春の花火
高円寺駅南口の商店街を抜け、新高円寺に向かうアーケードにその店々はあった。隣在する「ワンデーショップ 高円寺店」と「モリタクリーニング」である。
当然の面持ちで横並ぶ両店。
ここで一先ず、横並びの可能性について言及したい。
家族経営なのか、はたまた幼き日に「クリーニング屋さんになろうね。」と硬い契りを交わし合いそれが実現した姿なのか。後発の店はどんな顔をして看板を設置したのだろう。それを迎える店はその晩、食卓でどんな会話をしたのだろう。
例えば、近所に住む30代の主婦がワンデーショップを利用していたとする。その息子(陸)が小学校に進級するタイミングでモリタクリーニングの次男(悠太)と同じクラスになる。母に連れられた陸がワンデーショップを後にした時、モリタクリーニングの店奥で遊ぶ森田悠太の姿を横目で確認し、目が合う。
翌朝、陸と森田悠太が教室で顔を合わす。
昨日目を合わせた時よりもよそ行きでの顔をお互いが確認する。初めはぎこちなかった距離感も次第に埋まり程なくして二人は仲を深める。二人で遊んだ帰り道、森田悠太は店まで続くアーケード街の色の付いたタイルだけを、浮いた足取りで踏んで家路に着くだろうか。
また、ワンデーショップには学年が一つ上の由唯が暮らしており陸は密かに想いを寄せている。今後訪れるであろう三角関係にはまた後日言及したい。
もうすぐ今年も花火が上がる。
高円寺の商店街から花火が見えるかは分からないが、
打ち上がる音がどこからか聞こえ店を出た両店の従業員の瞳はどんな色をしているだろうか。すべての想いを洗い流してくれそうな大きな花火が今年ももうすぐ上がる。
本作において、モリタクリーニングの上に無造作に干されたそのTシャツが本作品のアンチテーゼ的な役割を果たしていることは言うまでもない。