として残っているというのが日本では考えにくいんじゃないかって思うんですよね。

日本は育成においてやっぱり急かされるというか。メジャーには30球団あるっていう利点もあるんですけれども、10年待ってくれるというシステムがあるのはすごいことだと思います。地道に積み上げていくことを許してくれる。

加藤選手のようなケースが乱発するわけではありませんが、かなり年月がかかっても大丈夫なぐらいの余裕を持って人が育つのを待ってくれるというのがメジャーリーグっていう世界なんだなっていうのが改めて思いました。

日本だと3、4年1軍経験ないと、もうクビになってしまうわけじゃないですか。もちろんアメリカでも、2、3年でクビになる人はいますけど、これだけ、時間かけてきた選手がメジャーに上がれて、そして結果を残せたのはすごいことです。

そんな加藤豪将選手に関しては昨年、インタビューをさせてもらいました。本当幸運でした。加藤選手のツイッターが面白いし、インタビューしてみたいなという話をNumberWebに持ち掛けたところOKが出てオファーを出してくれて実現しました。

これが良かった。単にアメリカ生まれの、アメリカ育ちの日本人メジャーリーガーが生まれたという誰でもわかるような単純な話ではなくて、彼だからこそ感じる、日本とアメリカの違いが非常に興味深かったし、面白いなというふうに思いました。

環境変化の対応力こそスーパースター


その中で彼が言ったのは、環境の変化がある中でどれだけ結果を残すかという話でした。

日本では報道などで「メジャーは過酷だ」。「マイナーは過酷だ」という報道がされますよね。その際、ランチはハンバーグばかりだとか、バスの長距離移動がきついとかという話題になるじゃないですか。

確かに過酷だと思います。10何時間もバスに揺られて試合をする。食事も毎回カップ麺みたいなのばかり。加藤選手も今思い返すと当時はすごいものを食べてたなとか、すごい生活をしてたなって思うらしいんですよ。

ただ、そう思いはするけれど、今改めて思うのはその環境の中で自分がどれだけできるかっていうのはもう一度やってみたいみたいなと言うんです。

つまり、どういうことかというと、メジャーリーグで成功するイコール、確かに技術が必要、投手なら「球が速い」野手なら「遠くに飛ばせる」、「守備が上手い」「足が速い」などそういう要素は確かに必要なんですけども、もっとそれ以上に大事なのはその環境の変化にどれだけ対応できるか、これは過酷だ、きついという状況がありながらもいつも通りできるかなんですよね。


例えば開幕ゲームが本拠地だったら、そこに合わせて試合できるわけじゃないですか。そこで結果を出すだけなら難しくないかもしれない。しかし、そこだけじゃなくて、いろんな状況の中で試合がある。長距離の移動がある過密日程がある。しんどい、誰もが嫌だっていう苦しい状況下においてもいつも通りを出せるかどうか。大事なのはそこなんだというのが加藤選手の話でした。

これはなるほどなって思いました。過酷だ、過酷だって言うけどそれを乗り越えてこそメジャーリーガーであるということなんですよ。「メジャーは過酷だから挑戦するのはやめなさい」ということじゃなくてそれをみんな経験して乗り越えていく。それができる選手こそスーパースターって言われるんですよね。

加藤選手がマイナー9年間で積み上げてきたのは何かっていうのはそういう環境の変化があっても変わらないパフォーマンスを発揮できる選手になるっていうことだったんですよね。彼は今期までに3チームを渡り歩いてきていた。

ヤンキースにいて、マーリンズに移籍して、パドレスに移った。今季の最初はブルージェイズにいて4球団目だった。球団が変わって野球のスタイルが違う、さらに言えばリーグによっても野球が異なる。そういう中で、同じように結果を残していかないといけないとシーズン前から覚悟していました。

それを意識していたからこそ立派にメジャーデビューを果たせたんですよね。取材の中でこんな話もしていました。

「過去に戻って10何時間のバス移動で試合に出たくないと自分は思っていたけど、今、もう一度やってみたいって思う。そこで自分がいつも通りできるかみてみたいんです」

つまり、メジャーリーグで成功するというのはそういうことなんですね。どんな状況でもタフに戦えるかどうか。

だからね、安易に日本人選手のメジャー挑戦を「失敗」という言葉で片付けちゃいけないと思うんですよね。

今年でいうと、秋山選手や筒香選手が苦労してました。打率1割台とかで、そのうち、秋山選手の日本球界に復帰しましたけど、それだけすごいところでやっていたということを理解してあげないといけない。

「ベースボール」と「野球」は違うんですよ。環境がかなり違う。これはどちらが良くて、どちらが良くないという話ではなくて、それだけプレイヤーとして求められているものが異なるということです。

だから、語学はもちろん文化が違う、考え方が異なるというところに日本で成績を残してるからと言っても、環境に対応するってすごくリスペクトするべきことなんですよね。

大谷が果たしていることは想像を絶する


加藤選手も言ってました。日本からマイナーを経験せずに来て、メジャーで活躍する選手を見てどう思いますかという質問にこう答えました。

「僕はずっとマイナーで過酷な環境を経験してきて、対応できるようになって慣れてきましたけど、日本から来た選手たちはその経験をせずにいきなり順応しないといけないので、相当に大変だと思います。だからメジャーで成功する日本人選手って本当にすごいと思いますし、大谷選手がやっていることってのは本当に想像できないくらいのことなんです」

加藤選手の話を聞いていて思ったのは、「何がすごいのか」「何を持ってリスペクトされているのか」を理解することなんじゃないかなと思います。

冒頭にサロンのモデレーターの話をしましたけど、実は彼にはマイナー経験があるんですね。そんな彼と「〇〇選手はダメだったね、メジャーで通用しなかったね」って安易な表現するとよく怒られたものでした。「メジャーで活躍することがどれだけ過酷なことをわかってますか」。それを知ってからそういう話をしてくださいと言われたことがありました。加藤選手のいうこととすごくつながっていて、すごく納得感がありました。

来季は千賀選手や吉田正尚選手がメジャーの舞台で戦います。スタートが良くて、尻すぼみになったり、あるいは逆だったり、離脱したり、いろいろすると思うんです。それはもちろん、彼らだけでなくて、すでにメジャーにいる選手たちも同様です。

そんな時に「あいつダメだな」ではなくて、野球とベースボールの違いに順応しようともがいているんだな、頑張れ!とそういう目で温かく見守ってあげましょう。高額契約を結べば、それだけメディアの批判の対象になりかねませんけど、日本人としては彼らの応援団でいたいですね。

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