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分子生物学者が考えるがん治療の問題点とこれから(5)

 がん治療において何を食べるべきかを考えさせてくれる2つの本を紹介します。

 まず、Michael Pollanの巻頭言がこれです。

 Eat food. Not too much. Mostly plants.

 西欧食に対するアンチテーゼであり、基本的な考え方は自然界の食物連鎖です。"YOU ARE WHAT YOU EAT EATS TOO" つまり、私たちのからだは私たちが口にするものが食べたもので出来ていると。私たちの食べ物がどのように育てられたかまで気にする必要がある、確かにそのとおりだと思います。

 Eat food:foodとは採れたままの食べ物を意味します。人間の手が加えられたものは食べ物ではなく工業製品、人間が食べるものではないと。基本的に袋に入ってコンビニで売られているものはすべて人間が食べるものではありません。食べてもいいのは、人口肥料や抗生物質や遺伝子改変によって大量生産された野菜ではなく、有機栽培され畑から取れたままの野菜、穀物と抗生物質まみれで養殖された魚ではなく、海から採れたままの天然魚、ホルモンや人工飼料によって工業製品として製造された動物の肉ではなく、自然の草を食べて放牧された牛や豚や鶏のそのままの肉、これだけです。もともと栄養価が乏しいprocessed food(人工食品)に健康に良いとされる栄養素を添加して更に人工的な食品を作る行為をGyorgy Scrininisが ”nutritionism”(栄養主義、栄養還元主義、栄養素偏重主義)と呼んだのだそうです。栄養価が優れた自然食品(whole food)には敵わなという意味で批判的に使われます。具体的なアドバイスとしては、馴染のないもの・読み方が分からないもの・5つ以上の混合物・高フルクトース(果糖)のコーンシロップ(HFCS甘味料)を避ける、健康食品を謳うものを避ける、スーパーの壁際の食品を買う(中央に陳列されているものは避ける)、出来るだけスーパーには行かない(ファーマーズマーケットで生産者から直接買う)。
 Mostly plants:葉野菜を食べる。ビタミンCなど抗酸化作用を持つ物質は光合成が行われる葉っぱに多く、カロリーが比較的少ないので過剰摂取になりにくい。ビタミンB12は肉から摂取しなければならないので、肉を食べる必要はあるが、工業生産された肉を大量に食べるのは恐らく良くない(飽和脂肪・オメガ6脂肪酸・成長ホルモン・発がん性物質)。牛や山羊だけでなく鶏や豚も、穀物ではなく草を食べて育った方が肉、ミルク、卵に良質な脂肪(オメガ3が多く、オメガ6や飽和脂肪酸が少ない)が含まれる。雑食(omnivore)を心がける。健康な土地で栽培された有機野菜を食べる(抗酸化物質・フラボノイド・ビタミンが豊富)。野生の野菜、野生の動物またはグラスフェッドの牛や放牧豚・鶏、天然の魚を食べる。マルチビタミンのサプリを摂る。日本食や地中海食(フレンチ・イタリアン・ギリシア)、インド料理のような伝統的な料理を食べる。伝統的ではない食べ物は用心する。伝統的な料理に魔法のような効果を期待しない。夕食にグラス1杯のワイン。
 Not too much:高い食材を少なく食べる。食事を摂る。食卓で食べる。一人で食事しない。自分の腸の言うことに従う。ゆっくり食べる。自分で調理し、出来れば庭で野菜を育てる。

Michael Pollan, In Defence of Food, An Eater's Manifesto, Penguin Books, 2008

 次はテニスプレーヤー、ジョコビッチの本から。Pollanの本と重なることが多いです。

ジョコビッチが食べている食品

肉・魚・卵・鶏・七面鳥
:1日に少なくとも1回か2回は食べている。赤身は魚や鶏肉にし、脂は出来るだけ落とす。魚は養殖ではなく天然のもの。肉なら牧場で草を与えられた牛と平飼いの鶏を。
低炭水化物野菜:葉野菜や茎野菜(ブロッコリー、カリフラワー、いんげん豆、アスパラガス)は1日のうちいつでも食べられる。根菜類、瓜、かぼちゃはデンプンと炭水化物が多すぎるので夕食には避ける。
果物:糖分を摂りすぎないよう控えめに。あらゆる種類のベリーを食べている。
穀物:キノア(アンデス高原原産のアカザ科)、そば、玄米、オート麦を食べている。
ナッツと豆類:アーモンド、くるみ、ピーナッツ、ひまわりの種、かぼちゃの種、ブラジルナッツ、ピスタチオ。
健康的なオイル:オリーブオイル、ココナッツオイル、アボカドオイル、亜麻仁油のみ使う。
豆果:ひよこ豆、レンズ豆、黒豆、いんげん豆。
調味料:マスタード、ワサビダイコン、酢、ホットソース、ワサビ、サルサが良い。糖分を加えすぎた調味料を避ける。
ハーブとスパイス:いろいろな食事に取り入れて使う。

Novak Djokovic, Serve to Win: The 14-Day Gluten-Free Plan for Physical and Mental Excellence, Bantam Press, 2013

 イタリアでプレーしていた長友佑都選手が体力に限界を感じていた時、ジョコビッチの本を読んで食事に気をつけるようになり、セミケトジェニックダイエットを実践しました。ケトン体の方がブドウ糖よりエネルギー効率が高いので、90分間フルに走り回れるように体質改善することに成功したそうです。ふたりともアスリートなので糖質の厳密な制限はしませんが、人間の体にとってどのような食材が健康に良いかということに思いを馳せている点で、がんの食事療法にも参考になると思います。がん患者は何を食べても良いと言っているようではorz


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