先日にじゃがいもを植え終えた畑を横目に、青いコンテナを持ち上げる。 「重いな……」 中身はカボチャ。ごろごろとした緑色の野菜は、水分が多いためか数が揃うとなかなかに重量がある。 肌寒くなったとしても、身体を動かせばそれなりに汗はかく。気持ち悪さはそこまでないが、慣れない農作業で土も被ってしまったので風呂に入りたい。 舗装されてないあぜ道をえっちらおっちら歩いていると、間延びした声が聞こえてくる。 「よっちゃ~ん、ありがとうねぇ」 バタバタと歩いてるのか走
芋 昨日降った雨のせいか、自転車をひく道路はいつもより水気がある。残暑はまだ続いていたが、昨日よりは気温が下がり、幾分過ごしやすくなってきた。 自転車をゆっくり漕ぐと、道路を囲んだ田畑から色で例えて青い――いわゆる草の匂いが漂って気分が滅入る。 すこし前までは夜中にカエルの大合唱。日中はそこら中に虫、虫、虫。犬だって放し飼いする田舎。そんなところに突然放り込まれれば、当然草の匂いも嫌いになる。 親の都合に振り回されてしまう、そんな子供でいる自分も嫌いだ。
祭り 僕は祭りが、嫌いだ。 まずガヤガヤうるさい。何をそんなに騒ぐことがあるんだ。 そして、暑い。じめじめした日本の夏は、夜になったからと言って急に涼しくなるわけがない。地熱と湿度で汗が噴き出て不快この上ない。 あと花火。 でかい音を響かせて高く飛ぶなんて、目立ちたいやつが好きそうなものだよな。 昔のパリピが考案したんだ。絶対。 親から『焼きそば買ってきて』なんて言われなかったら、こんなとこに来てない。 その親からスマホを人質にとられていなければ、
ぬいぐるみ 俺は、間違えたかもしれない。 「先輩、これ、受け取ってください!」 「あ、ああ。ありがとう篠田くん」 人生には選択肢がある。 例えば今――昼休みの中庭で、目の前にいる後輩の女の子が差し出すこの包みを『受け取らない』という選択が、あるはずだ。 「え、えと。今日って何かあったんだっけ?」 だが、しかし。疑うことを知らないような、綺麗な瞳で俺を見るその子は、さも当然のように答える。 「やだなぁ。先輩とお話しして、今日でひと月じゃないですか。記念
紙飛行機 大きな川と土手を臨む橋の上。口を硬く結んだ少年――ヒロキが自転車を止め、ランドセルから紙飛行機を取り出した。 手に持ち、思い切り投げる。そこに書かれた文字を、その言葉を遠くへ飛ばすように、思い切り。 ヒロキの手から離れた紙飛行機は、風に煽られ思っていた軌道を描かず、真っ逆さまに土手へと落ちていった。 紙切れ一枚。持っているのも嫌だったそれを、わざわざ取りにいくつもりはヒロキにはなかった。 だが――。 それが落ちた場所には、だれかが横たわっていた
ペストマスク 「やあ遠藤くん、おはよう」 聞きなれた声。ガタゴトと騒がしい電車の中、すこしくぐもっているが聞き覚えのあるその声に僕はすぐ反応した。 「高崎先輩、おは……」 振り向いたそこは、学校内でも美人で有名な高崎先輩。――高崎先輩なんだが、その綺麗な顔はそこにない。 スカートから伸びたすらっといた脚も、制服から伸びた真っ白で透き通る肌も、長い黒髪も、高崎先輩のものだとわかる。 わかるのだけれど。 「どうした、遠藤くん。挨拶は大事だぞ。しっかりとな」
眼帯 「ねー、目、どうだった?」 坂道を自転車を押して歩く俺の隣から、高い声がする。 「一応なんともないってさ。ちょっと腫れてるだけだと」 「ふーん」 眼帯で見えづらくなった片目――右隣りを向くと、興味なさそうに前を向いた幼馴染がいた。 まとめた長い髪を上下させながら、手ぶらで坂を登っている。 一応声はかけてるから多少の心配はしてるんだろうけど、生返事がすぎる。 目のケガをした時――いつものように帰ろうとしていた矢先に、飛んできたボールが当たった時だっ
目が覚める。 (あ、やべ) 右奥に広がる黒板の数式が、自分の記憶よりも多く書かれていた。 少し寝てしまっていたらしい。 教壇の数学教師は、多く喋らず、チョークで図形を描いていた。 首をめぐらす。 隣の男子生徒は俺と目が合うと、何事もなかったように視線を前方へ。 寝てる俺に気づいて起こしてくれればいいのに。 (まあでも、そんなもんか) 大してしゃべったこともない俺にそんな義理、ないか。 曲がりなりにも進学校。授業中に寝てる俺が悪いってことか。
セミの鳴く声が、変わっていた。暑さを示すアブラゼミの声から、ヒグラシのものへ。 その瞬間はわからないが、日差しの角度が、青色のバス停ベンチへ朱を落としていた。 「もう六時か」 すこし野太い声。浅黒く日焼けをした腕で、シャツを仰いで風を送っている。空いた手には、水色のアイスが握られていた。 「まだ明るいじゃんね」 老朽化した板屋根がかろうじて作った日陰にもう一人。 少年と同じアイス――二つ割りだったものの片割れを持った少女がいる。 短めにそろえた髪と、日に
よく人とぶつかりそうになる。 向こうから歩いてくる人と同じ方向に避けてしまうアレのことです。 あっ、こっちじゃない、あっまた同じ方に避けちゃった……、ていうアレのことです。 僕は心の中で『立ち会い』と呼んでいる。剣豪同士が向かい合って先の後やら後の先やらとる感じのやつ。 前までは、相手に対し(なんでこっちくんねん、危ないやろ……)と心で悪態をついていたのだが。 今日、その考えを改めないといけなくなってしまった。 駅構内、サラリーマン風の男と立ち会
今日(6/26)はずっと眠かった。 それもすべては、銀河英雄伝説を見てしまったからだと思う。深夜に。それから日が昇っても見ていて出勤して帰ってきて見て寝てしまった。 わかってはいたが中毒性が高すぎる。 ぼく自身が初めて銀英伝に触れたのは小学生のころ。少し年の離れた兄が見ているのを横で見ていた。 兄がそもそも銀英伝大好きだったのもあるが、御多分にもれずにぼくも好きになった。 見ていると自分が頭良くなった気がするのでおススメです。 そういえば初めて読んだ
皆さんは、ズボンのチャック、しまってますか。 ぼくは、その、だいたい開いてて……。 違うんです、閉めるんですよ、履いた時は。 あ、いや履いた時だけじゃなくて。お小水した時も閉めるんです。 閉めるんですけど開いてるんです。 ちょっとだけとか。半分とか。なんか途中で閉める手が止まっちゃって。 慌ててるんですかね……。 そのちょっと開いてるのが、自重で開くんです。 だからその、ほんとごめんなさい。 あなたの目の前でつり革持ってたその男は、わざと開
腹が出ている。 散々言っているのでもはや周知の事実としたい。 会社の数人のおじさんが、すれ違い様にぼくの腹を触ったりする。結構な割合で。 「いやぁすごいね〜」 「はぁ、まぁ」 恐らくというか、確定で褒められてないパターンのすごいね、には生返事だ。努力して得られた結果でもないし。 というかあんたらあれか、デブのツレの乳揉むやつか。中学くらいの時にやったやつ。 「おお〜こいつ巨乳やど〜」 「や、やめろや〜」 のやつ。ぼくは揉まれる側でした。 とい
今日は健康診断があった。 ざっくり町医者で実施なので、サクサク終わる。 どれくらいざっくりかと言うと。 聴力検査と称して持ち込まれるのが、四角い横開きのカバン。 その中には昭和の象徴のような古めかしい機械群。 「ピーって聞こえたら押してね」 齢70ほどのお爺さん医者が震える手つきでカバンから渡すのは、くちゃくちゃにコードが絡んだ年季のはいった手押しスイッチ。そしてこれまたくちゃくちゃのコードがついた、オモチャみたいなヘッドホン。 いつから使ってん
こんばんは。 日記と称したこれ。 さんざん前振りを効かせているので、すでに感づいている方もいるかもしれない。 毎日更新する気はないです。 気楽にやりたいのもあったので、まさに息抜き程度。 そして、続かない続かないと言っておいたこともありますので、急に終わったりもできる。 『完璧な布石。さすがです。感服いたしました』 ぼくの脳内副官(女性)も眼鏡クイッして賛同しています。 副官といい感じになるやつ、あるよね。 ほら、ヤン・ウェンリーとか。 新城
もう書くことがない。 やっぱり続かない。そんなもんです。 続かないで思い出すことがひとつ。 ぼくも昔は習い事なんかをしていた。 唯一の習い事。 それはそろばん教室。 そのそろばん塾を、結果としてやめた。 「おかん、わしもうそろばんやめるわ」 そう言ったのを覚えている。 そろばん塾の先生は、母の友人。そして姉の同級生の母親でもある人だった。 今でいうママ友である。 そこに通っているのだから、やめるのは具合が悪い。 それはわかる。 ちなみに